銀色に鈍く光る機体は四機の巨大なプロペラを回し、爆弾を満載して不気味に淡々と東京湾からやってくる。それはまさに十万人の命を奪いに来た死神だった。
「ねぇ、とめて、シアン! お願い!」
「しょうがないなぁ」
 シアンはそう言ってニヤッと笑いながら、胸のところから黄色いアヒルのおもちゃを取り出した。








2-13. 殲滅のアヒル

「へっ!? 介入するんですか!?」
 焦るレヴィア。
「可愛いレオの頼みだからね」
 そう言うと、うれしそうにアヒルの赤いくちばしにチュッとキスをしてB29の方へ放つ。アヒルはふわふわと頼りなげに風に揺られながら、三百機のB29を目指して飛んで行った。それを確認したシアンは、ドラゴンの身体を急旋回させて全力で逃げ始める。
 戦略爆撃機対アヒル、その滑稽で異様な対比。アヒルは不気味な恐ろしさをたたえながらB29へと迫っていった。
 
「シ、シアン様、何するつもりですか!?」
 ビビるレヴィア。
「アヒルさんにね針の穴サイズのワープホールを作ったんだ」
「針の穴……。もしかして……」
「ガンマ線バーストをね、もう一度試してみようかと思って」
「や、やっぱり! さっき星を蒸発させたばっかりじゃないですか!」
「針の穴サイズだから大丈夫だって」
 シアンはニコニコしながら言う。
「ダメですって! うわぁぁぁ!」
 レヴィアは必死に追加で加速して逃げる。
「シールド! せめてシールド張ってください! 東京が蒸発しちゃいますよ!」
「えー、オーバーだなぁ……」
「いいからすぐ! お願いします!!」
 懇願するレヴィア。
「じゃあ……。ホイっとな!」
 そう言うと、シアンは両手の上に直径一メートルくらいの金属球を出した。そして、それを、
「それいけ――――!」
 と、言いながら市街地の方にものすごい速度で投げる。
 金属球は高速で回転し、ブワーッと円盤状に広がりながら飛んでいく。そして、市街地の上に着くころには直径十数キロメートルくらいのシールドになり、爆撃されている一帯を覆った。
 シールドは宙に浮いていながら頑健で、落ちてくる焼夷弾をすべて受け止め、焼夷弾はシールドの上をゴロゴロと転がりながら火を噴いている。

「アヒル、要らなかったんじゃ……」
 レオが恐る恐る言うと、
「何言ってるの? ガンマ線バーストはロマンだよ!」