日頃大麦まじりの硬いパンしか食べていなかった男は、白くふわふわで芳醇なパンに絶句する。
「これをね、欲しい人に欲しいだけ配るんだ」
 レオはうれしそうに言った。
「配るって……、無料か?」
「衣食住にお金は取らないよ。そう、アレグリスの憲法に書いてあるからね」
 見たこともない巨大な工場で作られる、食べたことのない上質なパン。そしてそれを無料で配ることをうたった憲法……。その圧倒的な先進性に男は言葉を失った。













3-18. スタッフ一号

「どう? スタッフやらない?」
 レオはニコッと笑って言う。
「いやいやいや、こんなすごいもの誰も見逃さない。どっかしら必ず攻めてくる国はあるし、盗賊も狙うだろ? 維持できんよ!」
「あー、軍事警察力の心配は不要じゃ。うちを狙う者は瞬殺じゃよ」
 レヴィアが横から説明する。
「瞬殺?」
「うちの防衛大臣にかなう者はこの世に存在せんのじゃ」
 そう言ってレヴィアはシアンの方を向いた。
「防衛大臣? あのネーチャンが?」
 男は怪訝(けげん)そうにシアンを見る。
 シアンはニコニコしながら近寄ってくると、
「どっからでもかかっておいで。拳交わした方が話早いよ」
 そう言ってクイクイッと手招きをした。
 男はシアンをなめるように見回して言う。
「ほう……。可愛い顔して言うことがエグいね。俺が勝ったら……そうだな、俺の女になってもらうよ」
「いいよ! 勝てたらね」
 シアンはニコッと笑った。
 男は軽くステップを踏みながらシアンに近づき、ジャブを二、三回放った。
 軽くスウェーして避けるシアン。
 そして次の瞬間、鋭い右ストレートが放たれた。
 が、シアンが素早く指先で触れた瞬間、右こぶしは四角い白黒のブロックノイズ群を残して消えてしまった。
「へっ!?」
 焦る男。ニヤリと笑うシアン。
「うわぁぁぁぁ!」
 ヒジから先が消えてしまった右腕を見て喚く男。
「君の女にはなれなかったなぁ、ふふふっ」
 シアンはうれしそうに笑った。
 男はきれいさっぱり無くなってしまった右腕を何度も見直し、
「ちょ! ちょっと待てよ! 俺の腕返せよぉ!」
 と泣き出してしまった。
 シアンはニヤッと笑って言った。
「男がそう簡単に泣かないの! レヴィアちゃん治してあげて」
「えっ!? 私ですか?」
 いきなり振られて焦るレヴィア。