「ちょっと敵の注意を引いておいて!」
 と、言いながらブウンと一回転振り回すと、そのまま追手に向かってすごい速度で放り投げた。
「え――――っ!?」

 レオは手足をバタバタさせ、叫び声をあげながら王女の上を飛び越え、追手の先頭の男に思いっきりぶつかった。
「ぐはぁ!」
 ぶつかって吹き飛ぶ二人は後続の二人にも当たり、全員ゴロゴロと転がる。
「ぐわぁ!」「ぐはっ!」
 まるでボウリングだった。

「シアン、ひどいなぁ……」
 そう言いながら、砂だらけになった体をゆっくりと起こすレオ。
「あれ? 痛くない……」
 レオは自分の身体をあちこち見ながら立ち上がる。

「こ、このガキが! 何しやがる!」
 男はよろよろと立ち上がり、剣先をレオの顔の前に突きつける。
「あ、これは僕がやったんじゃないよ!」
 レオは後ずさりしながら首を振った。

       ◇

 王女は、手招きしているシアンを見ると、走りながら
「助けてー!」
 と叫び、手をシアンの方に伸ばす。
 シアンはニコニコとしながら、王女の手を取ると、
「危ないから、ちょっとこっちで待ってて」
 と、いいながら手を引いて池の上を歩いて行った。
 二人は水面を歩き、足跡の波紋が点々と広がっていく。
「えっ!? 水面……よね!?」
 驚く王女にシアンは言った。
「冬になったら凍って水面歩けるでしょ?」
「ええ、まぁ……」
「だから、歩くたびに『今は冬だよ』って足元の水に話しかけるんだよ。すると歩けるのさ」
 シアンはニッコリと笑って言う。
 王女は初めて聞く話に驚いた。
「え!? 本当ですか?」
「嘘だけどね、きゃははは!」
 シアンはすごく楽しそうに笑い、王女は渋い顔をする。
「じゃ、ここで待っててね」
 シアンは池の中ほどに王女を立たせると、ツーっと上空へ向かって飛んで行った。
「あっ、待って……」
 王女は心細げに手を伸ばし、この不可思議な少女をどうとらえたらいいのか困惑し、そして足元の水面を見つめた。

     ◇

 レオは剣を持った黒装束の男たちに囲まれている。
 『助けて』と言ったのはレオだったが、まさか放り込まれるとは思っていなかった。あまりにも無茶苦茶なシアンの行動にレオは心臓が止まりそうだった。

「ちょ、ちょっと待ってください!」