「た、猛ぅ……」

 不安そうな声のナナミ。
 その言葉に勇気を振り絞ろうとするも、至近距離で人間から殺意を向けられるのはこれが生まれて初めてだ。

(───じょ、冗談じゃない……!)

 あの隊長の合図次第で、一斉に槍が二人を刺し貫くのだろう。
 彼らの放つ圧力は、ドラゴンのそれとは種類が違う。

 現代日本では絶対に感じられない、戦場の香り───。

(な、何を答えろってんだよ……。間違ったこと言えば殺されるのか───俺達?!)

 ど、どうする……。
 いっそ、()られる前にやるか?

(やって、()れないことはないはずだ……)

 チラリと見れば、猛の手には折れた剣が一振り。
 だが、折れたとはいえ───多少の刃はまだ健在だ。

(し、しかし殺すのか? に、人間を?!)
 いや、そも殺せるのか、俺に。

 いやいやいや。落ち着け。
 なんで、俺はこんな物騒なことを考えてる?!

 ……な、なにも彼等を殺す必要はない。

 そんなことをしなくとも、猛の力があれば制圧できる!
 それ以上に、逃げることだって───。

 そうさ。
 ドラゴンと戦ったときの───この身体能力があれば、ここを脱出くらいはできる!

 ───勇者の力があれば(・・・・・・・・)、彼等を殺さずともいい。

 殺すなんてのは、最後の手段だ。
 …………むしろ、懸念は一つだけ。

 そう、


 ──────……ナナミだ。


 この幼馴染の身の安否。それだけが気がかりだ。
 猛一人(・・・)なら、騎士たちの包囲を振り切るのはたやすいだろう。

 だが、それはできない。
 幼馴染を置いてきぼりにして逃げるなんて言語道断!

 猛にとっては、譲ることのできない一線があるのだ───。

 そう。それは、幼馴染の愛しい少女。
 ナナミ。

 ……彼女を危険に晒すことだけは、絶対にできない。

(もう二度と失敗しない!)

 フラッシュバックのように甦る事故の瞬間───。
 あの踏切で、間違いを犯した猛。

 だから、二度と間違えない……! 

 そうだ……。
(───俺は、ナナミを守るッ!!)

 彼女は勇者じゃない。
 ナナミは猛と違って、あのバカげた身体能力は持ち合わせていないのだ。

 たった一人の幼馴染。

 この世界で、二人しかいない日本人。そして、猛の大好きな女の子だ!!

(……ナナミを置いて一人で逃げるなんてできるわけないだろう!)

 できるわけが───……!!

「(猛ぅ)」ボソッ。

 一言呟いたナナミ。
 その表情───ナナミは眉根を寄せているが、口は開かず「どうするの?」という目を猛に向けていた。

 ど、どうするって……。
 そ、そりゃあ……。

 ───……って!

 をいぃぃい!?
 をい、をい、をいをいをい!!

「(な、なにやってんの?! ナナミ!)」
 ガシャキ!!
「(セーフティ解除したけど、なにか?)」

 …………いやいや、お前さんや?
 何で指が引き金にかかってんだよ!!

 っていうか。な、なんか、凄い目ぇ据わってない?! こぇーよ!!

「(…………先手必勝だよ?)」

 や、やる気?
 殺・る・気・で・す・か?

 YA・RU・KI満々ですか?!

「何をボソボソを喋っている!」
「す、すみません」

 鋭い声で詰問する騎士団の隊長。
 その顔はフェイスガードの奥の瞳が爛々と輝き、眼圧が凄いのなんの。

 いや、その眼圧といえば……。

 隊長も凄いが、……そしてナナミも凄い。
 なんかもぅ、殺気をムンムン放っていらっしゃる。

 なんて言えばいいのか。
 まるで歴戦の兵士のような剣呑な空気を纏っているではないか。

 そして、その気配に気付いているはずの隊長は全く意にも介していない。
 隊長からすれば、殺気など何ほどのこともあらん、と言った雰囲気。

 だからその目は、猛だけを鋭く睨みつけていた。
 少しでもおかしな動きを見せれば、隊長配下の騎士たちが容赦なく猛を槍で刺し貫くのだろう。

 だけどね……。
 騎士団諸君───君らは知らないのだよ。

 俺は勇者。
 勇者タケル。

 そして、その背後に庇っている女の子はナナミ。

 新城七海。
 セーラー服の女子高生。

 ただの女の子だ……。

 だけどね。その手に握られているのは、『AK-47』アサルトライフルなのだよ。

 7.62mm弾を毎分600発の速度で発射する恐ろしい兵器───。

 その貫通力たるや、騎士団ごときのフルプレートアーマーなど、ボール紙のように簡単に刺し貫くだろう。

 つまり、
 庇われているのはナナミではなく……。

 ましてや、猛でもなく───……、それは何もわかっていない騎士団の連中だという事だ。

(うぅ……超こぇ~)

 ナナミと隊長に挟まれた猛。

 一触即発の雰囲気にタラーっと、ひとり冷や汗を流す猛。

 しまいには、ジワリと嫌な汗が背中から噴き出してきた。
 ゴクリと飲みこむ鍔がやけに大きく響いたかと思うと、騎士団の隊長の瞳がキラリと輝いた。

 そして、隊長が問う───。


「──────汝らに、問おう」

(な、なんだよ?)

 ごくり…………。




「………………汝は───汝らは魔王軍なりや?」




 ………………………………は?