「うわぁ、綺麗……」
 レオは短剣を見つめた。記憶にない父から譲り受けた短剣、父はこれで何をやっていたのだろうか……?
 短剣は斬るものであるから何かを斬るのだろうが、一体何を?
 レオは試しにビュンと短剣を振ってみた。
 すると、ビシュッ! という手ごたえがあり、レヴィアがやっていたように空間に切れ目が入った。
「わぁ! これだ!」
 レオはそっと切れ目に手をかけて、切れ目を広げてみる……。
 切れ目の向こうには年季の入った宿屋の建物が建っていた。
「えっ!? こ、これは僕んちじゃないか……」
 レオは驚き、宿屋に近づいてみる。
 それは戦乱で焼けたはずの懐かしいレオの実家だった。
「うっ……うぅぅぅ……」
 あの全てを失った日の燃え上がった宿屋がフラッシュバックし、レオは思わず頭を抱え、しゃがみこむ……。
「マ、ママぁ……」
 激しい頭痛がレオを襲いポタポタと涙が落ちる。

 その時、宿屋のドアが開いた。
「えっ?」
 見上げると、そこには男が立っていた。ひげを蓄えたガッシリとした男は優しい目でレオを見つめた。
 レオはその人に見覚えがあった。それは夢に出てきた男性だったのだ。
「レオ、よく頑張ったな」
 男性はしゃがんで両手をレオに差し出した。
「パ、パパ……なの?」
 レオは信じられないといった表情で聞いた。
「そうだ……。守ってあげられずに……、ゴメン」
 男性はそう言って申し訳なさそうにうつむいた。
 レオは軽く首を振りながら男性を見つめた。
 男性はちょっとはにかんで、また両手をレオに向けて開いた。
「おいで……」
「パパぁ――――!」
 レオは駆けだすと思いっきりパパに飛び込んだ。
 パパはしっかりと抱きしめ、愛おしそうに頬ずりをした。
「うわぁぁぁ、パパぁ――――!」
 レオは泣いた。シングルマザーで苦労しながらも弱音一つ吐かなかったママの愛した人、そして、時折ママが自慢していたレオのルーツとなる男性。ずっと気になっていたパパについに出会えたのだ。レオは泣いた。オイオイとみっともない姿で大声で泣いた。
 パパはそんなレオを何も言わずギュッと力強く抱きしめた。
 レオに託されていた形見の短剣は、絶体絶命のレオに土壇場のところで奇跡を起こしたのだった……。










4-7. パパの置き土産