カホちゃんと、彼女の母親が交通事故に遭って死んでから、周りの僕を見る目は変わった。
 今まで、「気にすんなよ」「お前の味方だからな!」って言ってきた仲間は、僕を避けるようになり、僕が話しかけても、「ああ、うん」とか「○○に聞けよ」とか、曖昧な返事をするようになった。
 事故以前から僕の陰口を叩いていた奴らは、「ほら! やっぱりあいつは死神だったんだ!」って確証を得て、中学に進学すると、僕の迫害運動に徹した。「あいつには関わらない方がいい」「あいつと一緒にいると、誰かが死ぬ」「あいつは死神だ!」って。
 まるで、夜が昼を浸食するように、僕の周りには、僕を目の敵にする者が増えた。
 授業中、ただ座っているだけなのに、周りは僕から机を遠ざける。
 ただ廊下を歩いているだけなのに、周りは悲鳴をあげて僕から遠ざかる。
 話しかけただけで、一部の女子は「来ないで!」と悲鳴を上げた。ムカついたので、しつこく付きまとったら、わんわんと泣き出し、「殺される!」と吹聴した。おかげで二週間停学になった。
 高校に入学してもこんな感じで、僕は周りから避けられた。
 大学は、誰も僕のことを知らない場所を選択して、やっと心機一転まき直しだと思っていたのに…、上手くいかないものだな。
「あくりょーう、たいさーん」
 僕はそう間抜けな声を上げると、背後に向かって塩を投げつけた。
 塩は「何か」に触れた瞬間、黒く染まり、ジュワッ! と溶けた。生臭い水の香りが僕の鼻を掠める。
「やっぱり、取り憑かれてるよな…」
 僕は腕を汲んでそう呟いた。
 道端で考えていても仕方が無いので、さっさと歩き始める。
「………」

 僕には、何かが取り憑いている。守護霊ではないことは確か。これは「悪霊」だ。悪霊なんて生ぬるい。「悪悪悪悪悪悪霊」だ。

 それなのに、僕が実害を被ったことはなかった。カホちゃんみたいに、交通事故に遭ったり、さっきのリュウセイみたいに、階段から転げ落ちたことも無い。少し酷い肩こりを持っているが、それが悪霊の仕業と断定する手立ても無い。
 今までに、リュウセイが見てしまったような「黒い影」を見たことも無い。
「ほんと、よくわからん…」
 僕は欠伸を噛み殺し、朝の空を見上げる。風は心地よくて、さっきあったことを心の隅に流してくれた。
 ま、明日のことは、明日考えますか…。
 僕は背伸びして、二度寝しようとアパートに戻った。