マーメイドハンター

「西洋の人魚は戦好きなの?」
 千代姫の剣技は人魚を凌駕していた。降参した彼女らに問うたが求める答は得られなかった。オギュギア島を支配するというカリュプソに期待をかけたが、それは千二百年も昔のことで、島の名もガヴドス島にかわっていた。クレタ島南方の地中海に浮かぶヨーロッパ最南端の島だった。千代姫が島に渡ったときは人口が8千を越えており、すでに神話の世界に生きたであろう人魚の姿はそこになかった。
 千代姫はデンマークに渡り、海底の城に乗り込み、王と人魚たちと乱闘を繰りひろげ、やはり勝利した。だがそこでも答は得られなかった。ハルフゥという人魚を求めてノルウェイにも渡ったが、目的は果たせなかった。北海を渡り、アイルランドに上陸した。そこでメロウと呼ばれる人魚とも戦った。勝利しても結果は芳しくなかった。
 絶望した千代姫は、大航海時代に突入したポルトガルの船に乗って、日本に帰ってきた。帰国後も日本全国、人魚を探し求めて旅するうちに千代姫は八百比丘尼と呼ばれるようになっていた。だが、その容姿は17歳のときのままだった。
 八百比丘尼が770歳になったとき、南の島を海底地震によって発生した大津波が襲った。西暦1771年4月24日のことだった。そのとき、石垣島の宮良湾に流れ込んだ「瀬上り」で、海抜88.7mの高台にまで海水が到達したと言われている。八重山と宮古の両諸島の死者行方不明者は11,861名に及び、琉球史上最悪の大惨事になった。その石垣島の漁師が、人魚を?まえ、逃がしてやる代わりに津波の襲来を教えてもらって助かったという話を聞いた八百比丘尼は石垣島に向かった。
 そして、琉球のエメラルドグリーンに耀く海でザンに出会った。ザンとは琉球における人魚の名だ。だが、ザンも八百比丘尼の命を縮める術は知らなかった。八百比丘尼はザンと親交を結んだ。すでに彼女は、死を諦めていた。長くつきあえる友を得ただけでも十分に報われたと思うようになっていた。
「一端、日本に帰るわ」
 八百比丘尼がザンに言った。
「どうして?」
「私のことを知っている人たちの目をくらますため」
 八百比丘尼は若狭の地で800歳のときに入定した。もちろん、彼女は入定に選んだ洞窟に他人の遺骨を置いて、秘かに抜け出している。

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