マーメイドハンター

 女は、腰に差した正宗をすらりと抜いた。そして、好奇心にかられて彼女に近づいた人魚たちに正宗を一閃した。水中に鮮血が散った。人魚たちはすばやく、その剣呑な存在から身を離し遠巻きにする。三人の人魚が、溺死した客の中にいた騎士のソードを川底から拾い上げ、水中にたゆたいながら身構えた。不思議なことに、異装の女も水中にありながら息が続いているようだった。人魚たちがソードを振りかざして斬りかかった。その攻撃を鮮やかにかわし、黒髪の女が踏み込み、身を翻し、正宗を縦横に振るう。またたくまに三人の人魚が獲物を取り落としていた。女が水底を蹴って川面にむかって浮き上がっていく。その後を一人の人魚が追った。
 川岸に立つ女にむかって、顔を出した人魚が問いかけた。
「あなたは何者?」
 女は人魚に向かって応えた。
「わが名は千代。そなたは?」
「ローレライ」
「人魚だな」
「あなたはどこの人?」
「日本だ。はるか東、日が昇る国から来た」
「何のために」
「人魚に会うために」
「私たちに?何のために?」
「どうすれば、死ねるかを教えてもらいに」
「どういうこと?」
「おまえたちの仲間の肉を食べて、私は不老不死になってしまったのだ」
「まさか?」
「私は死にたいのに、死ねぬのだ。すでに三百年の長きにわたって生きてきた」
 異国の言葉も、剣技も、磨く時間は十分にあったと千代は言った。
「それは・・・」
「父もいた。夫も子供もだ。だが、それは遠い昔のこと。もはや、私がかかわったすべての者が皆、私をおいて先立ってしまった。私は人魚からどうすれば、この呪いから開放されるのかを聞き出したいのだ」
 ローレライは、千代姫の望みをかなえることができないと言った。確かに自分たちは長命だが、その肉を食べて、不老不死になる者がこの地にいなかったからだ。そんな身体的特性が自分たちにあるとは思ってもいなかった。千代姫は肩を落とした。だが、ローレライから地中海に行けば、オデュッセウスと関係をもった、カリュプソやセイレーンという人魚がいるという話を聞くことはできた。とくにカリュプソは、オデュッセウスに不死の霊薬を与えたと聞き、千代姫は前途に希望を持った。すでにあたりには宵闇が降りている、千代姫の姿は鬱蒼とした黒い森の中に消えていった。

 千代姫はギリシアで求めに応じてセイレーンと戦った。ネレイデスとも干戈を交えた。