日ノ元幼稚園ではこの日、卒園式が行われていた。
会場となった体育館は園児・教員・保護者等で埋まっていた。
卒園児代表として、稲葉杏果は1歩前に出ると
“Believe”のソロパートを司り、皆を統帥した。
遠くまでよく届く上、一際可愛い声なので、誰もが
他の園児達の声に紛れ込んでも杏果の声だけは間違えなかった。
明照の家の空き部屋を整理して設けた杏果の部屋で
2人は卒園式の日の映像を見ていた。
「 この時から既にリーダーシップを持っていたんだね」
「だから小学校に入った時も新入生を代表して演説したんだよ」
明照は、自分が持ってない物を持つ杏果を相変わらず羨んでいた。
同時に、自分がそんな子のボーイフレンドになって本当に良いのか
未だ分からずにいた。そんな考えを悟ってか、映像が終わり
DVDを元の箱に戻した杏果は、明照の膝の上で対面座位になった。
「明照君、もしかして、リーダーシップを取るべきなのは
男の子でないと駄目だと本気で信じている?」
またも鋭い所を突かれた。もしかすると心の何処かでそんな
愚かな事を考えているかも知れない。そんな気がした。
「まさか! 有能なら男の子でも女の子でも大歓迎だよ」
「信じないかも知れないけど、卒園式の合唱のソロパート
本当は別の男の子がやる予定だったんだよね」
思わぬ話に明照は思わず前のめりになりそうになった。
「杏果ちゃん、その話、詳しく聞きたいな」
「勿論だよ」
杏果が話し始めたのは、実に情けない内容だった。
卒園する1年前、合唱曲“Believe”の最初2行のソロパートの
事で大いに困り果てた。
ソロパートを司る卒園児代表はランダムに選ばれるのだが
この年は杏果の居る白百合組が選ばれた。そうして
最終的に白羽の矢が立ったのは福田博夫だった。
ところが、いざやらせてみると音程もリズム感も滅茶苦茶だった。
それに加えて、終始一貫苦しそうな表情をしていた。
白百合組の担任、赤城莉奈は頭を抱えた。
「選び方自体に問題が有るのかも」
ピアノを担当する園児、桃山愛は円らな瞳で莉奈の顔を凝視した。
「先生、他に誰か居ないか聞いてみようよ」
今の莉奈にとってはどんなアイデアも地獄で会った仏だった。
「そうだね。そうしようか。誰かソロパートやりたい子、居る?」
すると、意外にも3人が手を挙げた。杏果の他に角田勝之
山口光夫が名乗りを上げた。
「杏果ちゃん、卒園児代表っていうのは、男の子がやるものだよ」
前例の無い事態に、莉奈は古い慣習に囚われた発想しか出てこなかった。
しかし、こんな時でも杏果は毅然としていた。
「先生、本当に大事なのは実力じゃないんですか?」
痛い所を突かれ、莉奈は感電した様な感触を覚えた。
「それは・・・・・・」
「3人の中で誰が一番上手か、皆に聴いてもらいましょう。
園長先生や芳子先生にも来て貰えば誰もズル出来ないです」
莉奈は慌てふためいた。何で自分より園児の方がしっかりしているんだ。
情けなさを覚えながらも、莉奈は頷いた。
「分かった。じゃあ、そうしようか。その代わり
これで負けても泣いたり喧嘩したりは無しだからね」
気は進まなかったが、莉奈は園長の西郷光枝と、主任の礒﨑芳子を
呼びに行く為、重い腰を上げた。
職員室に入り、莉奈は事情を説明した。絶対怒られると思った
莉奈の耳に入ったのは、思わぬ言葉だった。
「まぁ面白そう。是非見物させて下さいな」
「そうね。こんな機会滅多に無いでしょう」
意外にも、園長と主任は目を見開き、鼻息を荒くした。
「そ、それは有難う御座います。では参りましょう」
こうして審判は揃った。
園長と主任が入った時、黒板の端には阿弥陀籤が有った。
それを見て、莉奈は、自分が不在の間に何が有ったか把握した。
「先生が居ない間に順番を決めたんだね。これ、誰のアイデア?」
「はーい」
元気良く手を挙げ答える杏果は、先刻見た、矢鱈頭の回転が早い
超級園児と同一人物には一瞬見えなかった。
「良いね。えぇと順番は・・・分かった。園長先生、主任
録音もしくは撮影は必要ですか?」
事が事なので後で間違いの無い様にしようと莉奈は考えた。
「そうね、折角だし撮らせて貰います」
「なら私も」
撮影の準備が終わったので、先ずは坊主頭の男児
山口光夫が歌った。いざ聴いてみると表情と
音程はまともだったが、野球の応援の様に
大声でがなり立てているのと変わらなかった。
山口光夫の失格は、15秒も経たず満場一致で可決した。
続いて、角田勝之の番が来た。今度は声量は適切だったが
アクセントが狂っていたり、歌詞を忘れたり
順番を間違えたりと、別の意味で無茶苦茶だった。
今度は少し時間が掛かり、20秒で失格が確定した。
遂に杏果の番が来た。普段からリーダーシップを発揮している事を
園児達も教員も知っていた。だから誰もが期待の目で見ていた。
果たしてそれは正しかった。声量・アクセント・表現力・表情
全てに於いて教員の予想を凌駕していた。園長に至っては
歴代最高の歌唱力ではないかとさえ考えた。
撮影を終えた後、園長と主任は思わずスタオベをした。
これを見て、園児達もつられて同じ事をした。只1人
莉奈だけは呆然としていた。これは夢か幻か。否
手の甲を抓ってみたら痛かった。だから夢ではない。
莉奈は前に出ると、園児達に尋ねた。
「他に誰かやりたい子は居る?」
また誰か手を挙げるだろうと思っていたが、園児達の反応は違った。
「杏果ちゃんにやって欲しいー!」
「こんなに凄いんだもん」
「杏果ちゃん、御願い!」
異口同音に園児達が称賛の声を上げるのを聞き、莉奈は漸く観念した。
「皆、御免なさい。正直に言うね。先生はずっと間違ってました。
卒園児代表は必ず男の子がやらなきゃいけないと思ってた。だけど
杏果ちゃんの歌を聴いて分かったんだ。相応しいのは
杏果ちゃんの様に歌が上手で、やりたいって気持ちが有る子なんだね」
この言葉を聞き、主任は目線を向け、発言を申し出た。
「莉奈先生、卒園児代表は必ず男の子なんて誰から言われたの?」
「え、いや、あの・・・・・・そういうものじゃないんですか?」
全く以て頓珍漢な発言に、主任は呆れ果てた。今時こんな
反動的な事を言うと世界中の笑い者になるのに。何故知らないのか。
叱りつけようとする主任を宥め、園長は古い写真を見せた。
「昭和44年、この幼稚園の歴史が始まった年です。ここの
卒園児代表第1号は女の子ですよ」
莉奈と園児は勿論、主任ですらこの事は全く知らなかった。
「とても大事な御話をしたいので、御時間頂きますね」
「あ、はい、どうぞ」
園長は莉奈の許可を得てから皆の前に立った。
「皆さん、卒園児代表に限らず、何かのトップに立つのは
必ず男の子でなくてはならないなんて、そんな事は
決して有りません。実際、私は園長という、この幼稚園の
トップに立っています。皆のリーダーになるべき人というのは
男だから女だから、そんなのは理由になりません。
どれ程やるべき事が上手に出来るか。今回の場合は、どれ程
上手に歌えるかですね。それに、皆に気を配れることも大事です。
これが出来ないと、只の御山の大将でしかありませんよ。
稲葉杏果ちゃん、卒園児代表への就任、おめでとうございます。
最後にして最大の凄い役目、あなたなら絶対大成功します」
講話の最後に自分が呼ばれ、杏果は慌てて立ち上がると前に出た。
「私を応援してくれた皆、有難う御座います。必ずやり遂げます」
万雷の拍手を送られ、杏果は会心の笑みを浮かべた。
尚、莉奈は園児達が全員帰った後、園長と主任から
徹底した思想教育を受けた。
「・・・とまぁこんな具合」
「杏果ちゃんも凄いけど、園長先生は輪をかけて凄いね」
後ろから杏果に背中を撫でられながら、明照は只々感服していた。
「今のあたしがこうなったのは、ママの方のおじいちゃんとおばあちゃん
それから、園長先生の御蔭だよ。あたしは心から尊敬するね」
「分かる。僕が杏果ちゃんの立場でも絶対そうしてた」
杏果が膝の上に座ったので今度は明照が背中を撫でた。
「園長先生ね、あたしが事故に遭った後、御見舞に
いらっしゃったんだよ。卒園式はもう終わったけど
“人を心配するのにそんなの関係有りません”って。
家族に愛されてなかったと知ったあたしを支えて下さったから
こうしていまも元気でいられるんだよ」
「そんなに凄い先生なら、会ってみたいな」
何気無く口にした言葉を杏果は聞き逃さなかった。
「良いよ。連絡先と家は知っているし」
「え、いや、急ぎじゃなくて良いよ」
慌てて引き止めたので、アポはまた後日という事になった。
小学校の入学式の日の映像を見終わった後
明照は不意に何やら閃いた。
「今気付いたんだけど“Believe”ってもし短調なら如何なるのかな」
自分ですら思いつかなかったアイデアに杏果は目を輝かせた。
「面白いアイデアだね! 歌ってみようか」
早速歌ってみたところ、何とも怖い曲に変貌した。
身震いをした2人だったが、直後、今度は杏果が何やら閃いた。
「長調と短調を混ぜる方がローラーコースターみたいで面白いかも」
「成る程。やってみようか」
また歌ってみたところ、確かに全編短調より却って恐怖度が上がった。
「何時奈落の底へ蹴落とされるか分からないから怖いね」
「本当。全部短調なら最初からそうと分かっているし
あたしでも耐えられるけど、これは洒落にならないよ。
そうだ、今度は長調のパートと短調のパート
入れ替えてみようか」
こうして行われた3度目の企画も“怖い”という結論が出た。
そして最終的に2人は同じ意見に辿り着いた。
「「何時もの明るいメロディがやっぱり一番だね」」
日ノ元中学校の音楽室には2年A組の生徒が揃っていた。
「来週は歌唱のテストやるから皆練習するんやで。楽曲は何でもOK.
暗譜が原則やけど、外国語の歌に限っては見ながらでもえぇよ」
音楽教師、佐竹陽子からの宣告は、通常だと一部を除き死刑宣告も同然だった。
しかし、コンクールでの優勝を経験した猛者達にとっては腕が鳴る瞬間だった。
「何か質問は・・・無いんやったっら今日は解散」
直後、チャイムが鳴り生徒達は一礼した後音楽室を出た。
生徒達の話題は既に決まっていた。
「何にする?」
「正直選択肢が多過ぎて凄く困ったlolol」
「明照にお勧め聞いてみるか?」
「良いわね。そうしましょ」
2年A組の生徒にとって、人前で歌うのは、依然緊張はするが
今となっては楽しくて楽しくて堪らない事だった。
翌日から明照は目が回る程忙しくなった。自分のクラスだけでなく
他のクラス、剰え、1年生と3年生からも助言を求められる程だった。
寝る間も惜しんで処理しても未だ追いつかないので、根路銘崇と赤嶺美娜が
マネージャーを務めた。人に教えを求める態度ではないと判定された
者を門前払いにした結果、助言を求める者の数は幾分減った。
数日後、歌声喫茶“ひかり”での会に出た後、明照・崇・美娜は残って
歌のテスト対策をしていた。そんな折、主催者の孫娘
稲葉杏果が小走りで現れた。
「いらっしゃい。明照君、たーかーにーにー、みーなーねーねー。
歌のテスト対策、よく頑張っているんだね」
杏果の存在は“休憩しなさい”と云うサインであると考えた3人は
目線を向けると表情を緩めた。
「大丈夫? 魂飛んでいってない?」
冗談交じりに明照が尋ねると、崇と美娜は吹き出しながらも答えた。
「何十回もそんな事してたら身がもたないってlolol」
「明照がそんな冗談言える様になるとは思わなかったlolol」
笑いが巻き起こりながらも、兎も角も、3人は杏果の案内で家に入った。
「何でも自由に選んで良いと言われると確かに却って悩むよね」
苺を食べながら杏果は考えた。
「まぁ、僕達は直ぐに決まったから良いけどね」
明照の言葉に褐色カップルは大きく頷いた。
「本当、歌声喫茶に通っていて良かったな」
「多分これは簡単には真似出来ないと思うよ」
暫くの間、4人は談笑していたが、直ぐに本来の目的を思い出した。
自分達は苺を食べに来た訳じゃない。
「忘れるところだった。僕達は歌のテスト控えているんだった」
この言葉に、杏果は意外な反応を見せた。
「あたしもなんだよ。何でも好きに選んで良いって」
偶然の一致に4人は思わず目を丸くした。
「尤も、何歌うかは1日で決まったんだけどね」
得意そうに笑う杏果が、中学生3人には微笑ましく映った。
そうして迎えた当日、明照達は勿論、他の生徒達も
今日が余程楽しみなのか、目を爛々と輝かせていた。
「何や、今日は随分やる気満開やないか。えぇなぁ。
せやなかったら何もおもろない」
佐竹陽子は生徒達の様子が余りに違うので驚きを
隠せなかったが、悪い気はしなかった。
「順番は如何する? 誰からでもええよ」
「私から行きます!」
早速手を挙げたのは同級生の一人、西田美穂だった。
「前もって説明した通り、原則として暗譜。
但し、外国語の歌に関しては歌詞カード持ち込みOK
ほな、名前と、歌う楽曲を言った後
自分のタイミングで始めて」
「はい。西田美穂。La |Chanson de l'oignon《玉葱の歌》」
美穂は、戦車に乗った女子高生が戦うアニメに触発され
この歌を覚えたのだった。後半はよく知っていたので
苦労は半分だったと後に語った。
楽曲を、多少訛りは有るものの、概ね流暢なフランス語で
歌い上げた後、美穂は丁寧に一礼した。
聴き終えた後、陽子は、意外にも馴染の有る楽曲だったので安堵した。
「クラリネットを壊しちゃったの元歌か。ええ選択やな。次」
「棚橋学。|John Brown's Body《ジョン・ブラウンの屍》」
リパブリック賛歌の元となった歌に“Blood Upon the Risers”の
歌詞も捩じ込んだ歌が音楽室に響いた。
聴き終えた後、陽子は笑いを隠せなかった。
「随分欲張ったなぁ。こんなん初めてや。次」
「古谷由依。Johnny I hardly knew ya」
“|When Johnny comes marching home《ジョニーが凱旋する時》”の元歌が
有るとは知らなかったので、誰もが興味を持って聴いていた。
「何や今日はアメリカの歌がよう出てくるなぁ」
「それなら次は大橋清 British Grenadiers イギリスの歌です」
「結局英語やんかlolololol まぁどうぞ」
漫才の様なやり取りを経て、4人目の番が来た。
清は美穂に誘われて戦車に乗った女子高生のアニメを見たのだった。
その後、紆余曲折を経て遂に歌声喫茶“ひかり”の常連である
三英傑の出番が来た。3人が何を選ぶか皆が注目していた。
「根路銘崇。ステンカラージン」
初めて来たロシア語の歌に、陽子は表情を緩めた。
「殆どが英語か日本語やったし、丁度良かったわ」
やがて歌が始まった。杏果からの指導を受け、力まず
歌える様になった崇の技術は間違い無く進歩していた。
聴き終えると、陽子は急いでメモを取った後、顔を上げた。
「考えてみたら、ロシア語の歌は初めてかも?
まぁその辺は兎も角、次」
「赤嶺美娜。ウラルの茱萸の樹」
前に出てきた美娜が歌ったのは、ロシアの楽曲ではあるが
中国語の歌詞も交えていた。
聴き終えると、陽子は少し考えた後、何かを納得したのか手を打った。
「そうか。せやな。ソ連と中国は同盟国やし、国境
接しているから知ってて当然か。次、田中明照君やろ?」
普段なら順番はランダムなのだが、この時は次に誰が来るか予測出来た。
事実、三英傑の首領である田中明照は勢いよく挙手した。
「田中明照、谷を渡り丘を越えて」
どんな凄い歌を選ぶのかと思ったら、予想以上に牧歌的なタイトルの
歌だったので、誰もが拍子抜けした。これは三段オチなのか。
しかし数秒後、それは間違いだと嫌でも痛感することになった。
恐怖分子を駆除する赤軍の進撃を綴った歌が音楽室に響く間
誰もが静かに傾聴していた。
明照は、伊達に最も長く杏果から歌唱指導を受けていなかった。
全員の歌が終わった後、陽子は普段以上に疲れていると実感した。
「教師やって結構経つけど、こんな事は初めてや。
皆から教わることになるとはな。ほんま、おおきに!」
疲れているとは言っても、それは正確には心地よい疲れだった。
一方、外国語の歌を選べば暗記しなくて済むと云う抜け穴は確かに問題だった。
日本語の歌に限定しようかと思ったがそれは人権の侵害と考え、思い留まった。
翌週、音楽室内の掲示板にはこう書かれていた。
<外国語の歌を暗記して歌った場合、ボーナススコア有り
※日本語と外国語が混ざった場合も適用>
その日の放課後、杏果の家へ遊びに来た3人は
デラウェアを食べながら今日の事を話した。
「皆中々やるね。指導し甲斐が有りそう」
事情を聞いた杏果は、歌唱指導をする時に見せる
愛らしくも、何処か怖い顔をしてみせた。
「杏果ちゃんらしい考えだね」
そんな時、美娜は或る事を思い出した。
「杏果ちゃんの歌のテストは如何なったの?」
「あぁ、それ? 聴きたいなら歌うよ」
「じゃあ御願いしようかな」
そうして杏果が3人の前で歌ったのは“中国人民志願軍戦歌”だった。
しかも、中国語と朝鮮語の歌詞を交互に歌うというものだった。
聴き終えた後、3人は拍手を送りつつ、にやけていた。
矢張り杏果が歌うと何でも素敵だ。3人はここで可笑しな想像をした。
カラオケボックスに来た杏果は“ヘーコキましたね”を歌っていた。
下品な内容ではあるものの、杏果の可愛い声と
愛らしい外観がそれを見事に打ち消していた。
ふと我に返った3人は、誤魔化す様に麦茶を飲んだ。
「それで、先生は何て言ってた?」
平静を装い崇は尋ねた。
「“そう来るとは思わなかった”だって。ポカーンとしてた。
あたしが小さい頃から歌声喫茶に入り浸っている事は皆
知っているのにね」
その時の音楽の先生の心理と表情を想像して、3人は吹き出すのであった。
幸運は、続く時は続く。今回は正にその典型的な例である。
田中日照は、赤いボストンバッグを担ぎながら軽い足取りで歩んでいた。
「不発弾が小学校と中学校の双方で同時に見つかるなんて。
偶然と言って良いのかな?」
木曜日の午後、日ノ元小学校と日ノ元中学校の裏口で
巨大な不発弾が発見という未曾有の事態が起きた。
撤去は相当慎重にしなければならないからと、金曜日は丸一日
臨時休校と相成った。しかも、日曜と祝日が重なっていた。
このため、月曜日は振替休日となった。
幸運は未だ続く。明照の家族と杏果の祖父母は温泉旅行に行く
機会を前から探っていたが、今回の不発弾事件は寧ろ好機となった。
かくして、明照と杏果は足掛け4日間も一緒に過ごすことになった。
理論上何方に泊まっても問題は無かった。だが、ショッピングモールへの
距離が近い杏果の家の方がより適切と明照は判断したのだった。
何せ敷地内にはバス停とタクシー乗場も有る。杏果の要望
或はその他特殊な事情でも無い限り、答えは1つだった。
家に着くと、杏果は玄関口に座っていた。
「早かったね。さぁ入って!」
手を引かれ、明照は専用の部屋に通された。
そこは昔、杏果の母が使っていた部屋で、長らく空き部屋だった。
掃除を行い、不用品を残らず始末した後、明照の着替やら
何やら運び込み、何時でも泊まれる様にしていたのだった。
コンクールの数日後に知ったのだが、明照の家には
杏果が何時でも泊まれる様に専用の部屋を用意して
衣類等を搬入していたのだった。そして逆もまた然り。
専用の部屋で荷物の整理をし終えた明照は
俯せになり、肩・太股・脹脛・足の裏を揉んでもらっていた。
「本当に僕がこの部屋使って良いのかな。杏果ちゃんは
この部屋に思い入れ・・・あ、御免。考えたくなかったよね」
不味い事を口にしたと慌てたが、意外にも杏果は冷静だった。
「良いんだよ。一応あれでも良い所、何も無い訳じゃないから。
掃除・洗濯・縫い物・お料理教えてくれたから。これに関しては
感謝しているんだよ。まぁ、割合は11%だけどね」
顔は笑ってはいたが、内心怒っているだろうと思い
明照は罪悪感を出さない様気を付けた。マッサージして貰っている上
気を遣わせては大変申し訳無い。そんな思いで一杯だった。
おやつに出された黄色い西瓜を食べている間も
夕食を食べに出た時も、明照は表面では笑顔だったが
これ以上要らぬ事を言わない様にと警戒した。
一緒に入浴するのはもうこれで何度目だろう。何時からか
明照は考えるのを止めていた。
体を洗って貰っている時、杏果は不意に思わぬ事を言い出した。
「明照君、漫画とかアニメとかゲームでよく見る入れ替わり
興味有る? 相手は勿論あたし」
杏果は何時も急に思わぬ事を言い出す。頭と性格は良くても
矢張りそこは幼い子供と明照は親近感を覚えた。
「確かによく見掛けるね。考えたこと・・・無いかも。でもどうして?」
至極当然の疑問に、杏果は白い歯を見せ笑った。
「見た目は同じだけど、これで明照君を抱っこまたはおんぶ出来るよ。
勿論肩車も。考えただけで楽しくて楽しくて堪らないね」
「それじゃ聞くけど、もし僕の魂が杏果ちゃんの体に入ったとして
抱っこされた時、パニックでお漏らししたらどうする?」
明照にとってはちょっとした与太話のつもりだった。
だが杏果はその状況を真面目に考え始めた。
「そもそも最初にトイレに連れて行けば良いんだよね。
でもこの場合、家は兎も角、外だとどっちに入るのかな・・・」
予想以上に真剣に考えるので、明照は慌てふためいた。
「御免。そんな真剣に考えるとは思わなかった。
忘れて良いから、うん」
ポカンとする杏果の頬を撫でながら、明照は斜め上を見上げた。
「何やっているの? 上、何も無いよ」
「気にしないで。何でもないから」
また懲りずにやらかした。明照は自分の不甲斐なさが情けなくなった。
明日の朝食の下準備等、やる事を全部終えた後
明照は魔法少女の間に入った。遂にこのお泊まりの
メインイベント、鑑賞会が始まる。
室内では、魔法少女の衣装をモチーフにした
変身パジャマを着た杏果が手薬煉引いて待っていた。
「魔法少女の世界へようこそ。歓迎するよ」
「僕、男だけど歓迎されたね」
「女とか男とか如何でも良いよ。今も昔も条件は唯1つ。
魔法少女が心から大好きって心。これだけ。
これさえ有れば魔法少女の世界に住んで良いよ。
何なら魔法少女になることさえ出来るから」
「それは想像出来ないなぁ。如何なるんだろう」
色々想像している間に映像が始まった。
<愛と正義を貫く、ムーンライトガーディアン!
宇宙に代わって、懲らしめるわよ!>
天文学がモチーフの魔法少女“ムーンライトガーディアン”は
一時代を築いた、金字塔と言って良い存在だった。
29年も前の作品とは到底思えない程、高度な作画
声優の演技力、美しい世界観で知られ、海外でも
知らないと馬鹿にされる程だった。
明照は食い入る様に画面を凝視していた。
事故の後DVD-BOXを贈ってくれた何処かの誰かへの
感謝の念で一杯だった。
第1シーズンの回を全部見終わった後、杏果は
明照の膝から下り、DVDを取り出しパッケージに戻した。
「明照君、入れっぱなしは厳禁だから覚えておいてね。
下手すると2度と再生出来なくなるんだよ。
贈られた物が被って、同じ物が幾つも有っても関係無いから」
「大事な事だね。教えてくれて有難う」
素直に御礼を言う明照が、杏果には愛おしく映った。
「そうだ、良い機会だからトイレ行ってくるね。
序に飲物と御菓子持ってくるから。明照君も
行くならどうぞ。うちには3つ有るから」
「そうなんだ。じゃあ行ってくる」
観ている最中の中座は失礼だと思い、明照はトイレを
済ませることにした。
魔法少女の間に戻ってきたが、未だ杏果は戻ってなかった。
そんな時、明照の視界に、ムーンライトガーディアンの
専用武器、ムーンライトワンドが視界に入った。
先端に満月の付いた魔法の杖は、必要に応じて
半月・三日月・上弦の月・下弦の月・新月等に付け替えられる仕様だった。
「今だけ、ちょっとだけ借りるね、杏果ちゃん。
へぇ〜・・・再現度凄く高いな」
暫くは手にとって光に翳していたが、やがて飽きてるの欲望が顔を出した。
「今なら誰も見てないよね。今この部屋には僕1人・・・・・・
“愛と正義の光が、あなたの邪心を祓います。
ムーンライト、ホーリーキャノン!!”」
明照は先程DVDで見た動作を精一杯真似した。
この時明照は気付いていなかった。魔法少女の間に戻った時
扉を半開きにしていた。飲物と御菓子を持った杏果が
入り易い様にとの気配りだった。それは、断じて間違いではなかった。
しかし、明照が最も恐れていた事が起きた。
「あ、そこね、体を1回転させてから決めポーズにシフトすると
凄く格好良いよ。フィギュアスケートのスピンみたいに
強くなくても良いから」
「あぁそうなんだ。有難う・・・・・・あ゛っ・・・・・・」
次の瞬間、明照は悟った。終わった。何もかもが終わった。
一番見られてはならないものを、一番見られてはならない相手に知られた。
何と言い訳すれば良いのか。否、それともいっそ開き直るべきなのか。
そんな明照に対して、杏果は何時も通り神対応だった。
「身も心も完全に魔法少女の世界の住人だね。おめでとう。
知りたい事は何でも教えるからね」
杏果に抱き締められるのは今夜が初めてではなかった。しかし
何故か今日のハグは普段と何かが違う気がした。
後日、明照は、今迄殆ど使ってなかった小遣いで魔法少女グッズを
古物店で山程買い漁った。両親と祖父母は当初
愕然とした。しかし数秒後、杏果との話題について行く為と
勝手に思い込み、納得した。剰え、掛かった分は経費として
認めてくれたので丸々キャッシュバックを受けられた。
それどころか、杏果と仲良くなろうと努力する
模範的な行動と看做され、臨時収入まで入った。
「偉いな、明照。今後も続けるんだぞ」
「そう云う事は最初に言いなさいね」
父、靖彦と母、千枝は完全に勘違いしており
柴犬にする様に頭・頬・下顎を撫で回した。
両親が居ない間に均と清美に真実を話すと、意外な答えが返ってきた。
「最初から分かっていたとも。誰にも言わんから大丈夫」
「共通の趣味が出来て良かったじゃない」
明照はこの日、誓った。一生涯、祖父母には足を向けて寝ない。
給食を食べ終えた後、杏果は学級で飼っている兎に餌を与えに行った。
本来、彼女の所属は放送委員である。しかし、根っからの動物好きなので
飼育委員でないにも拘らず何時も兎の世話に勤しんでいた。
当の飼育委員にとっては、仕事が楽になり感謝の対象だった。
そんな杏果を、少し離れた所から白い目で見る者達が居た。
木下琢己と吉井香織。有り体に言うと、餓鬼大将とクラスの女王である。
どちらも粗暴・強欲・恩知らず・卑劣と、人間の短所の集合体だった。
同級生は琢己のグループが暴力で従わせ、それが無理と悟ると香織の
グループが悪い噂を流す。そんな“連携プレー”を普段からしていた。
「あいつ、動物好きを皆の前で見せて良い子アピールかよ」
「本当キモい。親無し子の癖に。しかも、あの年で未だに
魔法少女とお飯事が好きって。幼稚にも程が有るでしょ」
武力で従えようとしたら大声で泣き叫ばれ、先生に見つかり中止。
実は嘘泣きだったと知ったのは、数日後の事だった。
おねしょ常習犯という噂を流したところ“家族が目の前で死んだ時の
事が忘れられないんだからしょうがない”と反駁されあっさり撃沈。
2人の謀略は毎回失敗に終わっていた。
琢己のグループのメンバー、平田将太は太った体を震わせつつ不平を口にした。
「何であいつの時ばっかり上手くいかないのかな」
欠伸をしながら締まりの無い間抜け面を晒す将太に
香織のグループのメンバー、斎藤沙織は苛立ちを覚えた。
「将太、その暑苦しいの何とかならんの?」
沙織には訳が分からなかった。何で、こんな河馬と蝦蟇を
足して2倍した様な鈍臭いのが琢己の子分なのか。
「俺だって最初は鬱陶しかったよ。だけどな、こいつ
聖フェリーチェ病院の院長の息子なんだ。
要は大金持ちの家の坊ちゃん。だから
正直、一番手放したくないって訳」
まぁまぁ長い間一緒に居るが、今迄知らなかった事実に
香織と沙織は愕然としたが、同時に納得もした。
「こ、こいつが!? 人は見た目によらないね」
「でもまぁ、確かに院長の息子なら欲しいよね。
うちのグループだと佳奈子がそれに当たるかな」
目線の先には、虚ろな雰囲気の、癖毛の少女が居た。
「上、何も無いね・・・・・・」
琢己達の話を全く聞いてなかったのか、佳奈子は
天井を凝視していた。
琢己の腰巾着、金田治夫は呆れながらも香織の心理を察した。
「確かに。国際的な大手文房具メーカー、トウィンクルの
社長の娘でなけりゃ、誰だってこんな変人は御断りだよな」
「分かってくれる? 流石ブレーンだね。じゃあ、その良い頭を使って
あのクソッタレをとっちめる良い方法を考えて貰えるかな」
香織に褒められ上機嫌の治夫は頭を回転させた末、何やら閃いた。
「皆の前で恥をかかせると云うのは如何かな」
誰も思いつかなかった、思わぬ提案に誰もが関心を示した。
「治夫、詳しく話してみろ」
琢己に促され、治夫が話した内容は以下の通りだった。
*杏果を知る1年生と2年生を集める
*自分達も立会の上で、皆の前で歌わせる
*下手糞だと一斉にブーイング
*皆の前で恥をかいて心が折れる
話を聞き終え、琢己は普段余り見せない笑顔を見せた。
「出来したぞ。御前よくそんな天才的なアイデア
思いついたな。俺ですら考えつかなかったのに。
気に入った。今日の帰り、アイス奢ってやろう。
それとも飲み物の方が良いか?」
「あ、有難う。じゃあ・・・暑いしスポーツドリンクで」
こんな時でも賢さ全開の治夫が皆には微笑ましく映った。
只1人、佳奈子だけは相変わらず全然違う所を見ていた。
「ぼんやりと壁を見て、何が面白いのかな・・・」
相変わらずの奇行を沙織は呆れ顔で見ていた。
「佳奈子、魂を何処へ置いてきたんじゃ」
その答えは、下手をすると本人ですら知らない可能性が有った。
虐めグループは学校の近くの公園で
御菓子を貪りながら待ち構えていた。
「ぶち美味いのう」
沙織は漫画等によく出る、外国の成金をイメージしつつ
葉巻そっくりな外観のチョコを咥えた。
将太が家から持ち出した、チョコラーテ・シガーロは
見た目が葉巻にそっくりなので、子供と大人の双方に
名前を知られた高級銘菓であった。
「み、見つからない様に持ち出すの苦労したよ」
「そうだろうな。だから褒美にこれをやる」
琢己は将太に、以前他所で巻き上げた100円を与えた。
やがて、下級生達に連れられた杏果が公園に着いた。
何処からか持ってきた木箱を階段状に重ねると、香織は
努めて笑顔で話した。
「杏果ちゃん、よく来てくれたね。呼び出したのは
私達の前で歌って欲しいから。因みに言い出したのは
そこに居る、下級生達だよ」
ここで時は数日前に戻る。
杏果が下級生や上級生の前で歌う事が多々有るのは
皆よく知っていた。だから適当に下級生の群れを
探していた。声かけは香織が担当することになった。
「君達、稲葉杏果ちゃんに歌を習ってたよね?」
警戒されない様に目線を合わせるのを見て
リーダー格の1年生の女児は香織を優しい御姉さんと認識した。
「そうだよ。御姉さんは杏果ちゃんの友達?」
「よく分かったね。正解。それでね、その杏果ちゃんが明日
学校の裏の公園で皆の前で歌ってくれるんだって。聴きたい?」
思わぬ誘いに1年生達は目を輝かせた。
「聴きたい!!」
満場一致で可決となったので、後は簡単だった。
「それじゃあ、明日呼びに行くのは任せたからね」
こうして、下級生達を巻き込んだ謀略の下絵が完成した。
以前の事が有るので杏果は本心では信じていなかった。
しかし、下級生達が騙す必然性は無いとも分かっていた。
「洪吉童ライブって訳だね。良いよ。何歌えば良い?」
「それは任せるよ。俺らはよく分からないから」
琢己がそう言うので、納得した杏果は壇上に上がった。
この時、杏果は勿論、他の面子も全く気付いてなかった。
「おい、あれ見てみ」
「杏果ちゃんだよね?」
公園の裏を通った根路銘崇と赤嶺美娜は、嫌な予感を覚えた。
そこから先は早かった。崇はSongTubeで全世界に生配信し
美娜は歌声喫茶“ひかり”に電話を掛けた。
かくして青空の下、ライブが始まった。杏果は最初に
“アムール河の波”を歌った。聴き慣れないロシア語に全員
首を傾げはした。それでも、長年歌声喫茶と親しんだ
杏果の歌声は耳に心地良かった。
曲が終わり、皆一斉に拍手を送った。しかし、数秒後
琢己は想定外の事に頭が真っ白になった。
「嘘だろ!? まさかこんなに上手いなんて」
「最初からいきなり下手と野次を飛ばすのも不味いかも。
敢えて調子に乗らせて、気分が1番良くなった時
一挙に奈落の底に蹴落とすのがベストだと思う」
治夫の冷静な分析により、暫くはこのまま放置することにした。
続いて“祖国の歌”を歌った時も杏果は平常運転だった。
ロシア語が分かる者は誰も居なかったが、皆
聴き入っていた。真に優れた音楽は国境の壁を
簡単に崩すとオーディエンス達は感じていた。
だが、虐めグループの焦りは大きくなる一方だった。
「不味い。このままだと杏果が余計図に乗る・・・」
鈍臭い将太も流石にその程度は理解出来た。程なく
虐めグループの意見が一致した。次の歌の後、横槍を入れよう。
但し、下級生も居るから言葉は選ばないといけない。
意見が纏まった後、虐めグループは杏果が“ソビエト陸軍の歌”を
歌っている間、身動ぎせず聴いていた。
ロシア語の大波が漸く去った後、沙織は挙手し、発言を申し出た。
「あの、杏果・・・確かにうちら“何でも良い”とは言ったけど
出来ればその、日本語の歌、御願いしてもええ?」
杏果にとっては想定外の事だった。しかし、別に困りはしなかった。
「良いよ。何にしようかな・・・」
数秒考えた末、杏果は名護パイナップルパークの主題歌
“パッパパイナップル”を日本語・朝鮮語・中国語・英語交じりで歌った。
この時虐めグループは“しまった!!”と顔に出た。
日本語とは言ったが、他の言語を交えるなとまでは
言ってなかった。怨めしさを隠しながら皆
聴いていた。歌が終わると、今度は琢己が発言を申し出た。
「あの、御免。正しく伝えてなかった。日本語100%って
意味だったんだよな」
「あれそう云う意味だったんだ」
杏果本人は意図的に抜け穴を掘った訳ではないので
怒るに怒れなかった。
困惑しながらも、杏果は“UNIONですから!”を歌った。
確かに日本語ではあったが、ウチナンチュ以外殆どの人は
知らない歌曲なので虐めグループはポカンとするしかなかった。
「あぁー・・・確かに日本語じゃけど、もっとこう・・・
有名なのは無いんね? 面倒掛けて悪いんじゃけど」
何時しか虐めグループは下手に出ていた。
考えた末、杏果は“フルタ製菓 社歌”を選んだ。少々
昔の曲ではあるが、やっと知っているのが出てきて
皆が安堵した時、イレギュラーが起こった。
「琢己!」
「何やっているのあなたは!」
声の主を間違える要素は無かった。何時の間に来たのか
琢己の両親、木下健一・由美子夫妻が般若の形相で見ていた。
イレギュラーはこれだけでは済まなかった。
「何やっているんだ香織!」
「いい加減にしなさい!」
「何て事をしてくれたんだ!」
「この恥知らず!」
香織の両親、吉井武雄・千佳夫妻
並びに母方の祖父母、村田権蔵・武子もまた激怒で
天地を焦がさんばかりの気迫だった。
各グループのリーダーの両親を先頭に、虐めグループの
家族が次々公園に集まった。更に
野次馬に、生配信を見た視聴者まで群がり
杏果は下級生達を帰すのに苦労した。
怒号と絶叫と悲鳴が一度に沢山響き、現場は
何が何だか分からない状態だった。
一連の様子を見ていた崇と美娜は目が点になった。
「流石にやり過ぎたか?」
「もっとド派手にやっても良かったんだよ」
このカオスな状況はTwitter/YouTube等でも
取り上げられ、大騒ぎだった。
数日後、杏果の家を、虐めグループの面々が
保護者に連れられ謝罪に訪れた。余りに数が多いので
順番待ちの集団は居間で待機してもらうことにした。
そして、用が終わったら即帰すことにした。
病院の待合室の様に、杏果の祖母、英子が名前を呼びに来た。
最初に応接間に通されたのは琢己の一家だった。
丸坊主に瘤だらけの頭をしているのを見て
杏果は何が起きたか悟った。
「この度は、うちの息子が申し訳ない事をしました!」
「大変申し訳御座いません!」
両親が土下座する中、琢己本人は
見当違いの所を見ていた。
杏果の隣に座っていた寛司は思わず声を掛けた。
「琢己君、如何したんだ?」
その言葉に思わず顔を上げた両親は次の瞬間、馬鹿息子に
同時に蹴りを入れた。
「馬鹿! 一番土下座しなきゃならないのは御前だろうが!」
「てか、最初に謝罪しなさいよ!」
呻き声を上げながらも、琢己は起き上がり、家族達と一緒に土下座した。
「本当に御免なさい。もうしません」
如何しようか迷ったが、杏果は意を決し、スマホを取り出し
或る動画を再生した。
「これを見て下さい」
そこには、琢己が子分達と共に幼稚園児位の女児から
御菓子を奪う場面が鮮明に映されていた。
数秒後、今度は拳骨が炸裂した。
「御前、こんな事までしていたのか!」
「何処迄腐っているの!」
杏果のスマホに有った証拠の動画を全て確認した後
由美子は丁寧に一礼した。
「杏果ちゃん、有難う。御蔭で重要な真実が分かったわ」
「いえ。遅かれ早かれ届け出る予定でした」
幾度も御礼を言った後、琢己の家族は果肉入りの
果物ゼリーのギフトセットと幾許かの金を置いて帰った。
次に来たのは香織の両親と祖父母だった。香織本人は
丸坊主ではなかったが、頰には手形が幾重にも重なり
目は真っ赤だった。加えて、歩き方が不自然だった。
「うちの娘が申し訳御座いません」
「杏果さんに嫌な思いをさせてしまいました」
「わしらの教育が間違っていたんですな。孫娘だからと
甘やかし過ぎた結果がこのザマです」
「1から育て直すことに決めました」
両親と祖父母が謝罪している最中
琢己のやり取りを聞いていたのか
香織は早いタイミングで土下座した。
「本当に御免なさい! 私、酷い事して・・・」
謝罪を受けた後、杏果は香織の両親と祖父母の所へ
歩み寄り、膝をついた。
「面を上げて下さい。皆さんの気持ちはよく分かりました。
後の事は御任せ致します」
何とでも解釈出来る言葉なので、両親と祖父母は一時
フリーズしたが、直ぐ“罰するなら徹底的に”と解釈した。
「それはもう絶対やります!」
「長居するのもアレなんで今日は失礼します」
「御詫びにこれを御納め下さい」
「大変申し訳御座いません」
杏果の好きな、魔法少女の絵柄入りのスケッチブックと
慌てて用意したであろう札束を置いて一行は去っていった。
「おじいちゃん、これ金庫に入れとかないとね」
「そうだな。次の人が入るのはその後だ」
応接間の隣に有る書斎に入ると、寛司は
現金を金庫に入れた。
その後も大体は同じだった。パン屋の店主である斎藤浩美は
娘の沙織を引っ立てると謝罪の言葉を口にした後
現金+自分の店の無料券を置いていった。
「沙織の父親が亡くなり、女手一つで育てるのが大変と痛感しました。
本当に申し訳御座いません」
全く予想外の事実に、杏果と寛司は思わず目を見開いた。
当の沙織はげっそりしていた。
将太の両親、平田義行・慶子夫妻は、流石は病院長夫妻というだけあって
慰謝料の額が桁違いだった。加えて、お詫びの品の数も最多だった。
両親の謝罪の後、杏果より小さな女の子が一緒に土下座した。
「ごめんやしゃい」
未だ舌足らずな幼子が気になり、杏果は歩み寄った。
「こちらは?」
「名前は美紀と云います。将太の妹です」
慶子は答えた後、慌てて美紀を起き上がらせた。
「美紀ちゃん、うちへ遊びにいらっしゃい。面白い物
沢山有るから。御両人、問題有りませんよね?
美紀ちゃん本人には何の罪も有りませんから」
幼稚園の頃から発揮してきた統率力を活かし
杏果は美紀の顔が曇らない様にした。
その優しさに義行と慶子は思わず笑顔になった。
「有難う、杏果さん。確かに美紀は何も悪くないな」
「どうやら美紀もあなたを姉の様に慕っている様ね。
これなら連れて来ても大丈夫でしょう」
最終的に受け取ったのは、数え切れない程の慰謝料に加え
キャラ物文房具・お飯事セット・魔法少女の主題歌/キャラソンCD・図書カード等
あっさり受け取るのが気が引ける程だった。しかし、好意を足蹴にするのも
嫌なので、結局受け取ることにした。
当の将太は丸坊主の上、顔に包帯を巻いていた。素顔は分からなかったが
余程強烈な折檻を受けたのだろうと想像した。
「丁度良いから今ここで言っておくわ。
杏果さんと、お祖父様もよく聞いておいて下さい。
将太、あなたに与える予定だった、病院の跡目は無し。
全ての権限は妹、美紀に与えるから」
「そ、そんなぁ!!・・・俺の夢が・・・人生が・・・・・・」
急に母から院長の顔になったのを見て、将太は絶望の沼に沈んだ。
治夫の父方の祖父母、横山泰三・純子夫妻は、自分達が
歌声喫茶“ひかり”の会員であるという事情も重なり
泣きべそをかきつつ謝罪した。
「どうか面を上げて下さい。私は公私混同はしません。
治夫君のした事は決して水に流しませんが、それと
歌声喫茶は関係有りませんから」
何時の間にか人事権を行使する杏果を
寛司は頼もしいと感じた。
「今御聞きの通り、孫もこう言っています。ですから
辞める必要は有りません」
こう言われると固辞する訳にいかなかった。
「有難う御座います」
「この御恩は決して忘れません」
泰三・純子夫妻は杏果の好きな、怖い話を集めた本10冊に
加えて慰謝料を置いて去っていった。
尚、当の治夫は顔の輪郭が変わっていた。
最後に入った小塚邦夫・真希夫妻は、娘を連れて入って来た。
最初に口を開いたのは、6人組の中で唯一
皮膚に変化が無かった佳奈子だった。
「杏果ちゃん、御免! 不思議ちゃんの芝居はもう終わり」
流石にこれは意味が分からなかった。呆然としていると
佳奈子は事情を話し始めた。
「知っての通り、私は文房具メーカーの社長夫妻の一人娘。
香織はそれを知って、私をグループに引き込んだって訳。
令嬢と知って妬む輩を今迄何十人も見てきたから、当初
便利な用心棒が出来て助かったと考えていたんだよ。
だけど違う。あいつらは私を都合の良い道具としか思っていない。
確かに直接虐められた事は1度も無かったけど
あのグループに所属するのは本当に嫌だった。
何回もグループを抜けようかと思ったけど
香織と琢己が怖くて言い出せなかった」
涙を零しつつ謝るのを見て、杏果は勿論
寛司も強く言えなかった。
「だから、勇気を出して一連の事を全部
録音していたんだよ。これで香織達も終わり。
序に言うと、私は自ら事情を打ち明け、連れて来て
貰ったんだよ」
嗚咽し始めた佳奈子に代わって、両親が代わりに事情を説明した。
「普段から仕事で忙しく、娘を放置していた私達が悪いんです」
「悪意を止められなかったと娘は泣いていました。ですが
私達の所為でこうなった佳奈子も考え方次第では
被害者と言えます。直接何かした訳ではないと言っても
責任は取ります」
土下座する3人を見て、杏果は直ぐに決心した。
「佳奈子ちゃん、本当に責任を取る気なら御願い
聞いてくれる? この次は、あたしの家へ遊びに来て。
あたしは佳奈子ちゃんと友達になりたい」
事実上の無罪判決に、佳奈子はより一層号泣した。
佳奈子の膝の上に乗せられたと思うと、抱き着かれた
杏果は、小さく痙攣する背中を撫でながら両親を見上げた。
「これが私の意思です。佳奈子ちゃんは何も悪くありません。
ですからこの事で叱ったり、罰を与えるのは勿論
話題にも出さないであげて下さい。佳奈子ちゃんから
言い出したのであれば話は別ですが」
体格の差の所為で不自然な場面になっていたが、兎も角も
完全なる和解が成立した。
尚、慰謝料と、御詫びの品々である玩具・縫いぐるみ・キャラ物の衣料品
果物のギフトセット等は、両親の心情を慮り、受け取ることにした。
謝罪訪問の翌日の午後、明照は、遊びに来た杏果から事情を聞いた。
何も知らなかった明照は事情を知って唖然とした。
驚きの余り、金楚糕が咽喉に詰まるかと思ったが
香片茶で何とか流し込んだ。
「そんな事が有ったなんて。大丈夫だった?」
「うん。皆の前で恥をかかせようとしたらしいけど
全然効かないどころか、1年生と2年生の子達からの支持率
稼ぐことになっちゃった。たーかーにーにーと
みーなーねーねーには御礼しなきゃいけないね。
偶然とは言え、結果あたし達を助けてくれたし」
あっけらかんとしている杏果に明照は感服した。
虐めと全く気付かなかったばかりか、自分にとって
都合の良い事態を招くとは。矢張りポジティブな発想が一番と明照は考えた。
直後、何かを思い出した様に慌ててSongTubeの動画を再生した。
「杏果ちゃん、この歌を習いたいんだけど」
そこには、杏果のSongTube上での姿、“マジカル九尾狐”が
沖縄の童歌“耳切坊主”を歌う姿が有った。
また自分の動画を選んでくれた事が嬉しくて
杏果は満足そうに頷いた。
「OK その代わり今夜の鑑賞会はあたしが選ぶから。
今日はカードチェイサーチェリー・・・いや
魔法戦士レアアースにしようかな? まぁ、授業の後で決めるね」
この日、田中家の縁側には“耳切坊主”の二重唱が響いた。
道行く通行人は、暫し足を止めて聴き入った。
稲葉杏果だよー。今あたしは、可愛い婚約者
田中明照君の横で紅茶を淹れているよ。
博士号取得って本当に大変なんだね。大学院迄
学費無料の特待生でも努力を重ねるとは、流石あたしが見込んだ男の子。
だからあたしも負けじと努力して見事に特待生になれたよ。
受験戦争から逃げられて大ラッキーだね。
皆がヒーヒー言っているのを横目にお飯事したり
魔法少女ごっこしたり出来るって嬉しいねぇ。
今日は、明照君の好きなアップルティー。
あたしって小さい頃から苦い味が平気だったんだよね。
同級生が皆驚いてたっけ。
尤も、ブラック珈琲は胃と十二指腸に悪いから断るけど。
明照君、君は何度となく言ってたね。あたしと出会って以降
人生が大きく変わったって。正直に言うと、あたしもなんだよ。
あの日、何故か一目で明照君が気に入ったんだけど、あの時の行動は
100%正しかったと今も考えているんだ。
今迄、会員さんに可愛がられた事は何度も有ったけど
何処か遠慮してたんだよね、あたし。
おじいちゃんとおばあちゃんも、優しいから
甘えれば必ず応えてはくれただろうね。だけど
歌声喫茶の御仕事が大変だろうから気を使ってたんだ。
大好きを全力でぶつけられる相手って本当に大事だね。
変わったと言えば明照君もそうだよ。
盆踊りの練習、よく頑張ってたね。最初の1〜2年は
ぎこちなかったけど、何時しかあたしと互角になったね。
未だにアラレちゃん音頭・プリキュア音頭・おジャ魔女音頭
ドラえもん音頭等を聴くと当時の事を思い出すよ。
そう言えば、この前映画館に行ったら大柄な小学生と
間違えられたよね。言っとくけど、あたしは何も言ってないよ。
だから何も悪い事はしてないから。何の責任も関係も無いよ。
確か“今回は従業員が間違えたから仕方ないけど、もし
騙し取ったらお尻ペンペンするよ”と言ったね。
冗談なのか本気なのか分からないけど、明照君なら良いよ。
余談だけど、小学3年の時、あたしに恥をかかせようとした連中の内
琢己君・治夫君・香織ちゃん・沙織ちゃんは何処かへ引越して音信不通。
将太君の妹、美希ちゃんとは今もよく一緒に遊んでいるよ。勿論
明照君とも仲良し。
当の将太君は何処かの御寺へ預けられたんだって。何時か
本当に心から反省したら迎えに行くと御両親から聞いたけど
如何なるんだか。てか、御寺に預けるって、今の時代
未だやってたんだねlololololol
佳奈子ちゃんは、一時期あたしを怖がってたけど
それも今は昔の物語。
美希ちゃん・佳奈子ちゃんとは、互いの結婚式に出る
約束を交わしたんだよ。少し気が早いかな?
え?何?おじいちゃんとおばあちゃんは如何したって?
元気一杯だよ。今日も皆に
歌を教えているんだけど、よく通る声だから
遠くに居ても聞こえるんだよね。
序に言うと、明照君の家族も未だに全員元気だよ。
近い内、皆で焼肉バイキング行くんだ。今から楽しみ。
あ、そうだ、遊園地のお化け屋敷に入った時、泣きじゃくりながら
ずっとあたしの腕を握ってた事は忘れないから、色々な意味で。
大学の文化祭のお化け屋敷より低レベルな作り物の何がそんなに
怖いんだろうね。未だにこれだけは理解不能だよ。
稲葉杏果→稲葉郷子(地獄先生ぬ~べ~)
性格は横山千佳(デレマス)が基本ながら
筆者オリジナルの要素も有り。
尚、元々は“杏花”表記だった。しかし、花は散るから
短命のイメージが付き纏うので悪いと思い変更。
歌声喫茶“ひかり”の名前の由来→1964年に開通した新幹線の名前に肖った
吉野“均”→今村均陸軍大将
田中“千枝”→佐々木千枝(デレマス)
小銭チョコのCM→“♪フリフリフレークチロルチョコ
フリフリフリフリチロルチョコ♫”で御馴染の、あの伝説のCM
工藤俊子→工藤俊作帝國海軍中佐
陸ノ幕で工藤俊子が選択肢を与える場面→YouTubeのチャンネル“アキオとお嬢”で
主人公、鈴木アキオが破落戸に究極の三択を与える場面のパロディ
仙石聡→煉獄杏寿郎+日野聡(煉獄さんのCV)
派手な身なりの男女5人組→新警察故事(香港, 2004年)に出てくる強盗団がモチーフ
ここらで一杯ミルクティーが怖いな→落語“まんじゅうこわい”のオチ
ムーンライトガーディアン→美少女戦士セーラームーン
ムーンライトワンド→同作1期のアイテムであるムーンスティック
カードチェイサーチェリー→カードキャプターさくら
魔法戦士レアアース→魔法騎士レイアース
その他人名→完全に適当
この作品をTwitterに載せたところ、色々な質問をフォロワーさん
及び、F外の方々から賜りました。
完結させる予定でしたが、急遽1ページ追加させて頂きます。
流石に全部は書き切れませんが
“御想像に御任せします”では済まないと判断した質問を以下に載せます。
Q:何故この作品を書こうと思ったんですか?
A:元々、歌声喫茶が舞台の作品というアイデア自体は前から有りました。
Twitterの広告で偶然アルファポリス主催の
“ほっこり・じんわり大賞”の開催を知って
志願したくなったのです。
加えて、こちらでも第6回スターツ出版文庫大賞が有り、尚更
志願したくなりました。
Q:東側諸国の歌はどうやって知ったのですか?
A:NHKロシア語講座でソ連の国歌を聴き、YouTubeで
検索した事が全ての始まりです。
そこから芋蔓式に他の楽曲の情報も出てきました。
尚“ソビエト陸軍の歌”は
韓国映画“二重間諜”のOPに使われていたことから知りました。
Q:東側の楽曲は沢山有りますが、どんな基準で選びましたか?
A:私の耳と脳にとって心地良いか否かを重視しました。
加えて知名度が低い楽曲を優先させました。
Q:どうして難しい漢字を選んで書いているんですか?
A:盗作対策の一環です。
私思うんですよ。この世界では、盗作は、私の知る限り
最低最悪の、腐れ外道の蛮行だと。どんな理由が有ったとしても
常にやった側が問答無用で100%悪です。
何か他に良い盗作対策のアイデア御座いましたら伺います。
Q:何故、舞台に歌声喫茶を選んだのですか?
A:歌声喫茶が舞台の作品は書いている人が殆ど居ないと考えたからです。
事実、アルファポリスでは私が第1号でした。
検索したところ、ノベマでも私が1号でした。
Q:書いていて挫折しそうになった事は何回ありますか?
A:1回も有りませんでした。尤も、ワクチン接種した日は
副反応が有ったので流石に休ませて頂きましたが。
Q:悪い評価を恐れたことは有りますか?
A:全く無いと言ったら嘘になりますね。しかし、私は書く時
常に“ Be positive and take it easy.”を心掛けています。
Q:アイデアは何処から出てくるんですか?
A:決まっていません。只、何時閃いても良い様に
外出時は常にボールペンとリングノートを携行しています。
Q:何故虐め悪い事をした面々は必ず酷い目に遭っているんですか?
A:そんな輩は無間地獄へ蹴落とさないと気が済まないからです。
Q:何か、沖縄県出身のカップルが凄い人格者ですね?
A:昔、私が沖縄に行った時、ウチナンチュが親切だった
事が印象的でした。以来、47都道府県で一番良いイメージ持っています。
Q:小3なのに5~6歳程度の体格で、主人公を好きになってくれて
しかも人に教えられる程歌が上手な上リーダーシップが有り
一緒に御風呂入ろうと誘うなんて、そんな子現実に居る訳ないですよね?
万一何かの間違いで本当に居たとして、怖いですよ。
A:本作の内容は100%フィクションです。実在の人物/出来事とは一切無関係です。
其れにですよ、99.99%の確率で、あなたの仰る通り居ないとしましょう。
万一、残りの0.01%の確率が奇跡的に当って実在したとしたら、私は嬉しいです。
Q:小さい女の子と男子中学生が一緒に御風呂に入るって犯罪なんじゃ?
A:投稿ガイドラインは遵守しています。何も疚しい事は有りません。
寧ろ、生活の一場面からそんな要素を見出すあなたの
想像力の方が凄いです。
Q:果物を食べる場面が何度か出てきますがどうしてですか?
A:筆者の好物だからです。
余談ですが、農林水産省のデータによると、甜瓜/西瓜/苺は野菜だそうです。
また、米国では蕃茄が果物か野菜か法廷で本気で争ったことが有りました。
結果、蕃茄は野菜と云う判決が下りました。
Q:どんな気持ちでこの作品を書いたんですか?
A:深夜テンションと興奮、それからノリと勢いです。
只、第三者の知的財産権を侵害しない様にする為
精密さも決して忘れませんでした。
序に言うと、ルビを振る作業は地味に大変でした。
Q:キャラに共感/感情移入し難いのですが?
A:聖書の登場人物に共感/感情移入出来ない人だって五万と居ます。
ですからあなたは何も異常ではありません。安心して下さい。
Q:書いてて楽しいですか?
A:楽しいです
Q:リアリティが微塵も感じられないのですが?
A:そりゃそうでしょうね。100%フィクションですから。
Q:自己満足としか思えないのですが?
A:誰だって大なり小なり其れは有ると考えます。
今度こそ完結の予定でしたが、読者から、楽曲の一覧が欲しいと云う
要望が相次ぎました。よって、それに御応えするべく記しました。
楽曲名と、元々何処の国で作られたか書きます。
尚、検索の際邪魔になると考え、ルビは敢えて省きました。
Священная Война ソ連
독립군가 日本統治時代の朝鮮
L'Internationale フランス
사대문을 열어라 韓国
The Red Flag アイルランド
喀秋莎 歌詞は中国語だけどあくまで原産国はソ連
Warszawianka ポーランド
Песня объединённых армий ソ連
Ой, мороз, мороз 帝政ロシアと推定
коро́бушка 同上
Три танкиста ソ連
Россия Родина моя 同上
Auferstanden aus Ruinen 東ドイツ
Огонёк ソ連
Тро́йка 帝政ロシアと推定
Подмосковные вечера ソ連
メーデー歌 日本
Неделька 帝政ロシア
Калинка 帝政ロシア
Гимн Международного союза студентов ソ連
良い子と悪い子の歌 筆者オリジナル
おしりの山はエベレスト 日本
Гимн СССР ソ連
Believe 日本
La Chanson de l'oignon フランス
John Brown's Body アメリカ
Blood Upon the Risers 同上
British Grenadiers イギリス
Johnny I hardly knew ya 同上
Уральская рябинушка ソ連
Стенька Разин 帝政ロシア
По долинам и по взгорьям ソ連
へーコキましたね 日本
人民志愿军战歌 中国
Амурские волны 帝政ロシア
Песня о Родине ソ連
パッパパイナップル 日本(沖縄県)
UNIONですから! 同上
フルタ製菓 社歌 日本
耳切坊主 琉球王国
桜撫子で御座います。最後迄読んで下さり、有難う御座いました。
本作の執筆を終えて、私も自信を持てました。
作中に出てきた楽曲はどれもこれも初めて聴いたって方が
大半ではないでしょうか。無理からぬ事です。
仮に知っていたとしても、原語で聴くとニュアンスや雰囲気が
異なる気がするでしょうね、人によっては。
知っている=歌える とは限らない問題、本当によく有ります。
私にとってもこれは他人事ではありません。
良い機会なので私の考えを話します。私は、漫画/小説がアニメ化された時
原作者が主題歌を作詞するのって素晴らしい事だと考えます。
何故なら、作品についてよく知る人がやる方が、作品の世界観に
相応しいものが出来るからです。何一つ知らない作詞者がやった場合
原作者の思いと乖離した、チグハグな物が出来るかもしれません。
これを言うと、そんなの聞いた事ないって反応が来るでしょう。
しかし、前例なら有ります。黒澤明監督然り、CLAMP先生然り
やなせたかし先生然り、武内直子先生然り。
剰え、たてかべ和也さんに至っては、原作者でないにも拘らず
御自身の担当のキャラソン“おれはジャイアンさまだ!”の作詞を司りました。
私はこれらの事実を知って、自分の作品に責任を持ち、愛情を注ぐとは
こう云う事だと考えました。
今更ですが、裏事情を1つ話します。本作のメインヒロイン
稲葉杏果の祖父母ですが、当初の予定では、血の繋がらないと云う
設定にする予定でした。何故なら、其の方が面白いと考えたからです。
只、これを捩じ込むと話がややこしく+重苦しくなる気がしました。加えて
“ほっこり/じんわり”とズレると考えました。なので結局没にしました。
尚、此処で予告します。Pixiv BOOTHでは、本編と番外編では到底
書けなかった事を扱った内容を販売致します。
鋭い読者の方なら何の事か分かったのではないでしょうか。
何れまた別の作品でお会いしましょう。
追伸
本作の内容は100%フィクションです。
実在の人物/出来事とは一切無関係です。