シアンはニヤッと笑い、先頭の騎士の足元に素早く滑り込んで斬撃をかわすと、足首をガシッと持って持ち上げる。
「うわぁ!」
 喚く騎士。
 あまりにも異様な出来事に騎士たちの動きが止まる。すると、シアンはつかんだ騎士をまるでこん棒のように振り回した。
「ぐわぁ!」「ひぃ!」「やめろぉぉ!」
 阿鼻叫喚となる室内。
 ブウンと振り回され打ち付けてくる騎士に、後続の騎士たちはかわす間もなく打ち倒されていった。








1-15. ドラゴン大暴れ

「きゃははは!」
 シアンはうれしそうに笑いながら、騎士をブンブンと振り回し王子に迫った。
「ひぃ!」
 真っ青になってしゃがみこむ王子だったが、あえなく騎士をぶち当てられて、
「うぎゃぁ!」
 と喚きながらゴロゴロと転がった。
 シアンはそれを見ると満足げに騎士をポーンと放り投げた。そして、腰に手を置き、ドヤ顔で
「悪い子にはお仕置き! きゃははは!」
 と、満足そうに笑った。
 しかし、シアンは振り返り、滅茶苦茶になったテーブルの上を見て(あお)ざめる。
 ケーキは騎士を振り回した時に全部吹き飛ばされてしまっていたのだ。
「やっちゃった……」
 と言うとシアンは、唖然とした表情で固まる。そして、
「あ、あぁ……」
 と声にならない声を出しながらひざからガックリと崩れた。

        ◇

「これは何事だ!」
 いきなり入ってきた男が叫んだ。男は金をあしらった豪奢な服をまとって威厳のある表情で睥睨(へいげい)した。
 オディーヌは駆け寄って、
「お、お父様! これには訳が……」
 そう言った。その男は王様であった。
 剣士も王様に近づいてひざまずいて言った。
「若様を(いさ)められませんでした。申し訳ございません」

 事情を聞いた王様は、部屋の隅で痛そうにしてうずくまっている王子に声をかけた。
「お前が仕掛けてやられたのか?」
「だ、だって、あの女無礼なんだもん……」
 王様は深く息をついて首を振ると、おつきの部下に対処を指示し、シアンの所へ行った。
「愚息がご迷惑をおかけしたようで申し訳ない」
 そう言って王様はシアンに頭を下げた。
「僕もケーキダメにしちゃった。ごめんなさい」
 シアンもしょんぼりして謝った。
「ケーキなら新しいのを用意させよう。ちょっと話を聞かせてもらえないか?」