長浜の苦労話を聞いた俺は、しばらくハンカチが手放せないでいた。
 よし、なんだか可哀そうになってきたから、ちゃんと取材して自伝小説を書いてやろう。
 俺はぬるぬるアンナ動画計画のため、長浜はおばあちゃんの家を改築するための第一歩として。
 盛りに盛りまくってやろう。
 両親は二人とも遊び人で浮気しまくり、金に汚いやつらで、長浜を虐待する鬼畜。
 しかし、唯一彼女を守り育ててくれたのが、貧乏な祖母。
 うむ。これなら芸能人とか関係なく、小説に興味を持ってくれるかもしれない。
 ただ、今後彼女を可愛いアイドルとして見られなくなるだろう。
 可哀想なアイドルとして応援される。
 特に老人なんかに好かれるかもな。

   ※

 応接室のドアが2回ほどノックされた。
 扉を開いたのは先ほどの控え目なアイドルの一人だ。
「あ、あの……あすかちゃん。そろそろお仕事しないと納期に間に合わなくなっちゃうよ」
 か細い声で遠慮がちに話す。
 どうやら、俺に緊張しているようだ。
「例の仕事のことね! わかったわ、今行くわ!」
「あ、ありがと……あすかちゃんの分が一番多いから私たちだけじゃ、捌けなくて……」
「フンッ! 当然よ! なんせアタシがグループのセンター! 人気ナンバーワン! この前のグラビアもアタシがソロで何枚も特集されたほどだもの!」
 この我の強さがなければ、もうちょっと可愛げがあるんだけどな。
「そ、そうだよね……あすかちゃんはボンキュッボンで美人だし……」
左子(ひだりこ)! あなたも磨けばアタシに近づける素質あるんだから! がんばりなさいよね!」
「わ、私なんかじゃ……」
 ていうか、この子の名前。左子っていうのか。
 改めて見ると確かに芸能人らしくない風貌だ。
 長浜と同じ黒髪で統一しているが、おかっぱのショートヘアで前髪が長いため、目が見えない。
 芸能人と言われなければ、どこかそこら辺を歩いている一般人に見える。
 うーん……この芸能事務所。大丈夫か?


 俺は応接室に残って早速文字起こしを始めようとしたが。
 長浜が「まだ取材は終わってない」「今日は一日密着しなさい!」
 と相変わらずの上から目線の命令。
 ため息を吐いて、ノートパソコンを閉じた。
 
 応接室から出て、入口近くの大きなテーブルに通された。
 彼女曰く、滅多にお目にかかれないアイドル活動を見ていけるのだから、感謝しろとのこと。
 絶対にしないけど。

 テーブルの上には、大量のCDが山のように重ねられていた。
 先ほどの左子ちゃんともう一人の大人しい子が、なにやらディスクケースに小さなカードを一枚一枚入れ込む。
 気になった俺は「なにを入れているのか?」と尋ねてみた。
 すると、二人が声を合わせて答える。
「「と、特典です」」
 息がピッタリだ。
 しかしも左子ちゃんの隣りにいる子も同じ黒髪のおかっぱ。
 なんか双子みたい。
「特典? あれか? 握手会のチケットとかか?」
 すると二人は顔を真っ赤にさせて、両手をぶんぶんと振って見せる。
「?」
 黙り込んでしまう彼女たちを不振に思った俺は、近くにあったカードを1枚手に取ってみた。
「うっ!?」
 思わず変な声が出てしまう。
 ただのカードじゃなかった。

『あすかちゃんが普段履いている生下着♪ 13/500』

「……」
 絶句してしまう俺氏。
 それを見た長浜が胸の前で腕を組み、自慢げに語り出す。
「フンッ! さすがガチオタね! それはレアカードよ! アタシがパンツを500枚にハサミでちょきちょきしてバラバラにしたのよ! どうやら欲しくてたまらないようね! 特別にタダであげるわ!」
「長浜……お前のおばあちゃん。この仕事のこと知っているのか?」
「は? 知らないわよ?」
「そうか……このことだけは知らせないであげてくれ、な」
「?」
 ここまで育ててくれたおばあちゃんを泣かせたらあかん!
 寿命を縮めてしまうがな。