「これがこの世界の本当の姿だよ」
「本当の……、姿?」
 オディーヌは指を動かしてみた。すると、線が動き曲がるし、触ると感覚もある。しかし、ただの線画だった。
「この世は0と1で記述された情報でできている。普段見えているのはただの虚像さ」
 そう言ってまたシアンはパン! と手を叩き世界は元に戻った。
「虚像の方がきれいだけどねっ。きゃははは!」
 うれしそうに笑うシアン。
「虚像……、偽物の世界ってこと?」
「偽物じゃないよ、でもうつろいやすい夢みたいな世界ってこと」
 そう言ってシアンは置いてあったスプーンを一つとると、エイッと言って、それを二つに増やして見せた。
「えっ!? 増えた!?」
 驚くオディーヌ。
「情報だからいくらだってコピーもできるし……、ほらっ」
 そう言いながらシアンは、スプーンをお玉サイズに大きくして見せた。
「うわぁ……」
 オディーヌは唖然(あぜん)としてその巨大スプーンをながめた。
「属性を『金』にすれば……」
 すると、スプーンは金色になった。
「えぇっ!? まるで……魔法ですね……」
「情報でできた世界ってこういう世界なんだよ」
 にこやかにシアンはそう言った。
「それ、私にもできますか?」
「もちろんできるよ。ただ、そのためにはこの世界の本当の姿をしっかりと知らないとダメなんだ」
「それはどうやったら分かりますか?」
 するとシアンはオディーヌの胸をポンと軽く叩き、
「全てはここにあるよ」
 そう言ってニコッと笑った。
「胸……ですか?」
「胸じゃなくて心。オディーヌは頭で考えすぎ。心で世界をとらえてごらん。全て分かるから」
「こ、心……ですか……」
 悩むオディーヌ。
「まずは呼吸法だな」
「呼吸?」
「人間でね、唯一動かせる内臓、それが肺なんだ。だから肺を動かす呼吸は人間の根源にアクセスするスイッチになるんだよ」
 シアンは人差し指を立てて優しく説明する。
「えっ!? そんな事初めて知りました」
「ふふっ。頑張ってごらん」
 シアンはうれしそうに言った。
「ねぇ、僕もできる?」
 レオが聞く。
「もちろん! 特にレオは……すでにカギを持っているからね。比較的簡単だと思うよ」
「え? カギ? 何の?」
「まぁ、そのうちに気がつくんじゃないかな?」
 シアンはニヤッと笑い、お茶をすすった。