★★★
中学二年の文化祭の時だ。
僕たちの学校では、基本的に、一年生はお化け屋敷や縁日などのアトラクション。二年生は、飲食物の販売。三年生は受験のため出し物はしない。という決まりがあった。
全校投票で一番よかったクラスに賞状が贈られる。というのもあって、皆、出し物についての話し合いには積極的であった。
度重なる審議の結果、僕たちのクラスは「パンケーキ屋」をやることになった。安直な考えかもしれないが、パンケーキは簡単に焼くことが出きるし、生クリームやフルーツ。チョコ等のトッピングのパターンは無限大。ナタデココジュースなどの流行りの波に、バリエーションで対抗しようとした結果だ。
僕や兵頭は何もやる気がなく、店の看板製作や、販売員の割り振りの話合いなんて、右耳から左耳に聞き流していた。それでよかったと思う。実際、萩上を始めとする、やる気のある女子や、優等生の男子が率先して動いていたので、僕や兵頭の役割なんて皆無だった。
だけど、パンケーキの焼き方は全員が覚えなければならなかった。
放課後、僕と兵頭を始めとする「料理をしたことが無い男子」たちが家庭科室に呼び出され、女子たちから指導を受けた。
最初、僕はパンケーキを焼くことを安易に考えていた。
どうせ簡単なんだろ? ホットケーキミックスと水を混ぜ合わせて、油を引いたフライパンの上で焼くだけじゃないか。
そう考えて、適当にホットケーキミックスをかき混ぜて、脂を引いたフライパンの上に流した。
ええと…、表面に泡が浮いてきたら、フライ返しで返すんだよな…。このくらいか? いや、まだ柔らかそう。これでひっくり返したら潰れるかもしれない…。
そんなことを考えながら、フライパンとにらめっこした。
隣では、兵頭がお玉を持ってふざけている。仕切りたがりの女子が、それを叱っていた。
そろそろ、かな。
僕はホットケーキミックスの下にフライ返しを滑り込ませると、勢いそのままに返した。
「え…」
背中の辺りが一瞬で冷たくなった。
ホットケーキは、真っ黒だったのだ。
「あー、焼きすぎちゃったね」
黒色のエプロンを着けた萩上が横から覗き込んできて、苦笑した。
僕はむっとして言った。
「だって、『泡が立ってきたら』って…」
「確かにそうだけど…、もう少し早い方がよかったね。特に、ホットケーキは砂糖が多いから焼けやすいんだよ」
「失敗か…」
顔が熱くなるのを感じた。
「ちょっと貸してね」
萩上は僕の手からフライ返しを奪い、ホットケーキの形を整えていく。手慣れているな。動きがまるでプロのそれだ。
「どうする? 食べられないことは無いけど、ちょっと苦いかも」
「食べるよ」
たとえ焦げようが、食べ物を捨てるのには抵抗があった。
「じゃあ、ちょっと甘くしよっか!」
萩上は、キツネ色に焼かれた裏面を皿に移すと、バター。そして、はちみつをたっぷりと掛けた。
「これで、苦みは抑えられたかな? 足りなかったら掛けてもいいよ」
「ああ、うん、ありがとう」
「どういたしまして」
萩上はにっこりと笑うと、また、別の台の男子の救助に向かった。
僕はフライパンの後片付けだけして、席に着く。
フォークでホットケーキを切って、口に含んだ。
甘い。とにかく甘い。虫歯になりそうなくらい甘かった。
だけど、少し、苦みが残った。
中学二年の文化祭の時だ。
僕たちの学校では、基本的に、一年生はお化け屋敷や縁日などのアトラクション。二年生は、飲食物の販売。三年生は受験のため出し物はしない。という決まりがあった。
全校投票で一番よかったクラスに賞状が贈られる。というのもあって、皆、出し物についての話し合いには積極的であった。
度重なる審議の結果、僕たちのクラスは「パンケーキ屋」をやることになった。安直な考えかもしれないが、パンケーキは簡単に焼くことが出きるし、生クリームやフルーツ。チョコ等のトッピングのパターンは無限大。ナタデココジュースなどの流行りの波に、バリエーションで対抗しようとした結果だ。
僕や兵頭は何もやる気がなく、店の看板製作や、販売員の割り振りの話合いなんて、右耳から左耳に聞き流していた。それでよかったと思う。実際、萩上を始めとする、やる気のある女子や、優等生の男子が率先して動いていたので、僕や兵頭の役割なんて皆無だった。
だけど、パンケーキの焼き方は全員が覚えなければならなかった。
放課後、僕と兵頭を始めとする「料理をしたことが無い男子」たちが家庭科室に呼び出され、女子たちから指導を受けた。
最初、僕はパンケーキを焼くことを安易に考えていた。
どうせ簡単なんだろ? ホットケーキミックスと水を混ぜ合わせて、油を引いたフライパンの上で焼くだけじゃないか。
そう考えて、適当にホットケーキミックスをかき混ぜて、脂を引いたフライパンの上に流した。
ええと…、表面に泡が浮いてきたら、フライ返しで返すんだよな…。このくらいか? いや、まだ柔らかそう。これでひっくり返したら潰れるかもしれない…。
そんなことを考えながら、フライパンとにらめっこした。
隣では、兵頭がお玉を持ってふざけている。仕切りたがりの女子が、それを叱っていた。
そろそろ、かな。
僕はホットケーキミックスの下にフライ返しを滑り込ませると、勢いそのままに返した。
「え…」
背中の辺りが一瞬で冷たくなった。
ホットケーキは、真っ黒だったのだ。
「あー、焼きすぎちゃったね」
黒色のエプロンを着けた萩上が横から覗き込んできて、苦笑した。
僕はむっとして言った。
「だって、『泡が立ってきたら』って…」
「確かにそうだけど…、もう少し早い方がよかったね。特に、ホットケーキは砂糖が多いから焼けやすいんだよ」
「失敗か…」
顔が熱くなるのを感じた。
「ちょっと貸してね」
萩上は僕の手からフライ返しを奪い、ホットケーキの形を整えていく。手慣れているな。動きがまるでプロのそれだ。
「どうする? 食べられないことは無いけど、ちょっと苦いかも」
「食べるよ」
たとえ焦げようが、食べ物を捨てるのには抵抗があった。
「じゃあ、ちょっと甘くしよっか!」
萩上は、キツネ色に焼かれた裏面を皿に移すと、バター。そして、はちみつをたっぷりと掛けた。
「これで、苦みは抑えられたかな? 足りなかったら掛けてもいいよ」
「ああ、うん、ありがとう」
「どういたしまして」
萩上はにっこりと笑うと、また、別の台の男子の救助に向かった。
僕はフライパンの後片付けだけして、席に着く。
フォークでホットケーキを切って、口に含んだ。
甘い。とにかく甘い。虫歯になりそうなくらい甘かった。
だけど、少し、苦みが残った。