残業しているフロアでは明かりが灯り、働いている人がパソコンを叩いている。
「この辺はオフィスビルだねー」
 そう言いながら地面スレスレを通過し、今度は徐々に高度をあげながら品川駅前を飛ぶ。
 帰宅途中の多くのサラリーマンたちはドラゴンに気がつかなかったが、子供が見つけて指さして叫んだ。
「ママ! 恐竜だ!」
 母親は何を言っているのかと、呆れたように指の先をたどりながら、
「何言ってるの、恐竜なんていない……」
 と言いかけて固まった。
 シアンは母子連れに手を振り、
「ひぃ!」
 と叫ぶ母親のすぐ上を、ビュオォと轟音をあげ、通過していく。

「ヒャッハー!」
 シアンはそう叫ぶと今度は一気に高度を上げる。
「ママ! 僕もあれ乗りたい!」
 子供が叫んだが、母親は言葉を失っていた。

 轟音に気がついたサラリーマンたちは、ドラゴンの巨体が飛び去っていくのを見ながら唖然とする。
 みんな足を止め、ザワザワとするが、もうドラゴンはスマホでは撮れないほどに小さくなっていった。








2-12. 戦略爆撃機B29

「働く人はああいう所で仕事したりするんだ」
 シアンはレオとオディーヌに説明した。
「書類仕事……ですか?」
 オディーヌが聞く。
「うーん、今はもうパソコンだねぇ」
「パソコン?」
「情報を処理する機械があって、他の人と連絡とったり、調べ物したり、資料作ったりするんだ」
「それ、一つ……もらえませんか?」
「えっ? うーん……。まぁいいか……な。いいよ! 後で最新型一台あげよう」
 シアンはちょっと悩んだが、オディーヌを見てニッコリと笑って言った。
「ありがとう!」
 オディーヌはうれしそうに笑った。
「シアン様! 前! 前!」
 レヴィアが叫ぶ。
「へ?」
 よそ見をしていたシアンが前を見ると、高層ビルが目前に迫ってきていた。
「ひぃ!」「キャ――――!」
 悲鳴が上がったが、ビルにぶつかる直前、ドラゴンの巨体はワープしてまた別の夜空を飛んでいた――――。

「いやー、危なかった! きゃははは!」
 シアンはうれしそうに笑ったが、三人は無言だった。

 しかし、先ほどまでとは違って真っ暗である。ただ、静かに満天の星々がレオ達を照らしていた。
「あれ? ここも東京?」
 レオが不思議そうにシアンに聞いた。
「そのまま東京なはずだけどなー」