そしてそれを、仁王立ちしながら見下ろすシアン。
 レオもオディーヌもあまりの事に言葉を失っていた。

 王子はゆっくりと起き上がり、顔のクリームをハンカチで拭きながら、
「き、貴様、俺にこんなことしてただで済むと思ってんのか?」
 と、喚く。
「食べ物を粗末にしちゃダメって教わらなかったの?」
 シアンは王子をにらんで言った。
「ケーキ一つで大げさな!」
「ふぅん、あんたケーキ作れるの?」
「えっ!? お、俺はケーキ作るのが仕事じゃないし……」
「できないのね? なら謝りなさい! ケーキに、作ってくれたパティシエに!」
 王子は反論できずプルプルと震え、
「ふざけんな! 覚えてろよ!」
 そう喚くと部屋を飛び出していった。










1-13. ヘッドハント

 シアンは、ふぅ、と息をつくと、オーラを引っ込め、瞳も水色に戻った。

「王子様怒らせちゃってマズくないですか?」
 レオが心配になってオディーヌに聞く。
「うーん、今のはお兄様の方が問題だけど、王族はプライドを優先させる存在だから……面倒な事になるかも……」
「シアン、じゃあ、お(いとま)してドラゴンの所へ行こうか?」
「えっ!? まだケーキ食べ終わってないのに!?」
 シアンはケーキを皿に盛りなおしながらそう言った。
「ちょっとまって!? あなたたちドラゴンの所へ行くの!?」
 オディーヌは可愛い目を大きく開いて言った。
「うん、僕たち二人で奴隷や貧困のない『自由の国』を作るんだけど、どこに作ったらいいかドラゴンに聞こうと思ってるんだ」
 レオはニコニコして言う。
「自由の国にドラゴン!? あなた達本当にとんでもない人たちね!」
 オディーヌは目を輝かせて興奮気味に言った。
「僕は物心ついた時にはもう奴隷だったんだ。朝から晩まで働かされ、理不尽な暴力を受け続けてきたの。僕だけじゃない。街外れには浮浪児が溢れてるし、こんなのはおかしいんだよ」
 レオは淡々と言った。
「そ、そうね……。ごめんなさい、そうなってしまっているのは私たち王族の問題でもあるわ……。」
 オディーヌは痛い所を突かれたように焦りながら答えた。
「僕はその辺、良く分からないけど、苦しい人、困ってる人を集めて、新天地でみんなが笑顔で暮らせる場所を作っちゃえばいいんじゃないかって思うんだ」
「そんなこと……、できるの?」