『俺はさ、みんなが思っているような人間じゃなかったよ。波風立てなければみんな平和に過ごせるから、自分の意見も気持ちも吐き出す事ができなかった。悠真はラノベは兄貴が読むような物じゃないとか言ってたけど、俺は大好きだったよ? 何ならクリームシチューじゃなくてビーフシチューのが好きだったし、ココアもチョコレートも実は食べ過ぎてあまり好きじゃなかった』

「……は?」


苦笑しながら言う兄貴に、ポカンとしてしまった。

今、この場でそんな事言うのかよ……!

他にもっと、言わなきゃいけない事とかたくさんあるだろ!


「あ、兄貴……」


さすがに突っ込もうとしたら、僕の言いたい事を察したのか、兄貴は手をあげて制止する。


『でもさ、その想いを口にしたら誰かが不快な思いをすると思って、言えなかっただけなんだ。……って、ごめん、母さん。今、暴露しちゃったけど、実はそうだったんだよね。クリームシチューが嫌いなんじゃなくて、どちらかと言えばビーフシチュー……っていうレベルなんだけど』

「斗真、そんなの気にしないで言ってくれたら良かったのに……」


兄貴の初告白を聞いた母さんは、目尻を擦りながら優しく微笑んだ。


『ハハハ。ごめん、母さん。俺にはね、それができなかったんだ。でも悠真は違う。……今は何を言っても無駄だからって決め込んで、我慢してるけど、もう自分の気持ち口にしてこれからの未来に向けて生きていってくれよ。人生一度きり。俺はもう少し自由に伸び伸び生きれば良かったなって後悔してるんだから』

「僕は兄貴がうらやましかったよ、ずっと」

『俺は悠真がうらやましかったよ。ずっと』


僕の言葉を真似るように言った兄貴は、楽しそうだった。