王宮にご招待されて王女とお茶会。それは奴隷の少年にとって信じられない話だった。レオは心臓がドキドキして馬車の行方をいつまでもボーっと見つめていた。

       ◇

 騎士たちは倒れている黒装束の男たちを縄で縛りあげていく。
「一応生きてるんだよね?」
 レオはシアンに聞いた。
「レオが『殺すな』っていうから、いろいろ考えたんだよ!」
 シアンはちょっと不満そうに言う。
「あ、そ、そうだよね……、ありがとう」
 レオはお礼を言った。
「でも、人助けもいいものだね」
 シアンはすがすがしい表情でニコッと笑った。
「悪い奴が捕まっていく……。いい損ができたってことだよね」
「まぁ、損ばかりじゃやってられないけどね」
 そう言ってシアンは肩をすくめた。

「そう言えばあの人って、ケガしてたと思うんだけど……」
 レオは騎士を指して言った。
「ケガ? 死んでたよ」
 シアンはあっけらかんと言った。
「え!? 生き返らせたの!?」
「あれ? マズかった?」
 シアンはキョトンとした顔で言う。
「い、いや。いいことだと……思うけど……」
「人間は死んでもしばらくは脳が生きてるからね」
 シアンはそう言いながら自分の頭を指さした。
「え? そう言うものなの?」
「一応そういうことになってるよ」
 シアンはそう言ってニヤッと笑った。
「シアンと話していると何が本当だか分かんなくなるよ」
 レオは首を振りながら言う。
「ふふっ、信ずる者は救われるよ。きゃははは!」
 シアンはうれしそうに笑った。

     ◇

 二人はどうやって国を作るのか、雑談まじりに話しながら街を目指した。
 黄金に輝いてウェーブを作りながら揺れる麦畑の間の道を、時に笑いながら楽しく歩く。
 しばらく行くと、城壁に囲まれた街が見えてくる。城門をくぐるとそこには立派な石造りの街が広がっていた。

「綺麗な街だねぇ」
 シアンは目をキラキラさせ、キョロキョロしながら石畳の道を歩く。

「ここはニーザリの街。もう少し行って入ったところがうちの商館だよ」
「うんうん、奴隷の権利を取り戻さないとね」
 シアンがそう言うと、レオは金の短剣を取り出して眺めながら、ゆっくりとうなずいた。

         ◇

 商館に着くと、ジュルダンの部屋へ行った。