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 二年生に進級して、最初の登校日。
 僕が自転車で校門を潜った頃には既に、校舎の前に新しいクラス編成の紙が貼られて、そこに大勢の生徒が集まっていた。
 駐輪場に自転車を停めて、欠伸を噛み殺しながら新しいクラスの確認に行くと、集まって話していた男子の誰かが「やった! 萩上と同じクラスじゃん!」と言ったのが聞こえた。表彰式以外で彼女の名前を聞くのは滅多に無かったので、新鮮な気分だった。
 そして、やってきた僕に男友達の一人が気づいて、手を振りながら近づいてきた。
「おーい、正樹。やったな!」
「何がやったの?」
 僕はぼんやりと聞いていた。
「萩上と同じクラスだぜ?」
 その日、僕は初めて萩上千鶴と同じクラスになった。
 有名人に会うって気分は、こんな気分なのかと、思った。
 階段を上り、二年三組の教室に入った時、彼女は一番前の席に腰をかけていて、既に沢山の人間に囲まれていた。「萩上さんと一緒のクラスなんて幸せ」とか、「今年の合唱コンクールは勝ったも同然だね!」とか言われていた。
 壇上に上がった萩上しか見たことがなかった僕は、純粋に、「ああ、萩上って、実在したんだ」と隣の友人に洩らしていた。彼は大笑いしていた。「言いたいことはわかるぜ」と言われた。
 彼女の評判は、この一年で十分わかっている。五度の定期テストで、三回、学年一位を獲得。合唱コンクールではピアノを担当して、そのクラスを優勝に導いている。そして、話しかけられたら爽やかに返すあの人の良さ。
 全て現実だとわかっているのに、どうも、アニメの中の登場人物と対峙しているような気分に駆られた。
 これから、一年間、僕は萩上千鶴と同じ教室で同じ時を過ごす。定期テストの成績が中の下のような僕と同じ空気を吸い、同じ給食を食べて、合唱コンクールや体育祭、グループマッチ等、クラスの行事を萩上と行う。
 周りは「うれしい」とか言っているけど、僕は「嫌だな」と思った。別に、萩上と一緒にいることが嫌なのではない。僕みたいな平凡な奴が、彼女のような優秀な人間の足を引っ張ることが目に見えていたからだ。
 僕は多分、萩上の荷物になる。そして、クラスの邪魔になる。
 めんどくさいなあ…。
 そう思いながら、僕は席に着いた。