「ゴー!」
 ジュルダンの掛け声と同時に、
「ぬおぉぉぉ!」
 ウォルターのうなり声が部屋に響く。
 だが……、シアンの腕はビクともしなかった。
 焦ったジュルダンは叫ぶ。
「おい! 何やってんだ! お前の筋肉は飾りか!?」
 しかし、ウォルターがどんなに真っ赤になって頑張っても、シアンの腕はビクともしなかった。
「うふふ、それじゃ勝っちゃおうかなぁ……、きゃははは!」
 シアンはうれしそうに笑い、徐々に力を入れ始めた。
 ウォルターがどんどんと押されていく。
「何やってんだお前! 金貨だ! 金貨パワーで頑張れ!」
 ジュルダンは青くなりながら叫ぶ。
「ぐぉぉぉぉ!」
 ウォルターは真っ赤になりながら渾身の力を振り絞るが、どんどんと押し倒され、もうすぐ机に着きそうになった。
 と、その時だった。

 ガン!
 ジュルダンがテーブルの足をけってテーブルが大きく揺れた。
「おっといけねぇ!」
 白々しくジュルダンが言う。
「今、ネーチャンのヒジが浮いたから、ネーチャンの反則負けな!」
 無理筋の理屈を強引に主張するジュルダン。
「何言ってるんですか! ご主人様の反則負けですよ!」
 レオが真っ赤になって怒る。
「はぁ? テーブルけっちゃいけないなんてルールはないぞ?」
 ふてぶてしく言い放つ。
 そして大麻をおいしそうに吸った。

 すると、シアンは無言ですっと立ち上がる。
 皆、何をするのかとシアンを見つめた。
 直後、シアンは目にも止まらぬ速さでこぶしをテーブルに叩きつけ、耳をつんざく激しい衝撃音をあげて、テーブルは粉々に吹き飛んだ。

 唖然(あぜん)とする一同。

 そして、無表情のまま、
「ふぉぉぉぉ……」
 と、声を上げると、全身から漆黒のオーラをぶわっと噴き出した。オーラは暴風のように勢いよく噴き出し、書類を巻き上げていく。

 シアンは両手を高々と上げ、
「きゃははは!」
 と、うれしそうに笑い声をあげると、燃えるような紅蓮の瞳を輝かせ、さらに強くオーラを噴き出した。ズン! と衝撃音と共に屋根が吹き飛び、窓ガラスがパンパンと次々と割れていった。

 部屋からは青空が見え、まるで竜巻が直撃したかのようだった。
「うわぁ!」「ひぃ!」
「あわわわわ! ま、魔女だぁ!」
 ジュルダンは腰を抜かしへたり込む。