※
「ほら、買ってきたよ」
炎天下の中、僕は近くのコンビニに走り、おにぎりや飲み物を適当に見繕って買った。若い店員が、僕の了承も得ないまま、レシートを捨てようとしたので、少しだけ焦った。あとで経費を明日香に請求しないといけないから必要だった。
萩上は新聞の切れ端の山の中に埋もれていて、僕が帰ってくると、春先の熊のように、そこから出てきた。
髪をぼさぼさにしたまま僕に聞いた。
「なにを買ったの?」
「ああ、おにぎり」
高菜のおにぎりを渡す。
「あと、緑茶いる?」
「いる」
「プリンも買ってきてるけど」
「いらない」
「手拭きは?」
「それはいる」
萩上千鶴は僕の手から手拭きを奪い取った。
おにぎりの味を見て、顔を顰める。
「おかか無かったの?」
「ああ、多分あったと思う」
「おかかがよかった」
高菜味を頬張りながら、僕のおにぎりの具材のチョイスについて文句を言う萩上千鶴。
「買いなおしてこようか? コンビニ、すぐ近くだし」
「いい。いらない」
「そう」
「麦茶は無かったの?」
「あったと思う」
「麦茶がよかった」
「そう」
何なら、買いなおしてこようか? と言おうと思ったが、どうせ「いらない」と言われるんだろうな。
「買いなおしてきて。アパートのすぐ前に自販機があるから、そこで買ってきて」
「あ、ああ、そう」
僕はすぐに麦茶を買いに戻った。
自販機で買って、表面に結露が浮いている麦茶を受け取ると、萩上は、口の中の白飯を流し込むようにして飲んだ。そして、半分くらい飲んだ緑茶のボトルを僕に投げる。
「それ、要らないから、捨てておいて」
「ああ、うん」
萩上は、高菜おにぎりと昆布のおにぎりを平らげ、結局、プリンもスプーンですくって食べた。喉が渇いていたのか、麦茶のボトルは一瞬で空になった。
手拭きで口を拭った彼女は、ぼそりと「ありがとね」と言った。それだけで、暑い中買いに行った甲斐があるものだ。
「喜んでもらえて何より」
僕はコンビニのナイロン袋に、彼女が出したゴミを入れると固く結んだ。
「じゃあ、僕はこれで帰るから。また機会があればね」
そう言って、部屋から出ていこうとした。
しかし、彼女の不機嫌そうな声が、再び僕を引き留めた。
「ねえ、何処に行くの?」
「え?」
どこって言われても。
「帰るんだけど?」
「なんで?」
「なんでって」
それは、お前が「世話役なんていらない」って言ったから。
萩上千鶴は新聞紙や広告の切れ端の山の中にちょこんと座っていた。そして、顎であたりのものを指し示す。
「桜井正樹君だっけ?」
「ああ、うん」
「世話人なんでしょ?」
「まあ、明日香に頼まれたから」
「だったら、ここ、片づけて」
「え?」
「なによ。世話人なんでしょ?」
萩上は、乱れた髪をかき上げて、上から目線で言った。
「仕方ないから、世話をさせてあげるわ」
僕が「わかったよ」と頷いても、彼女は俯き加減に、ぶつぶつと「契約はフェアじゃないといけないわね」とか「せっかくだから、お願いするわね」と、言い訳染みたことを言っていた。
僕の頭の中には、真っ先に「きまぐれ」という言葉が浮かんだ。
この女。気まぐれだな。気分がコロコロと変わる。
「ほら、買ってきたよ」
炎天下の中、僕は近くのコンビニに走り、おにぎりや飲み物を適当に見繕って買った。若い店員が、僕の了承も得ないまま、レシートを捨てようとしたので、少しだけ焦った。あとで経費を明日香に請求しないといけないから必要だった。
萩上は新聞の切れ端の山の中に埋もれていて、僕が帰ってくると、春先の熊のように、そこから出てきた。
髪をぼさぼさにしたまま僕に聞いた。
「なにを買ったの?」
「ああ、おにぎり」
高菜のおにぎりを渡す。
「あと、緑茶いる?」
「いる」
「プリンも買ってきてるけど」
「いらない」
「手拭きは?」
「それはいる」
萩上千鶴は僕の手から手拭きを奪い取った。
おにぎりの味を見て、顔を顰める。
「おかか無かったの?」
「ああ、多分あったと思う」
「おかかがよかった」
高菜味を頬張りながら、僕のおにぎりの具材のチョイスについて文句を言う萩上千鶴。
「買いなおしてこようか? コンビニ、すぐ近くだし」
「いい。いらない」
「そう」
「麦茶は無かったの?」
「あったと思う」
「麦茶がよかった」
「そう」
何なら、買いなおしてこようか? と言おうと思ったが、どうせ「いらない」と言われるんだろうな。
「買いなおしてきて。アパートのすぐ前に自販機があるから、そこで買ってきて」
「あ、ああ、そう」
僕はすぐに麦茶を買いに戻った。
自販機で買って、表面に結露が浮いている麦茶を受け取ると、萩上は、口の中の白飯を流し込むようにして飲んだ。そして、半分くらい飲んだ緑茶のボトルを僕に投げる。
「それ、要らないから、捨てておいて」
「ああ、うん」
萩上は、高菜おにぎりと昆布のおにぎりを平らげ、結局、プリンもスプーンですくって食べた。喉が渇いていたのか、麦茶のボトルは一瞬で空になった。
手拭きで口を拭った彼女は、ぼそりと「ありがとね」と言った。それだけで、暑い中買いに行った甲斐があるものだ。
「喜んでもらえて何より」
僕はコンビニのナイロン袋に、彼女が出したゴミを入れると固く結んだ。
「じゃあ、僕はこれで帰るから。また機会があればね」
そう言って、部屋から出ていこうとした。
しかし、彼女の不機嫌そうな声が、再び僕を引き留めた。
「ねえ、何処に行くの?」
「え?」
どこって言われても。
「帰るんだけど?」
「なんで?」
「なんでって」
それは、お前が「世話役なんていらない」って言ったから。
萩上千鶴は新聞紙や広告の切れ端の山の中にちょこんと座っていた。そして、顎であたりのものを指し示す。
「桜井正樹君だっけ?」
「ああ、うん」
「世話人なんでしょ?」
「まあ、明日香に頼まれたから」
「だったら、ここ、片づけて」
「え?」
「なによ。世話人なんでしょ?」
萩上は、乱れた髪をかき上げて、上から目線で言った。
「仕方ないから、世話をさせてあげるわ」
僕が「わかったよ」と頷いても、彼女は俯き加減に、ぶつぶつと「契約はフェアじゃないといけないわね」とか「せっかくだから、お願いするわね」と、言い訳染みたことを言っていた。
僕の頭の中には、真っ先に「きまぐれ」という言葉が浮かんだ。
この女。気まぐれだな。気分がコロコロと変わる。