エントランスから出て、ジーパンのポケットからスマホを取り出す。
ひなたの家にいる間はスマホを起動できなかったからな。
昨晩、アンナが梶木をウロウロしていたことも、気掛かりだ。
マンションから出て、アンナに電話をかけようとした瞬間だった。
付近の階段に人影を感じた。
華奢な体型の女?
長い金色の髪は首元で2つに分けている。
セーラーカラーのワンピースを着て、階段に腰かけている。
心なしか、背中がぶるぶると震えているように感じた。
こちらに気がついたようで、振り返る。
「あ……た、た、タッくん」
歯をカチカチと鳴らしながら、笑うのは……。
「アンナ! お前、なにやってんだ! こんなところで!」
思わず叫んでしまった。
急いで、彼女の元へと走る。
肩に触れてみると、服越しとはいえ、冷えきっていた。
長袖のワンピースを着ているが、既に11月も近い。
朝は冷え込む。
「た、た、タッくん……お、おはよ☆」
ニッコリと笑って見せるが、元気がない。
顔は青ざめているし、小さな身体は震えっぱなし。
「どうしたんだ、アンナ。まさか、一晩中ここで俺を待っていたのか!?」
「うん☆」
「……」
ヤンデレにも程がある。
※
とにかく、冷えきった彼女の身体を暖めるため、俺は近くの自動販売機で、コーヒーとカフェオレを買ってきた。
ホットの方だ。
甘いカフェオレは、アンナに飲ませて。
俺用に買ったブラックコーヒーは、飲まずに彼女の頬にあててあげる。
「あったか~い☆」
なんて喜んでいるが……。
俺は彼女の行動力に震えあがっていた。
どうやって、ひなたの自宅を特定したんだ?
その疑問を彼女にぶつけてみると……。
「え? ひなたちゃんの家? アンナ、一週間ぐらい前から梶木を歩き回っていたんだ☆」
「そ、それで……どうやって分かったんだ?」
「商店街のおばあちゃんとか。パン屋のお姉さんに、『ショートカットの女子高生来てますか?』って一軒ずつ尋ねたの☆」
探偵かよ。
「それだけで、ひなたの自宅がわかったのか?」
「うん☆ ひなたちゃんがよく行ってる、ペットショップがあってね。そこの店長がよく餌とか配達してるから、住所をコソッと見てきちゃった☆」
きちゃった☆ じゃないだろ……。
普通に犯罪だし、ストーカーだ。
アンナは特に悪びれるわけでもなく、むしろ誇らしげに語る。
「でもね。ちゃんと約束は守ったでしょ☆」
「え?」
「宗像先生に『お互いの取材を邪魔したらダメ』って言われたから、マンションの中には一歩も入らなかったよ☆」
「……」
俺ってそんなに信用できないのかな?
「ところでさ。なんで、ただの取材が泊りがけになったの?」
ずいっと顔を近づけて、笑う。
しかし、目が笑ってない。
怒ってるよ……その証拠に、エメラルドグリーンの瞳から輝きが消え失せてるもん。
また、いつもみたいにブラックホールのような底知れない闇を感じる。
「あ、あの……動物と泊ってきただけです」
「どんな?」
「ヘビです……」
「なんで、動物と泊るの? それって取材なの?」
「はい。一応、取材です……」
「一応ってなに? あとタッくん。お風呂入ってない? 石鹸の香りがプンプンするよ。誰と入ったのかな☆」
もう許して!
俺はこのあと、彼女に弁解するのに、数時間を要した。