レオはボソっとそう言って目を閉じた。

 コンコン!
 誰かがドアを叩く。
「はい!」
 返事をするとオディーヌが入ってきた。
「レオ、お疲れ様……」
 オディーヌは静かに言った。
「終わっちゃったね……」
「この星も消されずに済んだし、大成功だと思うわ」
「そうだね……。でもなんだか寂しくって……」
「私も同じ……。でも慣れなくっちゃ……」
 二人は夜景を見ながら話した。
「私も……、もう帰らないといけないわ」
「えっ!? オディーヌも行っちゃうの!?」
 驚いてオディーヌを見るレオ。
「だって、私はアレグリスの国民じゃないわ。ここにいる法的根拠がないのよ」
「そ、そんな……」
 オディーヌが建国に果たした役割は大きなものだったが、法治国家では例外は許されない。
「引継ぎが終わり次第、ニーザリに帰るわ」
 目をつぶってうつむき、そう言った。
「そんなぁ! オディーヌ、行かないで!」
 レオはオディーヌの腕をつかんで泣きそうな顔で叫ぶ。
 オディーヌはレオの手にそっと手のひらを重ね、
「あなたはもう国王なんだから、言葉は選ばないといけないわ……」
 そう優しく諭した。
「僕を一人にしないでよぉ!」
 レオはオディーヌの腕にしがみついて、ポロポロと涙をこぼす。
 オディーヌは何も言わずそっとレオを抱きしめ、可愛いすべすべとしたレオのほっぺたに頬ずりをした。
 成功して夢をかなえたはずなのに、全てを失ってしまうレオ。
 その運命の非情さに打ちひしがれ、レオはいつまでも泣き続けた……。

       ◇

 翌日、国会が始まると、自由公正党は軍備増強の特別予算案を提出し、即時に全会一致で可決された。
 それを聞いてレオは真っ青になる。
 アレグリスの憲法では他国への侵略は禁止している。アレグリスの工場で作られている兵器はこの星の兵器に比べて圧倒的に先進的で、侵略など容易(たやす)かったが、戦争による現状変更をレオが望まなかったため日本の憲法を真似してこのようにしたのだ。
 そして、防衛するのであれば、すでに十分すぎるほどの軍事力を保有していた。
 それなのに軍拡を推進するという、レオはそこにヴィクトーのおそるべき野心を感じた。

 レオはすぐさまヴィクトーを呼ぶ。
 ヴィクトーは呼ばれる事が分かっていたかのように、すぐに執務室にやってきた。