そして、ママに右手を、男性に左手を持ってもらってブランコのようにゆらしてもらった。心が温かくなってくる。
 やがて空が明るくなり光芒が射した。すると、ママも男性もその光に導かれるように天へと登っていく。
 レオは追いかけようとするが、身体が動かない。ママも男性も優しく手を振りながら小さくなり天からの光に溶けていった……。

「ママ――――!」
 涙を流しながらレオが叫ぶ……。
 気がつくと、レオは温かく柔らかい物に包まれていた。
「ん?」
 寝ぼけ眼で温かいものを触って……、レオは目が覚めた。
 レオはシアンと抱き合うように寝ていたのだ。
「あわわわ……」
 レオが離れようとすると、、
「なぁに? ママが恋しくなった?」
 薄暗がりの中でシアンがほほ笑みながらレオを引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。
「シ、シアン……、ちょ、ちょっと……」
 ドギマギするレオ。
「ママ……、呼んであげようか?」
 シアンは優しい顔でレオをのぞき込む。
「えっ!?」
 あまりに意外な提案にレオは絶句する。
 小さな村で宿屋を営んでいたレオの母親は戦火に焼かれ、かなり前に亡くなっていた。レオはその時に捕まり、奴隷として売られていたのだ。
 早朝に裏山から見た、燃え上がる宿屋がレオの脳裏にフラッシュバックする……。
「う……、うぅ……」
 レオは呼吸が速くなりながら、何とか自分を保っていた。
「レオ……、久しぶり……」
 シアンがレオを見つめて言った。
「え?」
 レオが混乱していると、
「私よ、ママよ……」
 そう言って愛おしそうにレオの頬をなでた。
「ママ……?」
「大きくなったわねぇ……」
 シアンに憑依(ひょうい)したレオのママは目に涙を浮かべて言う。
「ほ、本当にママなの?」
 するとママは静かに歌い始めた。
『聖なる光を~まとい~♪ 軽やかに~舞え~♪ レオ~♪』
 綺麗な歌声が緩やかに部屋の中に響く……。
「ママ――――!」
 レオはママに抱き着く。
 子供時代によく歌ってくれた替え歌の童謡。それは二人しか知らない幸せの記憶だった。










2-15. 救世の短剣

「うっうっうっ……」
 肩をゆらして泣くレオを、ママは涙をこぼしながら抱きしめる。
 しばらく部屋には嗚咽(おえつ)の声が静かに響いた。

「ゴメンね、辛かったろ……」