日曜日、ひなたに言われた通り、俺は梶木駅で降りて彼女を待つ。
 駅の前には、大きな鳥居がある。
 なんで、駅舎に建てられたのかは知らんが……。
 きっと近くに『梶木宮(かじきぐう)』という古い神社があるからだろう。

 スマホで時刻を確認すれば、『10:40』
 約束の待ち合わせ時間より一時間近く遅れているぞ。
 駅の前で一人立っているのもしんどい。

 だって、民度が高い梶木の人間たちが目の前を歩いているからな。
 着ている服もブランド物が多いし、高々商店街に買い物へ行くだけなのに、洒落た格好しやがって……。

 俺の地元、真島なんて、おばあちゃんばっかだぞ!

 と、地域差に憤りを感じていると、足音が近づいて来た。
 その方向に目を向けると、一人の少女が嬉しそうに走っている。
 
 デニムのミニスカートに白のニットセーターを着た活発そうな女子。
 トップスに合わせて、足元も同じく白のスニーカーだ。
 ボーイッシュなショートカットには、カチューシャをつけている。
 シンプルなデザインで、色はブルー。
 これもデニムに合わせたものか……。

 偉く気合の入ったファッションだと、上から下まで眺める。
 すると、その女の子に肩を思い切り叩かれる。

「も~う! センパイ! なに人のことジロジロ見ているんですかぁ!」
 言いながらも満面の笑みだ。
「いや……なんか今日はいつも違うなと思ってな」
 俺がそう言うと、ひなたは頬を赤らめる。
 身体をくねくねさせて、「ホントですか」と俺の顔をチラチラ見る。
「ああ。その頭、髪飾りだろ? 普段は何もつけてないじゃないか」
「か、髪飾りって……センパイ、ホントにおっさん臭いですね!」
 恥じらったと思えば、怒り出す。
「すまん。俺にはよくわからんが、似合ってると思うぞ」
「え……」
 目を丸くするひなた。
 そして、俺に小さな声で囁く。
「良かった」

 何が良いのか、サッパリ分からない俺は首を傾げる。
「どうした? 慣れない髪飾りをつけて、偏頭痛でも起きたか?」
「もう! 最っ低!?」
 そして、一発ビンタを頂く。
 な、なんで……?

  ※

 ひなたは怒って俺を叩きはしたが、終始ご機嫌だった。
 梶木の街を案内してくれ、「この店、最近オープンしたばかりなんです」と嬉しそうに紹介する。
 セピア通りを曲がり、キラキラ商店街を抜けて、国道3号線に出た頃。
 海辺の近い梶木浜が見えてきた。

 ここ最近、高層マンションが多く建設されたこともあって、民度は高くなるばかり。
 要は金持ちが住む街ってことだ。

 つまり、ひなたもそのセレブの娘。
 だって目の前にそびえ立つ高層マンションが、それを物語っているもの。
 見上げるけど、最上階が下からじゃ見えない。
 ひなたが言うには、42階建てらしい。
 そうまでして、天空の城に近づきたいのか……。

 マンションに入ると、まるでホテルのような広いエントランスが見えた。
 そして、しわが1つもないピシッとした制服を着用した若い男性が、奥に立っていた。
 カウンターの後ろで、礼儀正しくお辞儀する。

「赤坂様、おかえりなさいませ」

 どう考えても、このお兄さんの方が年上だと言うのに。
 頭を下げられたひなたは、軽く手を振る。

「あ、ただいま~」

 マジで、この子。お嬢様だったの?