散々な昼食タイムだった。ひなただけだが……。
また彼女のテンションが下がってしまい、
「私ってなんか厄日なんですかね?」
と嘆くので、俺は再度も盛り上げるために、今度は動物たちと身近に触れ合えることができる屋外エリア、かいじゅうアイランドを勧めた。
アザラシやペンギン、イルカなどにエサをあげたり、自身の手で触れるという、動物好きからしたら、たまらないイベントも用意されていると聞く。
それを提案すると、ひなたは大喜び。
「あ、私。そこ大好き! 早くいきましょ!」
どうやら、気分が上がってきたようだ。
※
地下のレストランから一階にあがり、水族館の一番奥へと進む。
暗い館内を歩くこと数分後、ようやく明かりが見えてきた。
かいじゅうアイランドは、屋外に建てられた円形の二階建てのプールだ。
二階でエサを買い、水面からニョキッと顔を出すアザラシに食べさせることができる。
と言っても、ポイッとトングで魚を放り投げるだけのなのだが。
「うわぁ、可愛い~!」
かれこれ、3回もエサを買ってはアザラシの鳴き声に喜ぶひなた。
しかし、あれだな。
アザラシの鳴き声っておっさんみたいだな。
「うごおええ!」
なんて、クレクレするんだから。
アザラシにエサを与えて満足したひなたは、次は「一階へと降りたい」と言う。
先ほどのアザラシおじちゃんたちは、基本エサをあげる時以外は、水面下の深いプールで泳いでいるからだ。
らせん状のスロープを下っていくと。
所々に小さな窓があり、そこから泳いでいるアザラシが見える。
時折、ぬおっと顔を出してくれて。
「アハハ! 可愛い~」
とひなたは手を叩いて喜ぶ。
アザラシを堪能したあと、一旦外に出て、次は反対方向にあるペンギン達を観に行く。
よちよちと歩いて、スタッフのお姉さんと戯れている。
「センパイ、一緒に写真撮りましょ!」
「おお……」
ひなたがスマホを取り出し、自撮り棒を向けてペンギンたちを背景にパシャリ。
「やったぁ! センパイとペンギンさんたちの写真撮れたぁ! これって激レアじゃないですか?」
「え、なんでだ?」
「だって、センパイってこういう所、一人じゃ来ないでしょ? 多分、私が誘わなかったら、一生撮れない写真でしょ♪」
「そ、そうか?」
なんだろ。軽くディスられた気が……。
最後は、イルカと一緒に記念撮影が出来るプールに行ってみた。
かなりの人気ぶりで、カップルや家族連れで賑わっている。
俺たちも行列に、並んでみる。
「センパイ、ここで撮影するの初めてでしょ?」
「ああ、子供の頃に来たが、こういうのはやらなかったな。ていうか記憶が曖昧だ」
「ははは! やっぱりセンパイっておっさんくさい! 撮る時にイルカさんに触れるんですよ♪」
「ほう。それはなかなか経験できないことだな」
ていうか、いちいち人をおじさん扱いすな!
俺たちの番になった。
イルカは水面から出てきて、プールサイドで大人しくスタンバっている。
隣りにスタッフのお姉さんが座っていて、無賃労働のイルカさんに報酬として、小魚をあげている。
床は水でかなりヌルヌルしていて滑りそうだ。歩くたびに転んでしまいそうになる。
俺もひなたもペンギンのように、よちよち歩きで慎重に進んだ。
やっとのことで、イルカとご対面。
俺がイルカの背中側、ひなたは頭を撫でている。
「きゅ~」
なんて声をあげている。
『早く終われや。わし、疲れとんじゃ』
ていう意味なのだろうか?
ひなたはスタッフの人にスマホを渡し、撮影をお願いする。
俺もイルカの背中に恐る恐る触れてみる。
柔らかい……そして、僅かだが鼓動を感じた。
「では、一枚目いきますよ~ 彼氏さんもこちら向いてくださ~い!」
スタッフにそう言われて、視線を戻す。
ひなたが「ピ~ス!」なんて言うので、俺も一生懸命、笑って見せる。
「はい、チーズ! あ、もう一枚いっときましょう! お二人ともスタンバイいいですか?」
「あ、は~い! センパイ笑って笑ってぇ~」
「に~!」
なんだか作り笑顔していると、歯ぎしりしているみたいに感じる。
二枚目の写真が終わり、撮影した写真をひなたが確認し「よく撮れている」と満足していた。
記念撮影も無事に終わったので、俺たちはプールサイドから出ることにした。
次の客が待っているし。
俺はひなたが転ばないように手を繋いで、アシストしてみる。
「センパイ、優しい……」
こういう待遇に慣れていないひなたは、相変わらず頬を赤くしていた。
二人して歩いていると、次の客とすれ違う。
ハンチング帽を被り、サングラスにマスク姿。夏だというのにトレンチコート。
「あ」
思わず、声に出る。
こいつ……ひなたを押した犯人じゃないか?
そう思った時、もう全てが遅かった……。