次の日の六時ごろ、僕は萩上に腹を蹴られて目を覚ました。

 アパートにいるときと変わらず、彼女は「お腹空いた」と不機嫌そうに言った。母さんや兄貴もまだ眠っていたので、台所を借りて朝食を作った。白ご飯と、味噌汁、目玉焼きとかなり簡素な朝食だったが、彼女は「マズイ」と言いながら完食してくれた。
 シャワーを浴びて、身支度を整えると、居間に敷いた布団の中で熟睡している母親と、仕事のために起きてきた兄貴に一声掛けて家を出た。
 バイクに跨り、出発する。
「どうだった?」
 東の太陽に目を細めながら、後ろに跨っている萩上に聞いた。
 萩上は僕の胴回りに枝のような腕を回して言った。
「楽しくなかったわ」
「そうだろうな」
「ねえ、早く帰ってよ。エアコンのある部屋で眠りたいわ」
「あと一時間くらいかなあ」
「電車を使えば良かったのに」
「お前が『人混みは嫌だ』って言ったのに」
「言ってない」
 言ったくせして、萩上は否定した。そして、八つ当たりと言わんばかりに、僕の右肩にガリッと噛みついた。
「あのね、痛いんだよ」
 甘噛みとかじゃなくて、彼女は本気で歯を突き立てていた。
 萩上はむすっとして、もう一度「言ってない」と呟いた。