そう言ってうれしそうに笑った。
「お嬢さん……、剣は?」
 剣士は怪訝(けげん)そうに聞いてくる。
「僕はこれで十分」
 そう言ってフォークを指先でピン! と弾き、空中をクルクルと回転させると親指と人差し指でつまみ、剣士に向けた。
 剣士はバカにされたとムッとし、剣をスラっと抜いて構える。
 ニコニコしてフォークを構えるシアン、全身に気合を(みなぎ)らせ中段に構える剣士……。
 部屋中に緊迫した空気が満ちる。
 剣士は細かく剣をゆらし、タイミングを計る。シアンはそれに合わせて指先で持ったフォークをまるで指揮者のようにゆらす……。
 レオもオディーヌも手に汗を握って推移を見守った。

 すると、剣士は脂汗をたらたらと流し始める。
「どうした! 何やってる!」
 王子が喚く。
「くっ!」
 剣士がそう言いながら軽くステップを踏み始める。
 シアンはフォークを振りながら、ニコニコとうれしそうにそれを見ていた。

 しかし、剣士は斬り込む事が出来なかった。シアンのフォークの動きが剣士の剣の動きに完全にシンクロしていたのだ。フェイクを入れてもフェイントを入れても遅れることなくついてくる……。
 人間は腕を動かそうと思ってから筋肉が反応するまで百分の五秒かかる。動きを見て、判断して、合わせようと思ったらもっと遅れる。にもかかわらず、全く遅れることなく完全にシンクロしている。シアンが剣士の動きを事前に読んでいるとしか思えなかった。そして、そんなことができるとしたら……それはもはや人間ではないし、とても勝てるような相手じゃないのだ。

 やがて剣士は汗びっしょりになり、剣を下ろし、頭を下げて言った。
「参りました……」
 シアンはそれを聞くとうれしそうにうなずいた。

「おい! お前! ふざけんなよ! 何もやってないじゃないか!」
 王子は剣士を叱責(しっせき)する。
「彼女は私の動きをすべて見切っています。とても人間技には思えません。少なくとも人では勝てません」
 剣士はそう言うとうなだれた。
「もういい! お前ら一斉に斬りかかれ!」
 王子は周りの騎士に命令した。
 レオとオディーヌは真っ青になって逃げ、五、六人の鎧をまとった騎士たちは一気にシアンに斬りかかる。