アパートに戻って、熱々のシャワーを浴びてから、布団の上に横になり、新しく買ってきた参考書をダラダラと読みながら時間を潰していると、ふと、枕元に置いてあったスマホがメッセージを受信した。
 一瞬、「萩上か?」と期待したが、期待外れの母さんからだった。
『お彼岸には帰ってきなさいよ』
 とのこと。
 僕は「了解」とだけ返信して、スマホを放り出した。
 お彼岸。つまり、死者があの世から帰ってくる日のことだ。母さんは毎年、この「お彼岸」を口実に、僕に実家に帰省するように仕向けてくる。
 めんどくさいなあ。
 僕は頭をぽりぽりと掻いて寝返りを打った。
 めんどくさい。とにかくめんどくさい。
 確かに、帰れない距離では無い。バイクに乗れば一時間ほどで着く場所だ。だが、どうしても、帰省した時に、僕を迎え入れるあの親戚一同の空気は耐えがたいものだった。「大学はどうなの?」「彼女はできた?」「ちゃんとご飯食べてる?」「体調管理には気を付けるのよ」「変な宗教に入っちゃだめよ」なんて…。距離感を知らないというか…、べたべたしすぎというか。
 大体、法事にはちゃんと参加しているんだ。彼岸の日くらい見逃してほしいものだ。
 僕はぶつぶつと文句を並べながら、放り出したスマホを掴むと、スケジュール表を開いて、予定の確認をした。たった数日の辛抱。我慢するしかないか。
 萩上にはまた今度言っておくか。
 それから、僕は部屋の明かりを消すと、おもむろにテレビを付けた。NHKで放送されているドキュメント番組をBGM代わりに、合唱コンクールのことを思い出していた。