ウインドブレーカー羽織り、サンダルをつっかけて外に出ると、肌を切り裂くような風が押し寄せてきた。思わず「うっ!」と変な声を上げる。すぐにでも部屋に戻って、暖まりたいという気持ちに駆られたが、それを制して歩き始める。
路地を歩き始めた時、背後に視線を感じた。
「え…」
反射的に振り返る。
そこには誰もいない。
「はは、そりゃそうか」
朝で、通りに人がいないことをいいことに、僕は一人ごとを呟いた。
ポケットに手を突っ込み、向かい風に首を竦めながら歩き始めた。
※
「ありがとうございましたー」
店員の眠たげな言葉に背を押され、コンビニを出た。
「さっむ」
またもや、人がいないことをいいことに、独り言をぶつぶつ呟きながら歩き始める。
さっき買い物したレジ袋を広げ、彼女に頼まれたものを確認した、梅のおにぎりに、高菜のおにぎり。一応、明太子に、シーチキン、エビマヨ。あと、インスタントの味噌汁に、ミネラルウォーターを買った。
まあ、こんなものかな。
謎の優越感を抱きながら、少し大股で歩く。
その時だった。
「お久しぶりですね」
背後から、女の声がした。
「………」
僕はピタッと足を止める。しかし、すぐに「いや、聞き間違いか…」って決めつけ、振り返らずに歩き始めた。
すると、今度は名前を呼ばれた。
「リッカ君」
「………」
今度は無視することができなかった。
僕は立ち止まり、一度、肺まで凍りそうな朝の大気を吸い込んだ。
そして、意を決して振り返る。
そこには、トレンチコートを着た女が立っていた。
身長は一七〇センチ程で、頬は半紙のように白く、そして粉を吹いている。焦げ茶の黒髪が、僕を飲み込むようにしてパタパタとたなびいていた。モデルのような立ち姿をしているが、足の泥だらけの運動靴が、その雰囲気を打ち消していた。
獣のような瞳が僕を睨む。
「ああ…」
声を聞いた時点で、察しはついていた。
僕は、心臓が爆発して、胸骨を突き破って飛び出そうとしているのを必死で抑えると、穏やかな声で言った。
「久しぶりだな、奈々子」
「はい、お久しぶりですね、リッカ君」
西条奈々子は、僕を見据えると、にいっと笑った。
彼女は、高校時代の友達だった。
僕はできるだけ気楽な風に話した。
「どうした? もう、病気は治ったのか?」
「いえ…」
西条加奈子はなぞるように首を横に振る。
僕はさらに続けた。
「治っていないのか? 出歩いて大丈夫なのか?」
「今日は無理を言って出てきました」
西条加奈子の、幽霊のように青白い手が、トレンチコートの内ポケットに入る。
僕は半歩下がった。
「僕に会うためにか?」
「はい、そうですね…」
トレンチコートの内ポケットから取り出したもの、それは、トンカチだった。
「復讐をしにきました」
「………ああ、そう」
次の瞬間、西条加奈子は、病人とは思えないほどのスピードで、僕に斬り込んできた。
僕は舌打ちと共に、後ずさる。しかし、案外慌てていたようで、三歩も下がらないうちに、足が縺れた。
「あ……」
ぐらっとバランスを崩す。
僕との間を詰めた西条加奈子が、右手に握っていたトンカチを振り切る。
視界に銀色の閃光が走ったと思った瞬間、僕の額に赤い華が咲いた。
路地を歩き始めた時、背後に視線を感じた。
「え…」
反射的に振り返る。
そこには誰もいない。
「はは、そりゃそうか」
朝で、通りに人がいないことをいいことに、僕は一人ごとを呟いた。
ポケットに手を突っ込み、向かい風に首を竦めながら歩き始めた。
※
「ありがとうございましたー」
店員の眠たげな言葉に背を押され、コンビニを出た。
「さっむ」
またもや、人がいないことをいいことに、独り言をぶつぶつ呟きながら歩き始める。
さっき買い物したレジ袋を広げ、彼女に頼まれたものを確認した、梅のおにぎりに、高菜のおにぎり。一応、明太子に、シーチキン、エビマヨ。あと、インスタントの味噌汁に、ミネラルウォーターを買った。
まあ、こんなものかな。
謎の優越感を抱きながら、少し大股で歩く。
その時だった。
「お久しぶりですね」
背後から、女の声がした。
「………」
僕はピタッと足を止める。しかし、すぐに「いや、聞き間違いか…」って決めつけ、振り返らずに歩き始めた。
すると、今度は名前を呼ばれた。
「リッカ君」
「………」
今度は無視することができなかった。
僕は立ち止まり、一度、肺まで凍りそうな朝の大気を吸い込んだ。
そして、意を決して振り返る。
そこには、トレンチコートを着た女が立っていた。
身長は一七〇センチ程で、頬は半紙のように白く、そして粉を吹いている。焦げ茶の黒髪が、僕を飲み込むようにしてパタパタとたなびいていた。モデルのような立ち姿をしているが、足の泥だらけの運動靴が、その雰囲気を打ち消していた。
獣のような瞳が僕を睨む。
「ああ…」
声を聞いた時点で、察しはついていた。
僕は、心臓が爆発して、胸骨を突き破って飛び出そうとしているのを必死で抑えると、穏やかな声で言った。
「久しぶりだな、奈々子」
「はい、お久しぶりですね、リッカ君」
西条奈々子は、僕を見据えると、にいっと笑った。
彼女は、高校時代の友達だった。
僕はできるだけ気楽な風に話した。
「どうした? もう、病気は治ったのか?」
「いえ…」
西条加奈子はなぞるように首を横に振る。
僕はさらに続けた。
「治っていないのか? 出歩いて大丈夫なのか?」
「今日は無理を言って出てきました」
西条加奈子の、幽霊のように青白い手が、トレンチコートの内ポケットに入る。
僕は半歩下がった。
「僕に会うためにか?」
「はい、そうですね…」
トレンチコートの内ポケットから取り出したもの、それは、トンカチだった。
「復讐をしにきました」
「………ああ、そう」
次の瞬間、西条加奈子は、病人とは思えないほどのスピードで、僕に斬り込んできた。
僕は舌打ちと共に、後ずさる。しかし、案外慌てていたようで、三歩も下がらないうちに、足が縺れた。
「あ……」
ぐらっとバランスを崩す。
僕との間を詰めた西条加奈子が、右手に握っていたトンカチを振り切る。
視界に銀色の閃光が走ったと思った瞬間、僕の額に赤い華が咲いた。