スタッフ面接の日、倉庫で準備を整えていると、一人の若い男がふらりとやってきた。ネイビーのマリンキャップをかぶり、年季の入ったカーキ色のジャケットを羽織っている。
 男はテーブルを拭いているレオを見つけると、
「おい、小僧! 責任者を呼べ!」
 と、横柄に怒鳴った。
 レオは男を見上げると、
「責任者は僕だよ。なぁに?」
 と、笑顔で返した。
「はっ!? お前のようなガキが責任者!? ふざけんな!」
 男はテーブルをドン! と叩き、レオをにらんで喚く。
「歳は関係ないですよ。いい国を作ろうという情熱が全てです」
 レオは一歩も引かず、丁寧に言い切った。
 男はレオをにらんだまま動かない。
 レオも笑顔のまま男の目を見据える……。
 奥でシアンは指先を不気味に光らせながら、楽しそうに男の出方をうかがい、倉庫の中には緊張が走った。
 すると、男は相好を崩し、言った。
「お前、いい度胸だな……。悪かった。それで……。チラシ読んだんだが、いい事ばっかりしか書いてない。こんなうまい話あるわけがないだろ? 一体何を企んでるんだ?」
「企むも何も、この国の方がおかしいんです。貧しい子供が飢えて死んでるのに、偉い人は贅沢三昧(ぜいたくざんまい)。だから僕は当たり前の国を作るんです」
 レオは淡々と説明した。
「ほほう、こっちの方が当たり前……。お前凄いな……。だが、こんなきれいごと上手くいくはずがない。俺が化けの皮を引っぺがしてやる!」
 男は吠えた。
「化けの皮って?」
「そうだな……。例えば衣食住完備というが、食べ物はどうするんだ? 十万人ということは毎日三十万個ものパンがいるぞ。どうやって調達するつもりだ?」
 男は勝ち誇るかのように言い放つ。
 レオはプロジェクターをいじり、スクリーンにパン工場紹介の動画を流す。
「うちにはパン工場があるんだよ。一万平米で生産量は一日五十万個」
 動画では、次々とベルトコンベヤーの上を丸いパンが流れてくる様子が流れる。
「何だこれは……」
 圧倒される男。
 さらにレオは奥からロールボックスパレットに満載された二千個のパンをゴロゴロと引っ張ってくる。そして一つとって男に渡した。
 男は無言で受け取り、匂いをかいで一口かじった……。
「美味い……、何だこの美味いパンは!?」