窓から差し込む朝日と、小鳥のさえずりで目が覚めた。熱はもう、かなり下がっているようだった。頭も痛くなければ、体も重くない。

 ベッドから飛び起きて、来夏を探す。彼女に謝りたい。今までごめんと、懺悔したい。しかし、いくら探しても、来夏はいなかった。コテージのどこにも、彼女の姿はなかった。

「来夏さんを探しているんですか?」

 脳に直接響くような声が聞こえた。反射的に、僕は天井に視線を向けた。

「随分と久しぶりじゃないか」
「ええ、まあ、貴方が随分と意気地なしだったので、イラついて出てきませんでした」
「言ってくれるじゃないか」

 随分な言われようだった。だがまあ、仕方ないだろう。実際、僕はうじうじしていただけだ。

「まあ、貴方の気持ちも分かりますよ。いきなり死んだ幼馴染が目の前に現れたって、普通は信じれませんよね」
「いや、僕はもう開き直ることにしたんだ」
「というと?」

 それを口に出して言うのは少し恥ずかしかったが、この際いいだろう。天の声なんかに、今更恥ずかしがる必要もない。

 僕は心変わりを天の声に洗いざらい話した。

「もう、完全に認めるよ。僕はあの人のことが好きだ。どうしようもないくらい好きなんだ」

 ひゅっ、と掠れた空気の音がした。数秒の間があって、それは天の声が発したものだと気づいた。

「どうしたんだよ。ところで、来夏はどこにいるんだ? できれば、あって謝りた――」
「越生さん」

 僕の言葉を遮って、天の声が名前を呼んだ。

「なんだよ」
「来夏さんを、信じてあげるんですか?」
「恥ずかしいからそう何度も言いたいわけじゃないんだ。でも、信じるのとは少し違うかもしれない。好きになったんだよ。来夏とか、来夏じゃないとか関係なく、あの来夏のことが」
「そう……なんですか……」

 なぜだろう。天の声はなぜ、こんなにも震えているのだろう。

「越生さん……今から言うこと、絶対に守ってくださいね」
「あ、ああ……なんだよ」
「いいですか。来夏さんとの残りの時間を大切にしてください。後悔のないように――」

 天の声は一度声を詰まらせた後、続けた。



「生きてくださいね」



 それを最後に、彼女は消えた。

「は? おい。どういうことだよ」

 それからは、いくら声をかけても、いくら呼んでも、彼女は現れなかった。

「なんだよ。まるで僕が死ぬみたいじゃないか」

 声に出して、思い出した。その可能性に思い当たってしまった瞬間、一気に身体中の毛穴が開いたのが分かった。

 天の声は時々、未来を予知したような言動をする。来夏が現れることだって、彼女は匂わせていた。

 ということは、だ。

 遅かれ早かれ、僕は死んでしまうのだろうか。