「先ほどは失礼を……」 
 唐突に謝罪され、猛は目を丸くする。

「へ? さっき───って??」

 今、猛は女騎士さんの馬に乗せられ、カッポカッポと蹄の音を聞いているところであった。
 猛もナナミも、二人とも馬には乗れないので、二人して騎士の前後に乗せられユーラユラと揺られるのみ。

 おっぷ吐きそう……。

「あ、それはその───。先ほど槍を向けた件についてでありまして……」

 ゴニョゴニョと語尾が怪しくなる女騎士さん。

 あー。さっき(・・・)ってそれのことね。

「いえいえ、全然気にしてませんよ? 別に刺されたわけじゃないし」
 超怖かったけど……。
 主にナナミの暴走が、ね。
「い、いえ……。ドラゴンを倒した英雄であり───しかも勇者どのに刃を向け、あまつさえ不躾な言葉をかけたのです、そ、そんな簡単に許しを得られるとは、ゴニョゴニョ」

 あー……。エライ律儀だねこの人。
 もう、既に全員から謝罪されているので全く気にしてない。

 むしろ、この世界に来たばかりなのに、普通の文明に接触できそうなうえ、近くの街まで連れて行ってくれるのだから寧ろ感謝したいくらいだ。
 …………怖かったけど。

「いーえ! ほんと、もう、全然気にしてませんから!……そりゃ、空から人が降ってきたら普通驚きますよ」
「そうだよぉ。空から降ってくるのは、空挺部隊だよ?」

「は、はぁ? クーテイ??」

 うん、ナナミさん。
 ……頼むから、変な合いの手入れないで。

 説明するの俺だよ?

「ん~? 変なこと言った?」
 うん…………言ってる。

 ナナミは隣を並走する副隊長の馬に乗せられており、その馬上で可愛らしく首を傾げている。

 っていうか、……空挺部隊とかね。
 君は、ホントにどんだけミリタリーオタクな脳みそしてるのよ?

「クウテイ部隊? それは勇者殿の国の兵士でしょうか?」

「精強なんだよ!」

 目をキラッキラ輝かせたナナミ。
 もう、語りたくてウズウズしている。

 ……ってか、女騎士さんも変なとこ拾わないでよ。───面倒くさいんです。

「隊長さん。コイツの話聞いてると頭がおかしくなるから、ほどほどで───」
「ぶー! おかしくないもんッ」

 ぷんぷん! と擬音がつきそうなくらいナナミは可愛らしく抗議の声をあげる。
 その様子は年相応の女子高生だ。

 まぁ、

 背中に背負っているRPG-7(対戦車ロケット砲)と腰の前に掲げているAK-47(アサルトライフル)がすっごい違和感しかないけど……。

「ははは。仲がよろしいようで」
「な、仲がいいなんて」

 キャー……! と、可愛らしく顔を染めるナナミ。
 おう、ただの幼馴染やろがい……。

「く、腐れ縁ですよ───幼稚園からずっと一緒にいれば、そりゃ仲も良くなります」
「それは、それは……! 彼女は勇者殿の想い人であられるのですな?」
 
 ちゃう、っつーの!

「……そ、それよりも隊長さん、俺たちはこれからどこへ向かうんですか?」

 無理やり話題を変えた猛ではあったが、女騎士は小さく笑ってそれに応じてくれた。

「まず、休止点を目指します。───そこは補給品を預けた開拓村で、ここから半日ほどの場所にあります。今日はそこで休みましょう。……ご安心を。宿も食事も準備させますので」

 お! 異世界村人のお家で一泊?!

「あ、はい! な、何から何まで……すみません、隊長さん」
「……メイベル。メイベル・カストールです。隊長でなくても結構ですよ。メイベルと気軽に呼んでください、勇者殿」
「え? あ、はい。…………俺も猛でいいです。あっちはナナミ。新城ナナミです」

「ナナミで~す」

 ペコリと行儀良く頭を下げるナナミ。
 うむ。育ちがよろしいようで。

 そして、女騎士さんはメイベルというらしい。
 聞けば、彼女はこの国の5つある騎士団の一つを任せられているエリートということ。

 ───彼女の属する『ハルバル王国』は軍事大国。
 長年、北の大地から度々南進してくる魔王軍に対抗している人類最強国家の一角なのだとか。
 そして、メイベルを含めた騎士団を交代で配置しているそうだ。

 つまり、今の彼女の任務は国境監視。

 たびたび越境してくる魔王軍を警戒して、今日も今日とていつも通り国境を警戒していたのだという。

 本来なら何でもない任務のはずだったのだが、今日は先行させている斥候が魔王軍の一部隊を偶然(・・)発見したらしい。

 少数での略奪部隊と見られる魔王軍。
 兵は弱兵揃いで、巡回中の部隊で対処できるとメイベルは判断した。
 決定するや否や、彼女は部下を率いて急行。
 案の定、発見したのは、斥候の報告通りの少数の魔王軍の部隊のみ。

 これなら勝てると、メイベルは迷うことなく強襲を指示。
 あっという間に魔王軍の部隊を殲滅してしまった。

 ──と、そこまでは良かったのだが……。

 その帰りのこと、突如としてはぐれ(・・・)ドラゴンが北の大地より飛来し、騎士団を強襲してきたのだという。

 それが、猛たちも見たあのドラゴンなのだとか……。

 少数の魔王軍ならば殲滅できるだけの兵力ではあったが、ドラゴンに対抗するには過小すぎる兵力だったメイベル達。
 一人。また一人と部下がやられていき、ついに、ジリ貧になっていたところ……そこに偶然───猛たちが現れたという。

「…………実際、危ない所でした。いつ全滅してもおかしくはなかった」

 そうなの?
 結構善戦してるように見えたけど……。

「おそらくアレは敵の策略です。……雑魚の魔王軍兵士どもが、はぐれドラゴンを上手く誘導していたのでしょうな。我々は、それにまんまと引っ掛かり、危うく全滅するところでした、本当に───」

 「重ね重ね感謝します」と、メイベルが頭を下げる。

 馬上ゆえ簡略化された礼ではあったが、本心からのものらしい。
 その美しい顔が柔らかく微笑んでいる。

「い、いや~……。あはは───」

 美人に礼を言われると照れる……。
 耳まで真っ赤になりながら、猛が頭をポリポリと掻いていると、

「ぶー」

 ナナミさん、膨れっ面。

 ま、ま~感謝されてもね……。
 倒したの俺じゃないし。

「いやはや……。それにしても、すさまじい魔法でしたな。我らは、勇者殿の剣が折れた時点で、アナタの最期を見るのかと思い、戦々恐々としておりました」

 うん……俺も死ぬかと思った。

「しかし、それはブラフ──まさか、至近距離からの大魔法を狙っておられたとは……」

 ………………うん?

 「いやはや、御見それしました」───とメイベルは手放しで猛を褒めたたえるが、

 …………ちゃうねん。

 それはちゃうねん……。
 俺、何もしてないねん。

「いやいや───違いますよ!」

 だ、大魔法とかとちゃうねん。
 あれな、ロケット弾ですねん。
 ……うちのナナミはんが、ヘッドショット決めはりましてん。



 ………………RPG-7(地球版の大魔法)でね。



 しかし、それをいくら説明しても騎士団は納得しない。
 そもそも、RPG-7(対戦車ロケット砲)が分からないのだから理解しようがない。

 いわゆる魔法のような物だと説明してみても、余計に理解できなかったらしい。

 なにせ、騎士団曰く、
 ナナミからは魔力を一切感じないのだというのだ(そういうものを、感知する魔法があるらしい)。

 そのナナミが魔法を使ったと言っても、彼らが納得するはずがなかった。

 魔力のないものには、魔法は使えない。
 それがこの世界の常識らしい。

 結局───勇者である猛が、ナナミの立場を良くしようとして、お膳立てを図っているのだと勝手に納得されてしまった。
 ナナミ自身も、手柄については別にどうでもいいみたいで、一切不満の声をあげなかったのも大きい……。

 なんとか説明しようと、馬上でわいのわいのと話し合っても(らち)が明かない。

 結局───。

「う、う~む……ナナミがいいならそれでいいけど」
「ど~でもいいよ~?」

 猛としては釈然としないもの、ナナミはまったく無頓着だ。

 男として、他人の手柄の上に胡坐をかくのは格好悪いので否定したいのだが、誰も納得してくれない。

 もっと分かりやすく説明するなら、いっそRPG-7をその辺に一発ブチかましてみればいいのだろうけど───。

 「えー……やだ。弾がもったいないもん。───弾だってSP使って買うんだよ? どうせなら、何か動くものに撃ちたいよー」とのこと……。

 何か動くもの(・・・・・・)ってね……。
 ナナミさん、ものすごく物騒です。はい。


 ──────もうええわ……。


 がっくり項垂れた猛をさらに褒めたたえる騎士団。

「いやー謙虚ですな。さすがは勇者殿!──おお、もしやドラゴンごとき、倒したうちにも入らないということですな!」

 い、いや、ちゃうねん……。
 ほんまにちゃうねん……!

「お、俺は本当に何もしてないんですよ」

「ハッハッハ! またまた、何を謙遜しておられるか。ドラゴンを滅した強者──アナタこそ、伝説の勇者どのではありませんか!」

 あー。もーまただよ。
 なんなの、それ?

「その───伝説って、なんなんです?」

 さっきからずっと勇者勇者と称えられるのも、むず痒い。
 知らないところで噂されているようで、どうも釈然としない。

 それに、伝説というくらいには『勇者』という存在がかつていたということだろう。
 それを猛に置き換えられても困る。
 確かに、職業的には『勇者』だが、『猛』は猛なのだ。

 そりゃ、勇者の力を願ったから、いわゆる『勇者』で間違いないんだろうけど──……職業もばっつり勇者だし。

 ポーン♪ と、ステータス画面を起動。
 そこにはしっかりと『職業:勇者』と書かれている。ちなみにステータス画面はメイベル達には見えない様だ。

 どうも、猛とナナミだけが見えているらしい。
 余り人前で使うと、目だけキョロキョロしているようで怪しまれそう……。

「勇者伝説ですか?……もちろん、我々が子供の頃から聞かされているものですよ──」

 子供の頃から……。そりゃ筋金入りだわ。

 メイベル曰く、

 ※ ※

 ハルバル王国成立より遥か昔、魔王が今よりも遥かに強大な勢力を誇っていた頃──。
 ()の軍によって、大地は瘴気にまみれ、村と街は焼かれ、国は次々に陥落。
 人々は絶望と滅亡の縁に立たされていたという。

 毎日のように国が滅び、村が略奪され、田畑は踏みしだかれていた。
 そして、追い詰められる人類は、ついに滅びの危機を迎えんとしていた───。
 強大な魔王軍に追い詰められた人々は、南に南にと、残された城塞都市に身を寄せるよみ。
 その滅びの時は、刻一刻と迫っていた。

 そんな時───……。
 神が遣わしたと思われる、一人の青年が空より舞い降りた。
 彼は、その瞬間より敢然と魔王軍に立ちはだかったという。

 そして青年は、たった一人で魔王軍に対峙すると、大地を焼き尽くさんばかりの大魔法を持って、あっと言う間に魔王軍を駆逐してしまった。

 勇者に敗れ、潰走する魔王軍は命からがら北の大地へ逃げ戻ったという。
 しかしそれを放置せず、()の青年は光り輝く強大な武器とともに、そのまま魔王を追って北の大地へ入り、最後には魔王を誅したとされる。

 だが、北の大地より先───()の青年の姿は途絶え、その後彼を見たものは誰もいないという……。

 ※ ※

「これが子供でも知っている勇者伝説です」

 へー。

 メイベルは朗々と語り、猛とナナミはなんとなく聞き入る。

「そして平和を築き上げた彼を讃え、人々は彼の足跡を追うようにして魔族のいなくなった土地に入植し、次々に国が興りました」

 ふむふむ。
 メイベルの語りに付き合う二人。

 彼女曰く、
 ハルバル王国もその一つだという。
 彼女の国は、彼の青年の進んだ道にできた、新興の国家なのだそうだ。

 ま、新興とは言っても百年単位の歴史はあるらしいけど───。


「そして、伝説はこう続きます───」

 ※ ※

 再び、魔王が世界を滅ぼさんとするとき、空より勇者は舞い降りる。


「千の軍を焼き払い。

「万の魔族を滅ぼさんと───。

「億の闇を光で満たし、彼の者は勇者たらんとする……。

 ※ ※

 ほほほー…………。
 エライ強かったんだね。前の勇者は──。


「それがアナタ───猛殿であります」





 …………………………は?