100円玉を4枚入れて、撮影タイムに入ったが、初めてのマリアはおどおどしていた。
「こ、これ。一体何が起こるの? 何か3Dみたいな感じで飛び出てくるのかしら?」
「そんなわけないだろ……ただ、撮影するだけだ。精々がフラッシュぐらいだ」
経験者である俺が説明する。
するとマリアは安心したようで、胸を撫でおろす。
「な、なるほどね……」
いざ撮影が始まっても、俺とマリアはピクリとも動かない。
機械が『次はこのポーズで撮ろうね』なんて、可愛らしい声で指示を出すが。
それを聞いたマリアは「何が楽しいの? 嫌よ」と一蹴する始末。
ピースもしないで、無表情の男女が二人でパシャパシャ撮られるだけ。
一体、俺たちはなにをやっているんだ?
もうあと一枚でラストってところで、マリアがこう呟いた。
「やっぱり……なにか思い出を作りたいわ……」
「え?」
頬を赤くして、俺の目をじっと見つめる。
強きな性格のマリアにしては、言葉に力がない。
そして、どこか恥ずかしそうだ。
「ポ、ポーズを……とりましょ」
そう言って、小さな手を俺に差し出す。
「なにをするんだ?」
「私。こういうの……分からないから、手を繋ぐことぐらいしか、思いつかないわ」
「え……」
言われて、ガキっぽい発案だと吹き出しそうになったが。
それは10年前の小学生だったらの話だ。
完全に大人になったマリアと……“女”になったこの子と手を繋ぐ?
正直、アンナともろくに手を繋いだ記憶がない。
あの積極的なアンナですら、一緒に手を繋いで歩くことなんて、なかったような……。
つまり、これって初めての出来事では?
うう……“初めて”にこだわるアンナさんが知ったら、どうなることやら。
とりあえず、マリアの小さな手のひらに触れてみる。遠慮がちに。
彼女も緊張しているのか、汗で湿っているのを感じた。
お互い、視線はカメラのまま、ギュッと手を握り、肌の感触を黙って味わう。
意外と柔らかいんだな……マリアの手。
そんなことを考えていると、撮影タイムは終了。
撮影ブースからお絵描きブースに移動する。
モニターに映し出された写真は、どれも似たようなものばかり。
唯一、アンナの時と違うものといえば……。
二人で頬を赤くして、手と手をぎこちなく握っている写真。
何ていうか、付き合いたてのカップルのようだ。
肝心の落書きはなにもしないで、マリアはすぐにプリントを選択する。
「だ、大事なのって……タクトとの思い出だから」
と頬を赤くして。
なんだか妙に女の子らしいな、今日のマリアは……。
見ているこっちが恥ずかしくなりそうだ。