オディーヌは興奮してそう言うとレオの手を取った。しかし、その手はかすかに震えていて、レオは心配そうにオディーヌを見た。
 オディーヌは王様に向かって、
「お父様、それでは行ってきます。詳細が決まったらお手紙書くわね」
「えっ!? もう行っちゃうのか? 準備は?」
 王様はオロオロして言う。
「お父様、チャンスの女神には前髪しかないのよ。来た瞬間につかめなかったら二度とつかめないわ!」
 オディーヌは自分に言い聞かせるようにそう言って、レオの手を引いて一番に裂け目をくぐって行った。
 それは十六歳のオディーヌにとって、生まれて初めて自ら選び取った未来であり、親の庇護(ひご)を離れる親離れであった。
「あぁ……、オディーヌ……」
 うろたえる王様にシアンは、
「大丈夫、僕が見ておくからさ」
 そう言ってニッコリと笑う。
 レヴィアは、
「シアン様が大丈夫と言ったら、なんでも大丈夫じゃ。たとえ死んでも生き返るくらい大丈夫じゃ」
 そう言って王様の背中をパンパンと叩く。
 王様はうなだれてゆっくりと首を振った。

        ◇

 四人で王都の街を歩き、にぎやかなレストランまでやってきた。
「シ、シアン様、ここではいかがですか?」 
 レヴィアは緊張しながら言う。
「ちゃんと美味しいんだろうね?」
 シアンは微笑みをたたえたまま目を光らせて聞いた。
「お、王都ではここが一番かと……」
 レヴィアは冷や汗をかきながらそう言うと、テラス席に陣取ってみんなを座らせる。
 そして、
「おかみさーん!」
 と、店の中に声をかけた。
 すると、小太りのおばさんが伝票を片手に出てきて、
「おや、レヴィちゃん、人連れてくるなんて珍しいねぇ、お友達かい?」
 そう言ってみんなを見回した。
「何? レヴィアいつもボッチなの? プククク……」
 そう言ってシアンは冷やかした。
「だから嫌だったんですよぉ……」
 ガックリとするレヴィア。
「レヴィちゃんお友達紹介してよぉ」
 おかみさんはうれしそうにせっつく。
「このお方は我の上司? シアン様、そして子供二人は……誰だっけ?」
 レヴィアは説明に詰まる。するとシアンがレオを指し、
「彼が王様で、彼女が外務大臣、僕が防衛大臣で、レヴィが国務大臣だよ」
 と、うれしそうに言った。
「うわぁ、楽しそうねぇ」