レオの中では、いよいよ奴隷から抜け出せるかもしれないという興奮と、ちゃんと交渉できるかどうかの不安がせめぎ合っていた……。
 そんな緊張しきったレオをシアンは軽くハグし、
「頑張っておいで……」
 と、応援した。

 レオは大きく息をつくと、トントンとノックをして、
「レオです。お話があってまいりました!」
 と、叫ぶ。
「何だ?」
 中からの返事を待ってドアを開けると、大麻臭いよどんだ空気がもわっと漂う。
 レオはちょっと顔をしかめると、
「失礼します!」
 と、中へと進んだ。
 














1-8. 勝負! 勝負!


 ジュルダンは紙に巻いた大麻を一口大きく吸うと、レオをギロっとにらんで言った。
「なんだ? さっきの事で文句でもあるのか?」
「いえ、そうではなく、僕の奴隷の権利を買い取らせてください!」
 ジュルダンは目をキラッと光らせ、
「へぇ……? そんな金、どうした?」
 と、怪訝(けげん)そうな顔で言った。
「これです!」
 レオは金の短剣を両手でジュルダンに手渡した。
 ジュルダンは大麻をくわえたまま、短剣を裏返したりしながらじっくりと検分する。
「なるほど。これは良い品だな……。その女にもらったのか?」
 ジュルダンはアゴでシアンを指しながら言った。
「そうです。彼女にもらいました」
「悪いが、これじゃ足りんな。あと金貨百枚持ってきな」
 そう言って、ジュルダンは短剣をテーブルにおいて突っ返した。
「えっ!? 相場だったらこれでもお釣りがくるくらいですよ?」
 レオは焦った。
「相場は相場。売値は俺が決める。奴隷のくせに生意気だ!」
 ジュルダンはそう言っていやらしい笑みを浮かべた。
「そ、そんなぁ……」
 ガックリし、うなだれるレオ。
 そんなレオの背中をシアンはポンポンと叩き、ジュルダンにニコッと笑って言った。
「賭けをしようよ!」
「賭け……?」
 ジュルダンは大麻を大きく吸いながら、シアンを上から下までジロジロとなめ回すように見た。
「あなたが勝ったら金貨千枚あげる。でも、負けたらレオの条件で売ってよ」
「千枚……? お前そんなに金持ちなのか?」
「ほら」
 シアンはそう言ってどこからともなく金貨を出すと、テーブルの上にジャラジャラと金貨の山を築いた。
 唖然(あぜん)とするジュルダンとレオ。
「勝負! 勝負!」