「ウォ、ウォルター、今までたくさん世話してやったじゃないか! お前からも頼んでくれ!」
 アヒルは必死である。
「ご主人様は俺の事を奴隷だと馬鹿にして人間扱いしてくれませんでした。食べ物も硬いパンと残飯ばかり。正直不満だらけです」
 ウォルターは淡々と言う。
「あーあ、残念でした!」
 シアンはそう言うと立ち去ろうとする。

「ま、待ってくれ! ……。ウォルター! お前には酒も飲ませてやったじゃないか!」
 アヒルは必死に説得を試みる。
「あれ、飲み残し集めた奴ですよね? 俺、知ってますよ」
「いや、それは……」
 アヒルはうつむいてしまう。
「もちろん、感謝してるところもあります。だから、奴隷たちを人間扱いするって約束してくれませんか?」
 ウォルターはアヒルをジッと見つめて言う。
「……。そうだな……。俺が悪かった……。約束しよう」
 アヒルはうつむきながら神妙に答えた。
 シアンはそのやり取りを見ると、
「ふぅん……。それじゃ執行猶予を付けてあげる?」
 そう言って二人に聞いた。
 ウォルターもレオもゆっくりとうなずく。

 シアンはニッコリと笑い、自身の手を淡く光らせる。そして、アヒルの頭をなで、アヒルにも光をまとわせた。
 すると、アヒルはモコモコと膨らみ始め、やがて太った若い男へと変わっていった。
「おぉ! ねぇさん……、ありがとう!」
 ジュルダンは目に涙を浮かべながらシアンの手を取り、両手で包んだ。
「悪いことすると自動的にアヒルに戻るから気を付けてね」
 シアンはほほえみを浮かべながらも、鋭い目でジュルダンをにらんだ。
「わ、悪いことというのは具体的には……?」
「『これやったら困る人が出るな』ってこと。自分で分かるでしょ?」
「わ、わかり……ました……」
 ジュルダンはうつむきながら答えた。















1-11. ケーキだよ、ケーキ!

 せっかくなので二人は王女様に会いに王宮へ向かった。
 気持ちのいい石畳の道を二人で歩く。
「ジュルダンのアヒル、面白かったね」
 レオがニコニコしながら言うと、
「ずっとあのままでも良かったのに」
 と、シアンはやや不満な感じだった。
「まぁまぁ……、あっ! そう言えばシアンが出してた金貨千枚、そのままじゃない?」
 レオが気が付いて青い顔をする。
「えっ!? あ、そう言えば……」