「た、頼むよぉ~」
 男はレヴィアの手を握り、みっともない顔で頼んだ。
 レヴィアは手を振り払うと、渋々男の腕をしげしげと眺め、
「シアン様の消し方複雑だから難しいんですよね……」
 と、つぶやく。そして目を閉じて右腕を両手で包むと、スーッと動かして消えた腕を再生させていく……。
「お、おぉ!」
 男は歓喜の声を上げ、右手を開いたり閉じたりしながら治った手を確認する。

「うちのスタッフやってみたいと思う?」
 シアンが聞いた。
「……。あんた達すごいわ……。そうだな……、うちの連中をみんな受け入れてくれるならやるよ」
「うちの連中って何人?」
 レオが聞く。
「だいたい千人だ」
「それはいいね!」
 レオはうれしそうに言った。
「入国審査は要りますけどね」
 奥からオディーヌが出てきて言った。
 ポカンとする男を、オディーヌは鋭い視線で男を射抜く。
「あ、あんたは……、もしかして……」
 男がビビって後ずさりしながら言う。
「オディーヌ、出てきちゃイカンって言っとったじゃろ……」
 レヴィアが渋い顔をして言う。
「お、王女様、見苦しい所をお見せしました……」
 男はひざまずいてうやうやしく言った。
「スタッフやるって本気なの? あなたの所属を述べなさい」
 オディーヌは威厳のある声で言った。
「お、俺……じゃない、私はヴィクトー。スラムの自警団のヘッドやってます」
「そう。じゃ、うちの運営にも協力してくれるかしら?」
「王女様のご命令なら……」
「命令を聞くのでは意味が無いのよ。ヴィクトーがやりたいかどうかが大切よ」
「……。チラシを初めて見た時、ふざけた連中だと怒りを覚えました。それで乗り込んできたんですが、少年の語る言葉、見せられた数々の奇跡、感服いたしました。ぜひ、非力ながら私も、少年の理想の実現に尽力させていただきたいと思います」
 そう言うと、ヴィクトーはまっすぐな目でオディーヌを見た。
「よろしい! それではお前はこれより我がアレグリスのスタッフよ」
 オディーヌはニッコリとそう言い渡す。
「ははぁ!」
 ヴィクトーは胸に手を当てて深く頭を下げた。










3-19. アレグリス始動

 ヴィクトーの精力的な活動でスタッフも集まり、受け入れ態勢が整い、零も転職してきて、いよいよ移民受け入れの日がやってきた。