中学の時に、体育を担当していた先生がこんなことを言っていた。「どんなにすごい指導者でも、どうすることもできないものがある。それは何かわかるか? 『身体的特徴』だよ」と。
もしあの言葉が、親御さんの耳に届いていたなら、多分、問答無用で教育委員会が出動することになっていただろう。実際、「そんなことは無いよ。努力をすれば、身体的特徴だって乗り越えて強くなれるんだよ」と、、陰で反論するやつもいた。
僕は先生のその話を聞いて、「ごもっともだ」と思った。
子供が生まれるには、まず、親が性交渉をして子供を作る必要がある。その時、減数分裂によって、父親の精子、母親の卵子に遺伝情報が伝えられ、それが受精することで、妊娠する。
受精卵は、父親と母親の遺伝情報を半分ずつ受け継いだということになる。マレにある突然変異は放っておいて。生まれてくる子供は必ず、親の特徴を引き継いで生まれてくるものなのだ。
だから、背の低い親から生まれた子供が、高身長になる望みはない。ブサイクな顔の親から生まれてきた子供が、美形になる望みはない。
背が低いやつがバスケットボールをしてみろ。ブサイクな女が、「アイドルになりたい」と言ってみろ。そこには、圧倒的な「不利」と言うものが存在する。
身体的特徴…、体質とは、基本的にどうすることもできず、生まれてから死ぬまで、一緒に付き合ってやらなくてはならない存在なのだ。
自分が「周りを不幸にする体質」と気づき始めたのは、小学校五年生の頃だった。
小学五年生の秋の日。
学校に登校すると、教室がやけに騒がしかった。
入って見れば、教室の一番後ろの壁に、先日行った林間学校の写真がびっしりと掲載されていた。僕は「お、やっと届いたんだ!」と思い、鞄を自分の机の上に放り出して張り出された写真に駆け寄った。
すると、林間学校で一緒の班だった女子が、他の女子に囲まれてしくしくと泣いていることに気づいた。
なんで泣いているんだろう? と思いながらも、話しかけられるような雰囲気ではなかったので、そのまま壁の写真を見上げる。
ええと、僕の写真は…。と、目を泳がせ、それを発見したとき、僕は愕然とした。
それは、僕とあの女の子が、炊けた米の飯盒を持って肩を並べている写真だった。
満面の笑みを浮かべる僕の肩に、墨汁を垂らしたような影が染み付いていて、それはまるで手を伸ばすようにして、隣の女の子の方に伸びていた。
それだけじゃない。
僕がウォークラリーで、楽し気に山を散策している写真。僕が、カヌー体験でひっくり返りそうになっている写真。僕が、キャンプファイヤーの前で一興している写真。僕が映り込んでいる写真全てに、墨汁のような影が映り込み、まるで生きているかのような、生々しい形となっていた。
「よお、リッカ、お前の写真、やべえな!」
男子の友達が、にやにやと笑いながら僕の肩を掴んだ。
その時、僕の魂は何処かに抜けていて、「ああ、そうだな」と、ぼんやりとした返事をすることしかできなかった。
心霊写真。
今までに何度も、そう言った類のものが撮れたことがあったが、こんなふうにくっきりと写るのは初めてだった。
僕たちが騒いでいるところに、担任の先生が入ってきて、「授業始めるから、席につけ!」と言った。だが、みんなが「やばいやばい!」と言い合い、黒い影に肩を掴まれそうになっている女子がシクシクと泣いていたり、僕がぼーっとしていたりするのを見て、怪訝な顔をした。
先生は「どうしたんだ?」と近づいてくる。
男子の誰かが、「先生! これ!」と、壁に貼り付けられた心霊写真を指す。
それを見た先生の顔がさっと青ざめた。
「どうして? 誰がやったんだ!」
先生は最初、僕の写真に映り込んでいる黒い影が、悪意のある誰かが、黒い墨汁で塗ったものだと思ったらしい。すぐに写真を壁から剥がし、爪で引っ掻いて剥がそうとした。しかし、それが本当に「映り込んでいるもの」に気づく。そして、また青ざめた。
「どうして…? 業者に頼んだ時は、こんなもの写っていなかったのに…!」
心霊話あるある。最初は映り込んでいないが、現像してしばらく時間を置くと現れる。
その日は、学校中大騒ぎだった。
黒い影は僕の写真に写り込んでいるというのに、女子の何人かは「呪われる!」と喚き、泣いた。男子は面白がって、僕に「呪われたな!」「ドンマイ!」と、心無い言葉をかけた。まあ、変に心配されるよりも、馬鹿にされ、笑いの種にした方がマシだと思った。
先生は黒い影が写っている写真を全て回収し、業者に連絡を入れていた。業者からは「そんなものしらない」という返答があったらしい。
写真に写り込んだ黒い影は、時間が経っても消えることはなかった。これは卒業するときに聞いた話だが、何度も業者が現像のやり直しを試みたが、新しく刷った写真にも必ず、黒い影が染みだしてきたらしい。
林間学校心霊写真事件は、二週間ほど小学校を大いに騒がせたが、その間、特に何か変なことが起こることも無く、季節が夏から秋に変わるに連れて忘れ去られていった。結局、僕はあの楽しかった林間学校の写真を一枚も持つことができなかった。流石に、黒い影が写った写真を買うことができなかったのだ。
何も無かったので、僕もそのことは忘れていた。
季節は秋から冬に代わり、そして、年が明け、春が近づいた。
その時に、事件が起こった。
あの時、僕と一緒に写り込んでいた女の子が、交通事故に遭ったのだ。
もしあの言葉が、親御さんの耳に届いていたなら、多分、問答無用で教育委員会が出動することになっていただろう。実際、「そんなことは無いよ。努力をすれば、身体的特徴だって乗り越えて強くなれるんだよ」と、、陰で反論するやつもいた。
僕は先生のその話を聞いて、「ごもっともだ」と思った。
子供が生まれるには、まず、親が性交渉をして子供を作る必要がある。その時、減数分裂によって、父親の精子、母親の卵子に遺伝情報が伝えられ、それが受精することで、妊娠する。
受精卵は、父親と母親の遺伝情報を半分ずつ受け継いだということになる。マレにある突然変異は放っておいて。生まれてくる子供は必ず、親の特徴を引き継いで生まれてくるものなのだ。
だから、背の低い親から生まれた子供が、高身長になる望みはない。ブサイクな顔の親から生まれてきた子供が、美形になる望みはない。
背が低いやつがバスケットボールをしてみろ。ブサイクな女が、「アイドルになりたい」と言ってみろ。そこには、圧倒的な「不利」と言うものが存在する。
身体的特徴…、体質とは、基本的にどうすることもできず、生まれてから死ぬまで、一緒に付き合ってやらなくてはならない存在なのだ。
自分が「周りを不幸にする体質」と気づき始めたのは、小学校五年生の頃だった。
小学五年生の秋の日。
学校に登校すると、教室がやけに騒がしかった。
入って見れば、教室の一番後ろの壁に、先日行った林間学校の写真がびっしりと掲載されていた。僕は「お、やっと届いたんだ!」と思い、鞄を自分の机の上に放り出して張り出された写真に駆け寄った。
すると、林間学校で一緒の班だった女子が、他の女子に囲まれてしくしくと泣いていることに気づいた。
なんで泣いているんだろう? と思いながらも、話しかけられるような雰囲気ではなかったので、そのまま壁の写真を見上げる。
ええと、僕の写真は…。と、目を泳がせ、それを発見したとき、僕は愕然とした。
それは、僕とあの女の子が、炊けた米の飯盒を持って肩を並べている写真だった。
満面の笑みを浮かべる僕の肩に、墨汁を垂らしたような影が染み付いていて、それはまるで手を伸ばすようにして、隣の女の子の方に伸びていた。
それだけじゃない。
僕がウォークラリーで、楽し気に山を散策している写真。僕が、カヌー体験でひっくり返りそうになっている写真。僕が、キャンプファイヤーの前で一興している写真。僕が映り込んでいる写真全てに、墨汁のような影が映り込み、まるで生きているかのような、生々しい形となっていた。
「よお、リッカ、お前の写真、やべえな!」
男子の友達が、にやにやと笑いながら僕の肩を掴んだ。
その時、僕の魂は何処かに抜けていて、「ああ、そうだな」と、ぼんやりとした返事をすることしかできなかった。
心霊写真。
今までに何度も、そう言った類のものが撮れたことがあったが、こんなふうにくっきりと写るのは初めてだった。
僕たちが騒いでいるところに、担任の先生が入ってきて、「授業始めるから、席につけ!」と言った。だが、みんなが「やばいやばい!」と言い合い、黒い影に肩を掴まれそうになっている女子がシクシクと泣いていたり、僕がぼーっとしていたりするのを見て、怪訝な顔をした。
先生は「どうしたんだ?」と近づいてくる。
男子の誰かが、「先生! これ!」と、壁に貼り付けられた心霊写真を指す。
それを見た先生の顔がさっと青ざめた。
「どうして? 誰がやったんだ!」
先生は最初、僕の写真に映り込んでいる黒い影が、悪意のある誰かが、黒い墨汁で塗ったものだと思ったらしい。すぐに写真を壁から剥がし、爪で引っ掻いて剥がそうとした。しかし、それが本当に「映り込んでいるもの」に気づく。そして、また青ざめた。
「どうして…? 業者に頼んだ時は、こんなもの写っていなかったのに…!」
心霊話あるある。最初は映り込んでいないが、現像してしばらく時間を置くと現れる。
その日は、学校中大騒ぎだった。
黒い影は僕の写真に写り込んでいるというのに、女子の何人かは「呪われる!」と喚き、泣いた。男子は面白がって、僕に「呪われたな!」「ドンマイ!」と、心無い言葉をかけた。まあ、変に心配されるよりも、馬鹿にされ、笑いの種にした方がマシだと思った。
先生は黒い影が写っている写真を全て回収し、業者に連絡を入れていた。業者からは「そんなものしらない」という返答があったらしい。
写真に写り込んだ黒い影は、時間が経っても消えることはなかった。これは卒業するときに聞いた話だが、何度も業者が現像のやり直しを試みたが、新しく刷った写真にも必ず、黒い影が染みだしてきたらしい。
林間学校心霊写真事件は、二週間ほど小学校を大いに騒がせたが、その間、特に何か変なことが起こることも無く、季節が夏から秋に変わるに連れて忘れ去られていった。結局、僕はあの楽しかった林間学校の写真を一枚も持つことができなかった。流石に、黒い影が写った写真を買うことができなかったのだ。
何も無かったので、僕もそのことは忘れていた。
季節は秋から冬に代わり、そして、年が明け、春が近づいた。
その時に、事件が起こった。
あの時、僕と一緒に写り込んでいた女の子が、交通事故に遭ったのだ。