※
小学校の林間学校心霊写真事件が起こってから、半年ほどが経った時、写真で僕の隣に写っていた女の子が事故に遭った。後方から走ってきたトラックが運転を誤り、通学途中だった彼女を撥ね飛ばしたのだ。
賢明な治療により、彼女は一命を取り留めた。しかし、右肩から下の腕を失った。さらには、神経の損傷で、下半身に麻痺が残った。
後のことは想像通りだ。
「おい! リッカ! お前のせいなんじゃねえの?」
みんなで、女の子に千羽鶴を折っている時、一人の男子が僕にそう言った。斬りつけるような声だった。
「あの写真の霊が、カホちゃんを怪我させたんじゃねえのか?」
「……知らないよ…」
彼が、事故に遭ったカホちゃんに恋をしているということは、クラスの誰もが知ることだった。彼は泣いていた。そりゃそうか、自分の好きな女の子が右腕を失い、一生歩けない身体になったのだ。小学生の心には受け止めきれない衝撃だ。
男子は目にいっぱいの涙を浮かべ、僕に掴みかかった。
「てめえのせいだろ! カホちゃんがああなったのは!」
強い力に引っ張られ、僕は床に叩きつけられた。
周りで見ていた女子が、甲高い悲鳴をあげた。
少し遅れて、教卓の前で鶴を折っていた先生が駆け寄ってくる。
「こら、何をしているんだ!」
「先生! コイツのせいですよ! コイツが、林間学校で変な幽霊を拾ってきたから! その幽霊が、カホちゃんを呪ったんだ!」
男子は床の上で唸っている僕を指して言った。
普段は温厚な先生だったが、その日は言葉を詰まらせながら怒鳴った。
「こら! 何を言っているんだッ! そんなわけないだろう!」
そんなわけない。
先生の言葉が教室に響き渡る。
先生は男子の首根っこを掴むと、教室の外に引っ張っていって、こっぴどく叱っていた。風船が張り裂けるような怒鳴り声が、教室の中にまで響いてきた。
何人かの生徒が僕に駆け寄り、「大丈夫か?」って言って、立たせてくれた。
「リッカ、気にすんなよ? あいつ、カホちゃんのことが好きすぎて、いっつも詰め寄っているようなやつだから、お前とカホちゃんが、同じ班で一緒になったことを妬んでたんだよ。だから、さっきのもそんなもんだよ」
「……うん」
僕の写る全ての写真に黒い影が写った。
僕の隣に写っていたカホちゃんが事故に遭った。
それだけ、「心霊的証拠」的なものが揃って置きながら、クラスのみんなは優しかった。「気にするなよ?」「関係ないよなあ」「大丈夫だって!」って励ましてくれた。今までの行いがよかったからだと思う。
自分で言うのもなんだが、僕はクラスのみんなに好かれていた。
隣に立っていた男子が、僕の背中をバシバシと叩いた。
「ほら、千羽鶴作ろうぜ? カホちゃんのために」
「うん、そうだね」
僕は泣きそうになるのを堪えながら頷いた。
冷静に考えてみて、あの影は僕の写真に写り込んでいる。それが悪霊か呪いの類ならば、僕が被害に遭わなければおかしかった。だから、カホちゃんの事故は偶然。宝くじに当たるような、天文学的な確立に当たったに過ぎなかった。
あれから、一部の男子や女子には気味悪がられ、陰口も叩かれたが、ほとんどの友達が味方になってくれた。「お前はおかしくない」って言ってくれた。本当に嬉しかったのを覚えている。
僕は小学六年生に上がり、事故にあったカホちゃんとは別のクラスになった。
新しいクラスでも、僕は仲間に恵まれ、みんな、あの時の変な噂なんて気にせず、と言うか忘れて、楽しい時を過ごした。休み時間は馬鹿やって、放課後になると一緒に遊んで、小学生ながら、「この時がずっと続けばいい」って、かけがえのない日々を噛み締めていた。
そして、秋に修学旅行があった。そこで、またあの心霊写真が撮れてしまったことは言うまでもない。
小学校の林間学校心霊写真事件が起こってから、半年ほどが経った時、写真で僕の隣に写っていた女の子が事故に遭った。後方から走ってきたトラックが運転を誤り、通学途中だった彼女を撥ね飛ばしたのだ。
賢明な治療により、彼女は一命を取り留めた。しかし、右肩から下の腕を失った。さらには、神経の損傷で、下半身に麻痺が残った。
後のことは想像通りだ。
「おい! リッカ! お前のせいなんじゃねえの?」
みんなで、女の子に千羽鶴を折っている時、一人の男子が僕にそう言った。斬りつけるような声だった。
「あの写真の霊が、カホちゃんを怪我させたんじゃねえのか?」
「……知らないよ…」
彼が、事故に遭ったカホちゃんに恋をしているということは、クラスの誰もが知ることだった。彼は泣いていた。そりゃそうか、自分の好きな女の子が右腕を失い、一生歩けない身体になったのだ。小学生の心には受け止めきれない衝撃だ。
男子は目にいっぱいの涙を浮かべ、僕に掴みかかった。
「てめえのせいだろ! カホちゃんがああなったのは!」
強い力に引っ張られ、僕は床に叩きつけられた。
周りで見ていた女子が、甲高い悲鳴をあげた。
少し遅れて、教卓の前で鶴を折っていた先生が駆け寄ってくる。
「こら、何をしているんだ!」
「先生! コイツのせいですよ! コイツが、林間学校で変な幽霊を拾ってきたから! その幽霊が、カホちゃんを呪ったんだ!」
男子は床の上で唸っている僕を指して言った。
普段は温厚な先生だったが、その日は言葉を詰まらせながら怒鳴った。
「こら! 何を言っているんだッ! そんなわけないだろう!」
そんなわけない。
先生の言葉が教室に響き渡る。
先生は男子の首根っこを掴むと、教室の外に引っ張っていって、こっぴどく叱っていた。風船が張り裂けるような怒鳴り声が、教室の中にまで響いてきた。
何人かの生徒が僕に駆け寄り、「大丈夫か?」って言って、立たせてくれた。
「リッカ、気にすんなよ? あいつ、カホちゃんのことが好きすぎて、いっつも詰め寄っているようなやつだから、お前とカホちゃんが、同じ班で一緒になったことを妬んでたんだよ。だから、さっきのもそんなもんだよ」
「……うん」
僕の写る全ての写真に黒い影が写った。
僕の隣に写っていたカホちゃんが事故に遭った。
それだけ、「心霊的証拠」的なものが揃って置きながら、クラスのみんなは優しかった。「気にするなよ?」「関係ないよなあ」「大丈夫だって!」って励ましてくれた。今までの行いがよかったからだと思う。
自分で言うのもなんだが、僕はクラスのみんなに好かれていた。
隣に立っていた男子が、僕の背中をバシバシと叩いた。
「ほら、千羽鶴作ろうぜ? カホちゃんのために」
「うん、そうだね」
僕は泣きそうになるのを堪えながら頷いた。
冷静に考えてみて、あの影は僕の写真に写り込んでいる。それが悪霊か呪いの類ならば、僕が被害に遭わなければおかしかった。だから、カホちゃんの事故は偶然。宝くじに当たるような、天文学的な確立に当たったに過ぎなかった。
あれから、一部の男子や女子には気味悪がられ、陰口も叩かれたが、ほとんどの友達が味方になってくれた。「お前はおかしくない」って言ってくれた。本当に嬉しかったのを覚えている。
僕は小学六年生に上がり、事故にあったカホちゃんとは別のクラスになった。
新しいクラスでも、僕は仲間に恵まれ、みんな、あの時の変な噂なんて気にせず、と言うか忘れて、楽しい時を過ごした。休み時間は馬鹿やって、放課後になると一緒に遊んで、小学生ながら、「この時がずっと続けばいい」って、かけがえのない日々を噛み締めていた。
そして、秋に修学旅行があった。そこで、またあの心霊写真が撮れてしまったことは言うまでもない。