「ほう、お主、さすがじゃな」
 レヴィアはそう言ってビールをグッと飲んだ。
「いやいや、えっ? そんなことあるんですか?」
 零は混乱してしまう。
「じゃあ、反証あげてみたらどうかな?」
 レヴィアはこんがりと焼きあがった焼き肉を零の皿に乗せながら言う。
「この肉も幻想ってことですよね? 食べることもこの肉体も幻想……」
 零は手元をじっくり見まわし困惑する……。
 柔らかく動く指先も、焼き肉の弾力も滴る肉汁も、すべてコンピューターで作られたものだという話を、どう考えたらいいのか全く分からなかった。
 そして、ビールジョッキをグッと飲み、座った目で断固たる調子で言う。
「こんな精緻な造形が、合成された計算結果というのはちょっと理解できません。こんな膨大な計算処理を提供できるコンピューターシステムは作れません」
 この世界が仮想現実だなんて、そんなことを認めたら自分はただのゲームのアバターだということになってしまう。零はアイデンティティをかけて全力で否定する以外なかった。











3-16. 壮大な宇宙の神秘

「ふぅん、必要な計算量が多いから無理っていうのね?」
 シアンはニヤニヤしながら言う。
「そうですよ! この世界をシミュレーションするって事は、シュレディンガー方程式を解いて分子の動きからシミュレートしなきゃダメです。そしてそんなのスパコンつかったってたった一グラムの物体すら計算不可能です!」
 零は勝ち誇ったように言い放った。
「ふぅん、零は人体のシミュレーションをする時、シュレディンガー方程式なんて解くの?」
 シアンは目をキラッと光らせて、うれしそうに聞いた。
「えっ!? じ、人体……ですか……。そのスケールだったら……、分子シミュレーションなんて……、意味ないから……、やらない……」
 零は元気なくなってきて、うつむいてしまった。
「でしょ? 正解はこちら!」
 シアンは楽しそうに箸を指揮者のように振った。
 すると、ボン! と言って零の身体はワイヤーフレームになった。
「へっ!?」
 スカスカの線画になってしまった零は驚いて立ち上がり、両手を見る。しかしそこには白い線の針金細工のような手があるだけであり、向こうが透けて見えていた。
「な、何だこれは!?」