第1話(プロローグ)

異世界のとある地方。
魔王軍の侵攻により、王国は陥落。その魔の手は地方にまで及び、成す術のない人類は逃げ回っていた。

そして、峻険な山脈に背後を閉ざされた村にもその魔の手が迫る。
次々に駆られる村人と自警団。頼みの綱の傭兵たちも蹴散らされ、残った傭兵は村を略奪し、逃走した。

絶体絶命の村で、一人の少女が祈る。
誰でもいいから、自分たちを助けてほしいと──────。

同時刻。
異世界ではない地球の───名も知れぬロシアの一地方。
そこではドイツ軍とソ連軍が一進一退の攻防を繰り広げていたが、ついに物量に押し切られたドイツ軍の戦線が崩壊。
部隊はバラバラに後退を開始した……。

※ ※

ソ連軍の地上襲撃機が動くものを何でもかんでも掃射していき、次々に炎上するドイツ軍の部隊。頼みの空軍は一向に現れず、焼け石に水の対空戦車が奮闘するも、地上放火をものともしない襲撃機が撤退中の部隊をむちゃくちゃに切り裂いた。

そんな絶望的な撤退戦のさなか、最後まで踏みとどまっていたドイツ軍の工兵部隊は、撤退前の障害構成を終え、夜のとばりが下りるのを待ち撤退開始。

落伍した部隊。
放置された大量の軍需物資を手あたり次第収容し、比較的秩序だって後退を行っていた。

しかし、部隊規模が巨大になるにつれ動きは鈍くなり、友軍のエアカバーが望める地域に到達する前に夜明けを迎えてしまう。

そして、日の出とともに襲来したソ連空軍により徹底的に攻撃を受けた部隊は、被害を極限するために近隣の森林地帯に避難を開始する。
そこは、ソ連軍ですら近づかない忌み地。
……地元の名称で「迷いの森」と呼ばれる呪われた森であった。

だが、その事情も何も知らない敗走するドイツ軍は血まみれのまま踏み込み──そして、大量の血の叫びに応じて口を開ける呪われし森は、ついに獲物を迎え入れ、飲み込んでしまった。

何も知らないのはドイツ軍ばかり。
彼らは、突如空襲が去ったことを訝しむも、そこには見たこともない生物が闊歩する広大な空間が広がっていたことに驚愕する。

そう。
上空にはソ連軍襲撃機の代わりに巨大な生物───ドラゴンが舞い、見慣れない人間の集団を興味不可争に見下ろしていたのだ……。

「こ、ここは、いったいどこだ?!」

非現実的な光景に、若きドイツ軍将校のシュミット中尉は、たった一人、前線指揮官としてこの世界に迷い込んだドイツ軍工兵部隊に指揮を執る羽目に陥り、混乱する。
無線は不通───帰り道もない。
物資は比較的潤沢なれど、敗残兵の群れ……。
それは、到底若い中尉の手に負えるものではなかった。

しかし、その時───。
異形の集団に追われる一人の少女と遭遇したドイツ軍部隊は、躊躇しつつも、少女を救うため異形の集団に攻撃を開始するのだった。

第2話

異形の集団を瞬く間に打ち倒したドイツ軍工兵隊。
反射的な攻撃であったとはいえ、損害ゼロであったことに胸をなでおろすシュミット中尉。おそらく敵性住民であろう少女に話しかけるも、どうにも様子がおかしい。
着ている服も、持ち物も───いや、それどころか先ほど打ち倒した集団すら、見たことないものばかり。
少女に至ってはどう見ても中世レベルの文明基準であった。

「これは一体……それにこの生物は何だ?」

訝しむドイツ軍であったが、反対に少女は目を輝かせてお礼を言うとともに、ドイツ軍工兵部隊を神の遣わした守護神兵と呼び始める。
慣れない響きに、苦笑しつつも、現状を把握するため少女の導きに従い、集落へと向かう。そこで彼らは見たのは、まさしく現実世界ではありえない光景であった。

「こ、これは……?!」

地球ではありえないほどの巨大山脈と、中世レベルの村の様子。
さらには、通常動力とは思いない方法で動く様々な農業機械に度肝を抜かれる。そして、全員に共通した思いは、
「「ど、どこなんだここは?!」」
その声にこたえたのは少女とその父。この村の村長代理であるという。
彼は異形の風体で現れたドイツ軍工兵隊に深々と頭を下げた。

※ ※

事情を少女からある程度聞いていた村長代理は二つ返事でドイツ軍の駐留を認める。
しかし、対価として要求されたのは護衛であった。

奇しくも、時を同じくして魔物の襲撃が開始された。
地上を圧するワイバーンの群れを皮切りに、多数のゴブリンやその他の異形の襲撃を受けることになる。

だが、タイミングが悪く、ドイツ軍も奇襲を受けたことで大きな被害を出してしまう。
辛うじて、襲撃を撃退できたものの、装備や人員は大きく失われていた。
そして、彼等は決定的な岐路に立たされていることに気付く。

戦うか、
逃げるか、

二つに一つ……。


第3話

結論をだせないまま、刻一刻と時は過ぎていく。
村長代理の話では、敵は魔王軍。世界を席巻する異形の軍隊で、王国ですら歯が立たず滅びたという。残された民は日々命が刈り取られるその瞬間を待つばかりなのだという。そして、背後を山脈に囲まれたこの村は逃げる場所もない。

その話を聞いて険しい顔をするようになるドイツ軍工兵隊。

彼等には彼らの事情がある。
なにより、戦う義理すらなく、意味も見いだせない。

そして、シュミット中尉もまた悩んでいた。
この地で戦うことに何の意味があるのか、と。
ゆえに現実逃避するように、本体への連絡を何度も何度も試み、古参の兵士を呆れさせる。

その頃には、魔王軍の斥候の姿がちらほら確認されており、襲撃が近いことを予感させた。
次は魔王軍も本気で来るであろうと……。
敵は用心深く、ドイツ軍工兵隊の戦力を過剰に見積もっているらしい。それというのも二度の敗北があったればこそであろう。

しかし、そんな状況であってもシュミット中尉は結論を出せないでいた。
指揮車両の中で座り込み、無線に齧りつくのみ。ありもしない本隊との連絡に固執していた。

そして、しびれを切らした工兵部隊の下士官たちは最先任曹長を書くとして、臨時防衛部隊を編成。
魔王軍と真っ向に戦う気でいた。

現役の知識と経験を生かした築城作業を開始、持ち込んでいた物資を使って村を防衛する構えを見せた。

そんな時、ついに───魔王軍が大群をもって攻め寄せて来た。
村とドイツ軍を飲み込んまんとして大地が揺れるほどの大群で押し寄せる。
その時にはかろうじて陣地の形は整っていたが激戦は必須であった。

そして予想通りに苦戦するドイツ軍。
当初は地雷、鉄条網、機関銃を組み合わせた陣地が機能し、魔王軍を押しとどめるも、損害を気にしない魔王軍の猛攻に次々に沈黙していく陣地。

遂に、最終防衛線まで追い詰められるも、そこで何とか撃退に成功する。
しかし、次の攻撃はしのげる保証はない───。だが、ドイツ軍工兵隊の下士官たちは、攻め滅ぼされる村を見捨てることができず、踏みとどまる決意をしていた。

そして、友軍の死者を埋葬し、戦場整理を行い。時間いっぱい陣地を補修しておいたとき、ついにシュミット中尉が立ち上がった。

「曹長。主だったものを全員集合させろ。……これより、村落防衛の防御計画を下達する」

※ ※

軍士官学校では優秀な成績を収めていたシュミット中尉。また若いながらも、前線で鍛え上げられた彼は優秀な野戦士官であった。
現場で叩きあげられた経験と、学校で得た知識を兼ね備え持つシュミットの指揮は適格で、くみ上げられた計画は完璧であった。

人員を効率的に割り振り、ありとあらゆる車両、人、器材を活用して野戦陣地を構築していく。
そして村人の協力をもとりつけると、僅か2日にして巨大な復郭野戦陣地を築き上げたのだった。

「総員聞け」

そして、朗々と話しシュミット。
彼曰く、ここでの戦いは戦況に何ら寄与しないであろうこと。
誰も褒めず、受勲もない戦い……。しかし、助けを求められて逃げ惑う人があるといるというに見捨てることはできない。ここを枕として最後まで戦おうとそう言い切った。
途端、一瞬にしてシンと静まり返ったが、次の瞬間、ドイツ軍工兵部隊は歓声を上げて、士気を高揚させていった。
我の戦いが無駄とならんことを───。

次の日の早朝。
朝焼けの中現れた先遣隊。彼らは十分に警戒し、慎重であった。
靄が立ち込める中、一斉に突撃を開始するも、ドイツ軍の準備していた側防火器によって次々に打ち倒されていく魔王軍。先遣隊を退けたドイツ軍であったが、つぎに訪れる魔王軍の戦いに全力を注いでいくのである。

シュミット中尉が指揮した工兵の陣地は縦深があり、相互支援可能な複雑な陣地であったため、魔王軍本隊といえど全く進めずに打ち倒されていく。

一見して順調に見える戦いであったが……。