「さーて、いっちょうやりますか♪」
 クグッと腕をほぐして伸びをするナナミ。
 おかげで中々に大きい胸が防弾チョッキの下からでも強調される。
 だが、それを見てくれる猛は背中合わせ、アピールできなくて残念。

「なーんてね」

 さて、
 ナナミの目標は正面戦力の殲滅だ。

 敵はオーガ一個小隊規模の近接戦闘兵。

 オーガという兵士の見た目は大きな汚い肌のオジサンで、数はいっぱい。

 猛いわく、アイツらは食人鬼(オーガ)という化け物なんだとか。

「……ニヒヒ。ようやく動く相手にカラシニコフを叩きつけられるねッ」

 熱中したスマホゲームを思い出す。

 みんなでワイワイ楽しかったな~。
 猛は一緒にやってくれなかったけど……。

 しょぼーん。

「猛ぅ。こっちは約30体。一個小隊だよ」
「こっちも同じくらいだ───倒せるか?」

 ろんのもち。

「ニヒヒ。7.62mmはありとあらゆる理不尽を打ち砕くんだよ?」
「ははは。7.62mmで敵の(アギト)を食い破れって?」

 うんうん。猛のそーゆーとこ好き。

「じゃ、」
「おう、」

 始めるぞ!!

《《《ゴルァァァアアアアアア!!》》》

 二人が正面きって戦う意思をみせれば、オーガとて対抗する。
 猛とナナミの気合なんて一瞬で吹き飛ばす程の声量で咆哮し、戦意を挫こうとする。
 さっきまではリーダーに統率されていたオーガも今はその制御を放たれ本能のまま生きる一個の獣だ。

 だが、
「弱い犬ほど、」
「よく吠えるんだよ♪」



 だが、それしきの咆哮で怯える猛とナナミではない!

「うぉぉぉおお!!」

 背中あわせの猛が猛然とオーガの集団に突っ込んでいく気配を感じながら、ナナミも不敵に笑いAK(カラシニコフ)を片手で保持しつつポッケに手を突っ込む。

 まずはご挨拶───。

 さっそく、害獣駆除の開始と行きましょうかッ。

 ───獣は駆除しないと!

「こーゆー風にねッ」

 シュっと抜き出した手にはまーるい塊がひとつ。

「ニヒヒ! 取り出したるは漆黒の塊──これなーんだ?」

 そう。
 ナナミがスカートのポケットから取り出したのは、『SHOP』で購入した漆黒の塊。

 ロシア製「RGD-5」手榴弾だ!

 そこにつけられた安全ピンを口に加えると───……。

 ピィン♪
 軽い音を立ててピンがスルリと抜ける。

 そして、レバーを握ったまま、振りかぶるナナミ。

 えーーーい!

「しゅりゅーーーーーだんッ♪」

 大きく振りかぶってぇぇぇ……───投擲(フラグアゥ)ッ!

 空中でクルクルと回った手榴弾。
 その途中で、パィィン♪ とレバー跳ね上がってハンマーが開放されると信管に着火。
 ポンッ!
 と軽い音を立てて白煙が噴き出した。


 そして──────……。


 ポト。

《ごるぁ?》
《ごぁぁあ!?》

 距離よし、
 方向よし、
 全部よし!!

 手榴弾は、突っ込んできたオーガの集団のど真ん中に見事にボッスン! と──……。

《《ごるぅ──────》》


 ───バァァァァアアアン!!


《《ゴガァァァアアアアア?!》》

「いぇあ♪」

 人知れずガッツポーズを決めたナナミ。

 オーガども目掛けて、TNT110gが遺憾なく威力を発揮!
 ロシア製手榴弾は外殻を含めて300個近い破片を撒き散らし、オーガの集団を薙ぎ倒した。

《ゴガァァァアア……!》
《ゴァァァアア───!》

 バタバタと倒れる個体に、軽く浮き上がって四肢が捥がれる個体とそれはもう様々。

 だけど、
「───わ?! すっごい……直撃したのに動いてるよー」

 ナナミの眼前では信じられない光景。

 全てとはいかないまでも、集団のど真ん中に落ちた手榴弾は、大量のオーガに直撃ないし、至近弾となっての四肢を捥ぎ取り、そしてその命をも奪うはずだったのだが……。

《《ごるるるるぅ…………》》

 十体ほどがヨロヨロと起き上がる。

 動けなくなった奴もいるようだが、即死した個体はほとんどいないようだ。

 しかし、さすがのオーガも手榴弾には度肝を抜かれたらしく、無傷の個体も及び腰。

「あー。デカいからタフなんだね~?」

 だ、け、ど───。

「───手榴弾は小手調べ。ニヒヒ。……戦場ではビビったら負けなんだよ?」

 だよ?
 
 じゃぁ、
 ナナミ……──────突撃しま~す!!

「たりゃぁぁぁあああああ!!」

 ダダダッ! と勢いをつけて走り込み、必中の距離まで接近すると、
「セーフティ解除───……闇夜に雪が降るが如く、」

 ストックに頬付けし、
 脇は締めて衝撃を吸収。

 照準をあわせて──────。
 撃つべしッ!!!───バァァン!! 

 強烈なマズルフラッシュが視界を焼き、7.62mm弾を発射した反動がナナミの華奢な体に降りかかるも、彼女は美しい射撃姿勢で完全に受け止める。

 単発で発射された7.62mm弾がオーガの一体に命中!

《ゴァア!?》

 腹の肉を抉り取り、どす黒い血を撒き散らす。

「集団戦だよ! 盛大に叫んでくれなくっちゃあ!」

 バァァン、バァァン!!

 ダブルタップでオーガの集団目掛けて、撃つわ撃つわ!

 AK-47の7.62mmは反動がつよく、銃口がブレる。
 しかも曲床銃床のため、反動がもろに肩に来るため連続射撃には向いていない。

《ゴアァァァァアア、ガァァァァアアア!》

 だが、ナナミの腕は確かで次々にオーガに命中。奴らが恐ろしい叫び声をあげて転げまわっていた。

「フルオートなんて飾りなんだよ!」

 だけど、これだけ数が多くて的がデカいなら、

「どこに撃っても当たるかなぁぁぁあ!!」

 バババババババババババババババッッ!!

 すでに戦意を失い始めていたオーガ達。
 だが、ナナミは容赦しない───猛を傷つけようとした獣に情けなどいらない。

《《《グギャァァァアアアアア》》》

 無理にヘッドショットを狙わずに確実に当たる場所目掛けて、ナナミは腰だめでフルオート射撃!

 小さな体が反動でひっくり返りそうになりながらも、射撃姿勢を維持してバリバリと撃ちまくる。

 そして、あっという間に30連発弾倉を打ち尽くすと、

「リロード!!」

 空になった弾倉を放り捨て、流れるような動作で防弾チョッキの弾倉入れから予備のマガジンを引き抜き再装填。
 カコッ───カシャ!!

「そして、撃つべし撃つべし、撃つべしぃぃぃいい!」

 バァン、
 バババババババババババババッ!!

 腰だめに構えての連続射撃!
 そして、オーガの集団を圧倒していくナナミ。

 接近し、射撃!

 バババババババババババッ!!

 接近し、射撃!!

 バンッ、バンバンバンバン!!

「リロード!」
《ゴルァァアア!!》

 ナナミが弾倉を交換する僅かな隙───。
 ザワリとした寒気に襲われて反射的に振り返る。

 そして……、

「ナナミ?! に、逃げろぉ!」

 ナナミが気づくよりも先に猛が気付いてくれた!
 だけど、それでも遅いッ!!

 振り返った瞬間、そいつが起き上がった。
 手榴弾でぶっ飛ばされた満身創痍のオーガが起き上がった!
 
 そうとも、奴は死んだふりをしていた。

 激痛に耐えながら、小癪な人間に一泡吹かせてやると、この瞬間を狙っていた!

 そうとも、戦意は上々!!

《ゴルァァァァァァアアアア!!》

 ナナミの接近を虎視眈々と狙っていたそいつが腕を───……!

「やめろぉぉぉぉおおおお!!」

 猛は猛で善戦中。
 曲刀を振り回しオーガを圧倒しているが如何せん数が多い!
「くそ!!」
 ナナミを援護できぬまま必死で数を減らしていたのだが、ナナミが不用意に接近したその隙を狙っている奴がいた事に気付けなかった。
 気付いたときにはもう、遅い!!

《グルァァァアアアアアアアアア!!》

 ナ、

 ナ、

 ミぃぃぃいい!!!

 そいつは精強だった。
 手榴弾でぶっ飛ばされても死なず。(はらわた)がはみ出ているのに呻き声一つ上げず。

 まさに死に体のオーガだ。

 だが、激痛の中も戦意は失せておらず、そうしてまんまと接近してきたナナミを握りつぶしてやるとばかり───!!

 ついに、ナナミを握りつぶせる必中距離で奴は雄たけびを上げた!

 勝った!
 勝ったのだ───! と。

 その瞬間、猛の視界がドロリと濁る。
 ナナミの最期が訪れようとしたことを察して、猛の視界はスローな世界に代わっていく。

 弾切れになったナナミ。

 そして、その瞬間を待っていたとでも言わんばかりに必殺の距離でナナミに襲い掛かるオーガ。

 まるで非現実的な光景……。

 猛の……。
 猛の大事な大事な幼馴染が……オーガに────握りつぶされるその瞬間…………。


 や、

 やめろぉぉぉおおおおおおおおおお!!


 な、ナナミが………………死ぬ?


 な、な、な──ナナミいぃぃぃぃぃぃいいいいいいい!!