レオとオディーヌは背中のウロコのトゲになっているところにしがみつき、振り落とされないように必死に耐える。

「飛び立ったぞ――――!」「なんだあれは!?」
 騒然とする屋上の人たちをしり目に、バサッバサッとさらに翼を羽ばたかせ一気に高度を上げるレヴィア。
 東京に突如現れた、ファンタジーな怪物の軽やかな身のこなしに見る者は言葉を失い、ただ夜空に飛び去って行くさまを呆然(ぼうぜん)と見ていた。

「きゃははは! いいね、いいね!」 
 シアンは大喜びである。
「落ちないで下さいよ!」
 レヴィアは重低音を響かせながら不機嫌そうに言う。

 どんどんと高度を上げていくと、旅客機が飛んでいるのが見えた。羽田空港への着陸体制に入っている。
「お、挨拶しよう!」
 シアンははしゃいで言う。
「え!? 危ないですよ」
「いいから、いいから!」
 そう言うとシアンは、レヴィアの巨体をボウッと光らせて勝手に操作し始めた。そして旅客機へと舵を切った。
「うわ――――!」
 制御を奪われたレヴィアは喚く。
 ほどなく旅客機のそばまでやってきて編隊飛行となる。灯りの点った窓がズラッと並び、乗客の姿が見える。
「うわっ! 人が乗ってるわ!」
 オディーヌが驚く。
「この星では、遠くへ行くときはこうやって飛行機で行くんだよ」
 シアンは乗客に手を振りながら説明する。
「こんな大きなもの、どうやって飛んでるんですか? 魔法?」
「この星には魔法はないよ」
「え!? 魔法がない!?」
「魔法は後付けなんだよね。魔法がある星の方が特殊なんだよ」
 オディーヌは絶句した。子供の頃から当たり前のように存在し、便利に使われていた魔法が誰かに後付けされた存在だったとは、想像もしていなかったのだ。

 徐々に旅客機に近づいて行くと、乗客もドラゴンに気がついたようで、皆驚き、スマホを向けたり大騒ぎしている。
「シアン様、これ以上はヤバいですよ!」
「じゃあ、次はビルでも見ますか」
 そう言って眼下に見えてきた品川の高層ビル群へと舵を切った。

 一気に急降下する一行。
「ひぃ!」「きゃぁ!」「おわぁ――――!」
 叫ぶ三人をしり目に、
「きゃははは!」
 と、シアンは楽しそうに笑いながらさらに加速する。
 グングンと迫る高層ビル。
「そりゃー!」
 シアンはビルの間を巧みに通過していく。