もしや全員殺しちゃったのではないだろうか? レオと王女は蒼ざめた顔でお互いを見つめ合った。

 シアンは目を閉じてうつむき、額に手を当てて考え込んでいる。

「うーん……、うーん……」
 シアンはうなり始める。
 レオも王女も不安そうにシアンを見つめた。

 しばらくうなった後、
「よいしょ――――!」
 と、叫びながらシアンは斜め上にこぶしを振り抜いた。すると、空中に巨大な魔法陣がぼうっと浮かび上がり、そこから道の上にドサドサドサっと多くの人や馬車、馬が落ちてきた。
 騎士たちは「いてて……」と言いながら、尻もちをついたまま腰をさすったりしている。黒装束の男たちも同じように落ちてきたが、彼らはピクリとも動かなかった。

「ふぅ……。これでいいかな?」
 シアンは戻ってくると、ニコッと笑って言った。

 レオは唖然(あぜん)としてボーっと彼らを見つめる。吸い込んだ人を吐き出すような魔法なんて聞いたこともなかったのだ。なるほど、確かに神様より強いのかもしれない。しかし、その行き当たりばったりな雑さに、一抹の不安をぬぐえないレオであった。














1-7. 死んでいた騎士

 騎士たちは黒装束の男たちの状況を調べ、何かを相談すると、代表が王女の所へやってきて耳打ちする。

「あれ?」
 レオは驚いた。この騎士は槍で滅多突きにされ、馬から落とされていたはずだ。それなのに、ケガ一つなくピンピンとしているのだ。レオはどういうことか分からず怪訝(けげん)そうにやり取りを見つめた。

 王女は騎士の言葉にうなずくと、
「分かったわ。後始末はよろしく。私は先に帰ってるわ」
 と、王族らしく堂々とした態度でそう言った。

 王女は大きなブラウン色の瞳でレオとシアンを見て、
「あなたたち、ありがとう。後で宮殿に来てくれる? お礼がしたいの……」
 そう言ってニッコリと笑った。
 長いまつげに整った目鼻立ち、そして透き通るような美しい肌。美しい王女の微笑みにレオはドキッとしながら、
「わ、分かりました。僕はレオ、彼女はシアンです」
 そう言って頭を下げた。
「レオにシアンね。私はオディーヌ。一緒にお茶でも飲みましょ」
 オディーヌはうれしそうにそう言うと、馬車に乗りこむ。そして、手を振りながら何事もなかったかのように街の方へと去っていった。