夢を見ていた。
萩上の夢だ。
僕は暗闇の中に立っていて、萩上はその先、ぼんやりと光った場所で蹲っている。
膝に顔をうずめて、何かに怯えるように肩を震わせる。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
と、誰かに対して、必死に謝っていた。
蹲る彼女の周りには、今までに彼女が壊してきたものが散らばっていた。
粉々に割られた、窓ガラスや食器、カッターナイフで切ったと思われる、財布や本、学校の教科書に、リクルートスーツまで。テレビやスマホなどの機械類。箸や鉛筆、シャーペンも綺麗に半分に折られていた。
萩上は自分がしたことを後悔し、髪の毛を掻きむしり、手の甲に爪を突き立てて、ガリガリと引っ掻いていた。当然、手の甲や頭には血が滲んでいて、痛々しい姿だった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
ニ十歳になった萩上。
蹲る彼女の姿を見ていると、着ている服や、その奥の肌がぼんやりと透けて、身体の中に誰かが入っていることに気が付いた。
ニ十歳の萩上の中に、十四歳の萩上がいた。
幼い萩上も、大人になった萩上も、言っていることは同じ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
ひたすら、震えて、泣きながら、その言葉を呟いていた。
ああ、そうか、一緒なのか。
こんな時に場違いかもしれないが、兵頭と転売するゲームを買いに行った時のことを思い出した。
そのゲームは、ゲームボーイが流行したころに発売されたRPGのリメイク版で、グラフィックもやり込み度も格段に上がったものだった。しかし、発売前の評価は最悪。「昔のドット絵でプレイするからこそ至高なんだ!」という意見が目立ったのだ。兵頭はその意見にうんざりしたように言った。「古参め! 思い出だよ! 思い出! みんな思い出を美化しすぎるんだ! 結局、昔のゲームは今のゲームに勝てないんだ!」と。
僕の思い出の中の萩上は、今でも、僕を導く女神のような存在だ。
だけど、結局、あの頃の萩上は「十四歳」だ。
なんでもできるように見えて、できないことだって多かったのだ。
働くことも、一人暮らしをすることも、炊事洗濯も、きっと十分にすることはできない。だって、十四歳だから。
萩上さんって、本当にすごいね。
萩上さんって天才だね。
萩上さんはきっと大物になるよ。
萩上さんと一緒のクラスになれて光栄だよ。
あの学校にいた奴らが、萩上に投げかけた言葉、羨望の眼差し。
そのすべてが、十四歳の彼女の身には重すぎた。
僕が憧れていたのは、ただの「十四歳の少女」だ。
「萩上…」
僕は夢だとわかっていながら、泣きじゃくる十四歳の萩上と、二十歳の萩上に向かって手を伸ばしていた。
手の中に、ひんやりとした感触が残る。
そこで、僕は目を覚ました。
萩上の夢だ。
僕は暗闇の中に立っていて、萩上はその先、ぼんやりと光った場所で蹲っている。
膝に顔をうずめて、何かに怯えるように肩を震わせる。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
と、誰かに対して、必死に謝っていた。
蹲る彼女の周りには、今までに彼女が壊してきたものが散らばっていた。
粉々に割られた、窓ガラスや食器、カッターナイフで切ったと思われる、財布や本、学校の教科書に、リクルートスーツまで。テレビやスマホなどの機械類。箸や鉛筆、シャーペンも綺麗に半分に折られていた。
萩上は自分がしたことを後悔し、髪の毛を掻きむしり、手の甲に爪を突き立てて、ガリガリと引っ掻いていた。当然、手の甲や頭には血が滲んでいて、痛々しい姿だった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
ニ十歳になった萩上。
蹲る彼女の姿を見ていると、着ている服や、その奥の肌がぼんやりと透けて、身体の中に誰かが入っていることに気が付いた。
ニ十歳の萩上の中に、十四歳の萩上がいた。
幼い萩上も、大人になった萩上も、言っていることは同じ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
ひたすら、震えて、泣きながら、その言葉を呟いていた。
ああ、そうか、一緒なのか。
こんな時に場違いかもしれないが、兵頭と転売するゲームを買いに行った時のことを思い出した。
そのゲームは、ゲームボーイが流行したころに発売されたRPGのリメイク版で、グラフィックもやり込み度も格段に上がったものだった。しかし、発売前の評価は最悪。「昔のドット絵でプレイするからこそ至高なんだ!」という意見が目立ったのだ。兵頭はその意見にうんざりしたように言った。「古参め! 思い出だよ! 思い出! みんな思い出を美化しすぎるんだ! 結局、昔のゲームは今のゲームに勝てないんだ!」と。
僕の思い出の中の萩上は、今でも、僕を導く女神のような存在だ。
だけど、結局、あの頃の萩上は「十四歳」だ。
なんでもできるように見えて、できないことだって多かったのだ。
働くことも、一人暮らしをすることも、炊事洗濯も、きっと十分にすることはできない。だって、十四歳だから。
萩上さんって、本当にすごいね。
萩上さんって天才だね。
萩上さんはきっと大物になるよ。
萩上さんと一緒のクラスになれて光栄だよ。
あの学校にいた奴らが、萩上に投げかけた言葉、羨望の眼差し。
そのすべてが、十四歳の彼女の身には重すぎた。
僕が憧れていたのは、ただの「十四歳の少女」だ。
「萩上…」
僕は夢だとわかっていながら、泣きじゃくる十四歳の萩上と、二十歳の萩上に向かって手を伸ばしていた。
手の中に、ひんやりとした感触が残る。
そこで、僕は目を覚ました。