着弾(パッサニェド)確認ッ(パッサケイド)!』

 ドォォオオン…………。

 と、遥か彼方からドロドロとした着弾に振動が響いてくる。
 猛はメイベルの耳を覆いつつ、自らのそれがキーーーーンと耳鳴りがしていることに辟易しつつも、なんとか乗員の言葉が聞き取れた。

いいよ~(ハラショー)! いいよ~(ハラショー)! どんどん行っちゃおう! 続けて行進射ッ! あれだけ多ければどこに撃っても当たるよぉ」
了解ッ(パニラー)!』

戦車(タンク)突撃ッ(シュトゥルム)!」
『『『『ウラー!!』』』』

 ギャラギャラギャラ!!

「………………ナナミのりのりでんがな」 

 猛は思う。
 切実に思う。

「……俺、ロシア映画でも見てるのかな?」

 だって、そうだろ?
 こんなに抜けるような快晴の空の元、T-34にのって驀進しているんだぜ?
 しかも、目の前には大群が!

 ドイツ兵とモンスターという違いがあるだけでやっていることは映画の世界そのものだ。

撃てー(アゴーイ)! 撃てー(アゴーイ)! 撃てぇぇエ(アゴォォオイ)♪」

 ドカーン! ドカーン! ドカァァアアン!!!

 次々に発射される戦車砲に、
 次々に命中する85mm榴弾!!

 振動に負けないようにチラリと窺えば、目前で多数の魔物たちがドカン、ドカン、ドカン! と吹っ飛んでいく。

 赤い炎が巻き上がったかと思えば、そこにはバラバラになったゴブリン。
 黒い黒煙が吹き上がったかと思えば、そこにはグチャグチャになったオーク。
 茶色の土塊が打ち上がったかと思えな、そこにはボロボロになったオーガやハーピー。

 もう、魔物の軍団がボッコボコだ!!

 ただただ、T-34にいいようにやられるのみ!!

「あはははは! あははははは! とっつげきぃぃぃいい!」
「…………何じゃこりゃ」

 うん。

「───何じゃこりゃああああああ!!」

 猛の叫びなど何のその。

「あははははははははははは! 行けっ(イジィ)同士諸君(ペリビャーダ)!!」
『『『『ウーラー!!』』』』

 ナナミの指揮するT-34は全速前進。
 85mmを乱射しながら魔王軍に向かって驀進していく。

 そして着弾の度に舞い上がるモンスターたち。

 ゴブリン、オークにコボルトさん。
 時々オーガにハーピーが!

いっくよぉぉぉ(スリェードゥイ )おおおおお(ザムノイ)! 蹂躙開始(ペレポンニィティア)ッ」
『『『『ウラァァァアアアア』』』』

 ウラーじゃねぇ!!

「た、猛殿……これは一体~」

 グルグルと目を回しながらいっぱいいっぱいの様子のメイベル。
 ぶっちゃけ猛もいっぱいいっぱいである。

 普通の高校生が戦車に乗る機会などどれほどあるというのか……。

 ましてや剥き出しの車体。
 タンクデサント──────。


「……って、これタンクデサント(戦車の乗って突撃)やないか~~~い!!」
「あはは、今更だよ、猛ぅぅう! つっこむよーーーー!!」

 ウラァァアアアアアア!!

「うるせぇぇえ!」

 乗員の戦車兵がうるさい。

 そして、その勢いに乗ったまま!
「ナナミ前! 前ぇぇぇええ! 魔物の群れが!!」

 戦車はあろうことか、勢いを全く止めずに1万はいるであろう魔物の群れに真正面から───いや、真横から突進していくではないか?!

「あははは! 知ってるよぉぉお! 言ったでしょうーー」

 にひっ。

「───蹂躙するってねぇええ!!」

 いや、言ってたけどぉぉお!!

 や、
「やめてーーーーーーー!!」

 叫ぶ猛の目前には今にも衝突せんばかりに魔物の大軍勢がいた。
 方向転換も出来ずに、ボウボウと軍団のあちこちに火の手が上がっている。

 そして、T-34と、そこに跨乗するナナミたちに柔らかい横腹を見せた状態で隙だらけ!
 いや…………戦車相手に好きなど関係あるか!!

 ギャラギャラギャラギャラ!!

 激しい履帯音!!

 巻き上がる土と腐葉土の匂いに混じって魔物たちの体臭が漂う!!
 それほどまでに接近し、彼らの持つ雑多な武装までもが見分けがつく頃になって、ようやく魔物たちが騒ぎだした!!

『うわ、な、なんだ!?』
『に、人間───?!』
『ぎゃ!? 馬車がこっちに?!』

『に』『に』『に』
『『『逃げろぉぉぉおおおおお!!』』』

「あはははははははははは! 蹂躙開始ぃぃぃい!!」

 多数のモンスターの叫びや声や悲鳴が上がったかと思えば、ナナミが戦車に突撃を指示するではないか!!

「や、やめろナナミ! 衝突するぅううう!!」
「うわわわわわわ!! ナナミ殿ぉぉぉお!!」


 ドカーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!


 猛の叫びなど聞きもしないでナナミは突撃する。

『『『ぎゃああああああああ!!』』』


 ボンッッッッッツ!!


 衝突の瞬間、凄まじい衝撃が戦車を貫く!
 ズズンッ! とインパクトを感じたかと思えば魔物が木の葉のように舞っている。

 そして、巻き上がる血とバラバラの魔物の体!!

「うひゃああああ!」
「きゃあああああ!」

 猛とメイベルは振り落とされそうになりながらも必死で掴む!

「あーっはっはっはっはっは!! 前へ(ペリォッド)前へ(ペリォッド)! 前へ(ペリォッド)!!」

 だが、同じく振り回されているはずのナナミは実に楽しそうに笑ったかと思えば、「前へ、前へ!」と砲塔によじ登って陣頭指揮していらっしゃる。

 その言葉に答えるようにT-34は一層激しく咆哮し、魔物を蹂躙していく。
 車体でぶつかり、履帯で轢き潰し、エンジンの馬力で強引に乗り越えていく。
 さらには前方機銃と主砲の同軸機銃がけたたましく咆哮し、7.62mm弾で次々に切り裂いていく。

 ドココココココココココココココココココココココココココ!!
 ドココココココココココココココココココココココココココ!!

 狂おうしいまでの機関音を響かせるロシア製機関銃は全然故障が発生せずに、射線にいるあらゆる生物を切り裂いていく。
 オーガ、ハーピー、オーク、ゴブリンを問わず。
 巨体、飛翔体、武装、軽装の差別なく!!

『『『ぎゃあああああああ!!』』』

 そして、ナナミはといえば───!

「そっちだよ猛ぅ! 敵に乗り込まれたら厄介だから近接歩兵を排除してね!!」

 は。排除って───ズダダダダダダダダダダダダダダダ!! ひょえええ??

 激しい機関銃の音に首を竦めると、ナナミは礼のセーラー服とカラシニコフのスタイルで右に左にと戦車の射線から逃れた魔物たちに向けて容赦のない射撃を加えていく。

 よくよく周囲を見れば、魔物魔物魔物!!

 戦車の通過した後だけが死体の山となるが、それ以外はまるで魔物の湖に飛び込んだように、ありとあらゆる魔物で埋め尽くされている。
 そして、それを物語るようにゴブリンらしき強烈な体臭が鼻をつく!

「そっちいったよ!!」
「く!!」

 げぎゃああああ!!

 と、一部の立ち直りの早いゴブリンの部隊が戦車によじ登ろうと仲間の体を踏み付け殺到してきた。
 いつの間にか戦車の動きも鈍くなっている。

 さすがにこれだけの大群を一瞬で踏みつぶすことも出来ずに、ゆっくりとした動きでブチブチブチュブチュと……!

「猛どの! 左が私が!」

 ドスッ!! と、メイベルが取っ手を掴んだまま器用にも片手だけで剣を振り回しよじ登ろうとしていたゴブリンを叩き落とす。
 そして、右はと見れば───「く!!」オークの歩兵が槍を手に猛をつき殺そうとしている。

「うらぁぁああ!」

 それをオリハルコンの大剣で薙ぎ払う猛。
 だが次々に殺到する魔物たち!

 混乱しているものが大半だが、一部の魔物は勇敢にも突っ込んでくる。
 パニックを起こした仲間は引き倒し、ときには踏み台にして!!

「次々来るよぉォ! 全員気を引き締めてね!」

「無茶苦茶だぞ、ナナミぃ! どーすんだ?」
「猛どの、今は口よりも手を!!」

 ドスッ、ズバッ! と激しく剣を振り回し乗り込もうとする魔物を切り倒すメイベル。
 戦車の動きが鈍くなったおかげで少し心に余裕が出たらしい。

「わ、わかりました!!」

 そうだ。
 どの道今は戦うしかない!!

 こんな魔物のど真ん中でおしゃべりをしている暇なんてない!! ナナミへの説教は後回しだ!!

「うりゃああああ!!」

 勇者由来に膂力とスキルをぶっ放し、側面から迫る魔物を次々に薙ぎ倒す猛。
 その剣技は冴えわたっており、猛の護る右側面はほぼ無敵状態だ!

「いいよ~猛ぅ! なら、私は左を援護するね!」

 ニヒッ。
 ナナミは悪戯っぽく笑うと、『SHOP』から次々に手榴弾を購入すると、その傍からピンを抜いて左側に投擲していく。
 そして時にはRPG-7をも発射!! ドカンドカンドカン!! と猛の勇者のスキルには負けず劣らず魔物を薙ぎ払っていく。

 そうしてこうしてT-34戦車とナナミ達が魔王軍1万を縦横無人に蹂躙していく。

『『『『『うぎゃあああああ!!』』』』』

 魔物の絶境もなんのその。
 あっというまに、1万の軍勢を横切ってしまった。

「はは、やった抜けた……!」
「た、助かった……!」

 魔物の群れを突き抜けたT-34は彼らの返り血で真っ赤に染まっている。
 そして、猛とメイベルも血まみれになりつつも、なんとか無事であったことを喜び合うくらいにはケガを負うこともなかった。

 魔物を群れを抜けた……これで一安心だと───。

「よ~し、旋回180開頭♪ 二巡目いってみよーーー!!」


 あ?


 ギャラギャラギャラギャラギャラ!!

 突如、T-34がその場で超伸地旋回を開始。
 せっかく魔物の群れをつっきり、目の前には清浄な大地が広がっていたはずなのに……。

 ギャラギャラギャラギャラギャラ!!

 開頭すれば、何と言う事でしょう───またまた目の前には大量の魔物の群れが!!

 しかも、戦車が大暴れしたおかげで魔物の皆さん大パニック。
 そして一部の魔物は怒り狂って、猛たちをグッチャグチャにしてやるとばかりに威嚇しているではあーりませんか!?

「お、おい……ナナミまさか?」
「な、ナナミどの……その、もしかして?」

 おずおずと尋ねる猛とメイベル。

「ん~? どうしたの? すぐに突撃するから近接戦闘準備したほうがいいよ~?」

 近接戦闘準備ってアンタ……。

 ナナミは空になったAK-47の弾倉をポイっと捨てると、新しい弾倉に交換しつつ、砲塔に並べたRPG-7をも再装填。
 そして、ソフトボールの練習でも始めるかのような気楽さで手榴弾もゴットンゴットンと無造作に敷き詰めていく。

「ニヒッ。そんな2巡目───いっくよ~!!」

「うそ」
「や、やめ」

『『『『ウラァァア!!』』』』

 だから、ウラーじゃねぇえ!!

戦車(タンク)発進ッ(ヴズリョート)!」
『『『『了解ッ(スパシーバ)!』』』』


 や、

 や

「「や」」

「「やめてぇぇぇえええええ!!」」

 猛とメイベルの叫びが響いた時には戦車は再び方向をあげて魔物の群れに突っ込んで行った!!




 ドカッァアアアアアアアン!!



『『『『ぎゃあああああああ!!』』』』
「「ぎゃあああああああああああ!!」」

 絶境の響く中、笑っているのはナナミただ一人。
 っていうか、この子ここまでトリガーハッピーだったけぇぇええ?!

 またまた、どがががががががががが! と、戦車のパワーで魔物の群れを蹂躙していくが、今度はさすがに魔物を体勢を立て直し始めている。

 というか、パニックになったものは逃げだし、今残っているのは負傷者と立ち向かう意思を見せた者のみ。
 つまり一筋縄ではいかない……あ。

『き、貴様らぁあああ!!』

 エルメスの野郎だ。
 逃げ帰ったと思ったら、やはりここにいたらしい。

 ここであったが千年目と言わんばかりに憎々し気に猛たちを睨んでいる。

「エルメス!! この裏切りものが!!」

 シャリン!! と鞘引き抜刀したメイベルが上空のエルメスを睨み付ける。

『黙れ、雑魚が!! 俺の相手はその小娘だぁぁああ!!』

 ギュン!! と急降下し一気呵成にT-34を強襲するエルメス。
 どこかでT-34を見ていたのだろう。
 そのため初見によるパニックはなく、冷静に跨乗している乗員を狙おうとしている。

「く! 空からは厄介だぞ! ナナミは中に───」
「いいよ猛ぅ。アイツは私が……」

 ジャキンッッ!

「───堕とすッッ!!」

 いつの間にか、ナナミがT-34の対空銃架に取り付けた重機関銃を構えていた。

 最初からそのチャンスを窺っていたのか、猛が気付いていない隙に車内から取り出した7.62mmDT機関銃の背後に取り付き、対空照準器にエルメスを捉えていたのだ。

『死ね小娘ぇぇぇええ!!』

 悪魔が持つような三又の槍を構えたエルメスが急降下アタックを仕掛ける。
 真っ直ぐにナナミを捉え、その穂先で串刺しにせんとす──────……!

「一直線に飛んでくるなんて───いい的だよぉぉ!」

 初弾を装填した対空機銃はもはや引き金を引くだけ!
 調整の済んだ対空照準器にはエルメルの効果速度と未来位置を予想したところをバッチリと捉えていた。

『うぉぉぉおおおおおお!!』
「てりゃあああああああ!!」

 ドカン、ドカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ!!

 DT7.62mm機関銃は、
 ヴァシーリー・デグチャレフの開発したDP軽機関銃を元に、ゲオルギー・シュパーギン技師が再設計した車載用の重機関銃だ!
 63連発の弾倉を備え毎分500~600発の発射速度を誇る古強者である。

 それが、上空から襲い掛かって来たエルメスを指向する。
 無防備にも、対空機関銃の恐ろしさを知らない間抜けな魔人を撃ち抜かんとして空を7.62mmの重機関銃弾が次々に薙いで行くッッ!!

『ぬぉぉおおおおおお?!』

 ビュンビュンビュン!! 曳光弾がギラギラと輝きエルメスに突き刺さる!
 一度AK-47に撃たれておきながら学習能力のない奴だ。

「命中命中命中!! 猛、当たったよぉおお!!」

 皮膜を穴だらけにされてエルメスが煙を吹きながら墜落していく。
 その様を見て、ガッツポーズをとったナナミだが──────。

「ナナミどの! 油断するな───エルメスはそこまで馬鹿ではないッッ」
「え?!」

 メイベルの注意が飛んだとき、そいつは現れた。

 ドンッ!! と大地を爆ぜさせて、いきなりの出現!!

 T-34がひき潰した死体の山から突如出現したのは、二手に槍を構えたエルメスだった。

「な?! さっき撃ち落とした──────……デコイなの?!」

 すぐに、その事実に気付いたナナミ。
 どうやら、囮か、あるいはそれに準じる魔法の類らしい。

 ナナミの注意を上空に引き付けておいての下からの強襲。

 なるほど……それなりに学習しているようだ。

『ぐはは! 舐めるなよ、小娘ッ!』

 そして、一気に加速するエルメス。
 敢えて空を飛ばずに、羽根による羽ばたきは疾走の補助!
 それによってあり得ない加速を得ると、一気にT-34に接近する。

 それを妨害しようとする猛とメイベルだが、魔物の群れがそれを許さない。

 爆走するT-34の速度を物ともせずに戦車の車体によし登ろうとして二人に圧力をかけ続けた。

「く! コイツ等───ナナミ!」
「この! 邪魔だ。どけ、ナナミ殿!」

 二人の援護を逸らしつつ、隙を見出したエルメスが死体の山を蹴り上げて跳躍し、一息にT-34へと踊りこんだ。
 それを討ち倒さんと、ナナミが対空銃架を水平に向け、ドカカカカカカカカカカカカカカカカッカカカカ!! と強烈な射撃でもってエルメスを指向する。

「当たれえぇぇぇえええええ!」
『当たるものかよぉぉぉおお!』

 一度銃を見たエルメスは大よその能力を把握していた。
 構造や仕組みは分からなくとも、魔法や連弩の類であると!!

 そして、光を発する曳光弾を使用していたこともエルメスには幸いした。
 本来銃弾は目に見えないものの、対空射撃の際には射線を確認するためワザと光る弾丸を入れるのだ。

 だから、エルメスにも見えた。

 高速で飛来する弾丸が──────なので躱せる!
 近づける……殺せるッッッ!!


 ドンッ!!


 最後の一跳躍を終えたエルメスはそのままT-34に飛び掛かり、その砲塔で不敵に笑う少女を見て、殺せると確信した………………。

 不敵に笑って──────え?

 エルメスの顔が一瞬だけ、「なんで?」と。
 何で笑ってんだ、このガキ───と……。

「あはははははは。射撃に誘導されてることも気付いてなかったでしょ?!」

『なに?』

 エルメスは一瞬だけ躊躇う。
 このまま飛び掛かっていいのか───と、

「T34/85の主砲は元々高射砲なんだよ? だから、一発だけ余分にSHOPで買っておいたんだぁ」

 時限信管付き、高射砲弾───……。
 発射すれば指定した時間で信管が作動し砲弾を破裂させ、その破片でもって航空機を破壊する弾だ。

 そいつが───……。

装填(ゾドゥルスカ)信管(エベルラニィツ)0.5(ノィツレベシャシュ)───撃て(アゴォイ)ッ」

 
 ドンッッッッッッッボォン!!


『グォ─────────……』

 自分たちすら傷付けかねないほど危険な距離での砲弾の破裂!
 それは実際に飛び散った破片はT-34に当たって耳障りな反跳音を立てていることからも危険な距離であったと分かるだろう。

 だが、それが故に鼻先で破裂した砲弾はエルメスをまともにその危害半径に取り込み炸裂した。

 後にはグチャグチャに赤い煙が残るのみ。
 正面にいた魔王軍の兵士もボロクズのようになって倒れていた。

 そう。
 ナナミは追い詰められていると見せながら対空銃の射撃によってエルメスを戦車砲の発射半径に導いていたのだ。
 当然、高速で移動する目標に戦車砲を直撃させるのはほとんど不可能なので、高射砲弾による面制圧で仕留めようと計算していた。

 だが、こうまでうまくいくとは───……。

「に、にひひ。ヴィ!」

 それを見ていた猛はナナミの頭を軽く抱いてやる。
 彼女がブルブルと震えていたから。

 恐らく一種の賭け。失敗するかもしれないギリギリでもあったのだろう。
 それはさすがにナナミにし恐ろしかったと見える。

 魔王軍の群れの中にありながらしばしギュウウと抱締め合う二人。

「大丈夫だ。もう大丈夫───あとは俺に任せろッ」
「うん。うん……え? 任せろって……」

 はっと気付いたナナミが顔をあげたので、猛はそこに輝くような笑みを残して見せる。

「見とけって、コイツ等くらい、俺が一人で何とかしてやるよ!」

 そう言って、戦車の砲塔に立つ猛。

 肩にオリハルコンの大剣を担ぐと群れなす魔王軍を睥睨した。
 T-34による蹂躙と、その攻撃によるパニックで魔王軍1万は既に過半数が失われていた。

 だが、まだ健在だ。
 それに一部ではあるが統制を取り戻しつつある。

 あるんだけど───……それだけに動きが筒抜けだった。

 つまり、
「───あそこに敵の指揮官がいるんだな」

 猛はナナミと行動することで少しだけ、軍事について理解しつつあった。

「ナナミ、メイベルさん。俺こういうの苦手でわからないんですけど───」

「猛?」
「む?」

 スッと、剣を敵の方向へ向けると、
「あそこに敵に指揮官がいますか? それを仕留めればどうなります?」

 メイベルがジッと目を凝らして先を見る。

「いるな……。大物だ。───そいつを仕留めればコイツ等は瓦解するだろう。どいつも雑魚ばかりで本来臆病な連中だ」
「……なるほど、わかりました──────ナナミ」

 ニコリとほほ笑む猛。

「猛?」
「……ちょっと行ってくる。援護頼むぜ?」

「え? あ───」

 トンッと、猛はT-34を蹴り、足場にすると───次の一歩で地面に降り立ち、物凄い踏み込みで魔王軍の中を駆けたッッ!

 それはT-34の突進にも負けるとも劣らないもので、防風の如き勢いで魔物の群れを弾き飛ばしていった。

「す、すごい……」
「た、猛? だ、ダメ! 一人じゃ無茶!! せ、戦車前へ! 猛を追って」

『『『『了解(パニラー)!』』』』


 そして、勇者の特攻と、戦車の突撃が始まる!