ママは優しくレオの頭をなでた。
「うん……。僕、ずっと辛かった……」
「ゴメンね……」
「ううん、ママのせいじゃないよ……」
 そう言ってレオはママに頬ずりをした。
「レオはなんだかすごい事を始めたのね。やっぱりあの人の血ね」
「え? 見てたの?」
「レオの事はずーっと見てたわよ。いい仲間に巡り合えてよかったわね」
「うん……。責任重大だけどね」
「もし、行き詰ることがあったら短剣を使いなさい」
「え? 短剣?」
「そう、あれはあの人の形見……、特別な短剣なのよ」
「ふぅん、知らなかった……」
「あなたのパパはとてもすごい人だったのよ……。この世界を……救ったの……」
 そう誇らしく言って……、悲しそうに目を閉じた。
「世界を……救った?」
「そう、命がけでね……」
「それで、うちにはパパがいなかったのか……」
「短剣は大切にするのよ」
 ママは愛おしそうにレオの頬をなでて言った。
「わかった!」
「あぁ、もう行かないと……」
「えっ!? もう行っちゃうの?」
「ゴメンね、ずっと見守っているわ……」
 ママは悲哀のこもった目でレオを見る。
「いやだ、ママ! 行かないで!」
 レオはママにしがみついた。
「さようなら……」
 そう言うとママの身体は、何かが抜けたように急に脱力した。
「いやだよぅ!」
 必死に叫ぶレオ。
 シアンの手がポンポンとレオの背中を叩く。
 ママとは違う叩き方に、レオにはもうママがいなくなってしまったことが分かってしまった。
「うっ……うっ……」
 レオはただ涙を流した。
 シアンは何も言わず、レオをギュッと抱きしめた。
 親と死に別れ、奴隷として売られた少年。その心に(おり)のようにたまった絶望と悲しみは、簡単に癒せるようなものではない。
 シアンは目をつぶり、ただ、震えるレオの身体を温める。
 薄暗い部屋にはレオの嗚咽がいつまでも響いていた。

      ◇

「朝ですよ~」
 オディーヌがレオ達の部屋のドアを開けると、寝相の悪い二人はまだ寝ていた。
 毛布は床に落ち、伸ばしたシアンの腕はレオの顔の上に乗っかっていて、寝苦しそうだった。
「ほら、起きて! 朝食にするわよ!」
 オディーヌは、シアンの腕をどけてあげながら二人に声をかける。
「うーん、もうお腹いっぱい……」
 シアンが寝ぼけて変なことを言う。