午後の授業を全てサボった俺は律儀に帰りのホームルームだけは参加した。斉藤はサボりのことには触れずホームルームを進行した。まだ、五時間目と六時間目の教師からは報告を受けていないのだろう。ということは噴火は明日か。
どうせ怒られるのならば今この場で自首をすれば情状酌量で少しはマシかもしれないが、やつらに恐れおののいて脱線させた筋書きの本線に自ら戻ろうとするのはやつらに屈服したような気がしたのでそのまま下校の途についた。
自分は割かし合理的な性格だとは思っていたが、案外そうでもないようだ。昇降口を出てすぐ雲の合間から太陽が照り付け、首筋が汗ばんだ。あの女は天気予報を見間違いたに違いない。傘なんて持って来ていないから少し不安であったがどうやら杞憂のようだ。自宅は高校から徒歩十分ほどの近場だ。いつもどおり、俺は正門を抜け、商店街に着いた。
商店街に人通りはなく、開いている店もほとんどないシャッター街であった。開いている店も客足はほとんどない。古着屋の店主の爺さんはレジのカウンターに頬杖をついて眠っているほどだ。
小学生のころはたくさんの店が営業していて、多くの人がこの通りを歩いていた。俺も賑やかな商店街を秋穂に手を引っ張られて駄菓子屋にお菓子を買いに行っていた。
店主のおばあちゃんは優しく「いつもこれおまけだよ」と飴をくれた。今はもうその駄菓子屋は閉店している。あの優しいおばあちゃんは今どうしているのかわからない。お互いに顔だけは知っていて名前なんてものは一度も聞いたことなんてないし、聞かれたこともなかった。
閉店に気がついたのは中学校に上がってからだった。そのときは駄菓子屋に行くことはなくなり、おばあちゃんのことも忘れていた。シャッターのかかった思い出の駄菓子屋を見ても俺は悲しくはならなかった。「ああ潰れたんだ」と思っただけだった。そのときに駄菓子屋での出来事はノスタルジーな思い出ではなくただの記憶の一つに過ぎないんだと自覚した。自分の中ではおまけをもらう度に笑顔で心からお礼を言っていたと思う。それなのに悲しさを感じなかったのは思っているほどに他人に無関心に生きていたんだなと。
今まで一緒に遊んでいた友達が転校して「また会おうね」という約束が果たされることのないように親密に見せかけた希薄な関係をその事実に気づかないまま、あるいは気づかないフリをして生き続けているのだろうということをそのときに知ってしまったのだ。
そんなことを思い出しながら寂れた通りを歩いているとポツリと雫が頭に落ちたのに気づいた。その水滴を皮切りに激しく雨が降り出した。先ほどまで快晴の空はいつの間にか雲に覆われていた。
おい、ふざけんなよ。晴れの予報を信じていたから傘などは持っていない。寝ていた古着屋の店主は目を覚まし、大慌てで軒先に出している売り物の服を店内にしまいだした。急いで近くのシャッターの閉まった店の軒先に入って雨を避けた。
ポケットからハンカチを取り出し濡れた頭と顔を拭いた。濡れたワイシャツが気持ち悪い。最悪だ。一向に降り続ける雨を見ながらあの屋上の女を思い出した。
何であの女は雨が降るってわかったのだろうか。テレビやネットの色んな天気予報に差異は多少あれど、どれもが晴れを予報するだろう。あの女はツバメが低く飛んでいるのでも見えたのか。あるいは田舎の方には「雨の匂い」がわかる人が多いと言う。あいつもそういう「特殊能力」を持った類なんだろうか。
そんなことをしばらく考えている内に雨が止んだ。家に帰って濡れた服を脱いでしまいたい。俺は軒下を出ると、駆け足で帰途についた。学校をサボって帰った日のずぶ濡れは気にはならなかったけども今日は早く帰ってしまいたかった。
どうせ怒られるのならば今この場で自首をすれば情状酌量で少しはマシかもしれないが、やつらに恐れおののいて脱線させた筋書きの本線に自ら戻ろうとするのはやつらに屈服したような気がしたのでそのまま下校の途についた。
自分は割かし合理的な性格だとは思っていたが、案外そうでもないようだ。昇降口を出てすぐ雲の合間から太陽が照り付け、首筋が汗ばんだ。あの女は天気予報を見間違いたに違いない。傘なんて持って来ていないから少し不安であったがどうやら杞憂のようだ。自宅は高校から徒歩十分ほどの近場だ。いつもどおり、俺は正門を抜け、商店街に着いた。
商店街に人通りはなく、開いている店もほとんどないシャッター街であった。開いている店も客足はほとんどない。古着屋の店主の爺さんはレジのカウンターに頬杖をついて眠っているほどだ。
小学生のころはたくさんの店が営業していて、多くの人がこの通りを歩いていた。俺も賑やかな商店街を秋穂に手を引っ張られて駄菓子屋にお菓子を買いに行っていた。
店主のおばあちゃんは優しく「いつもこれおまけだよ」と飴をくれた。今はもうその駄菓子屋は閉店している。あの優しいおばあちゃんは今どうしているのかわからない。お互いに顔だけは知っていて名前なんてものは一度も聞いたことなんてないし、聞かれたこともなかった。
閉店に気がついたのは中学校に上がってからだった。そのときは駄菓子屋に行くことはなくなり、おばあちゃんのことも忘れていた。シャッターのかかった思い出の駄菓子屋を見ても俺は悲しくはならなかった。「ああ潰れたんだ」と思っただけだった。そのときに駄菓子屋での出来事はノスタルジーな思い出ではなくただの記憶の一つに過ぎないんだと自覚した。自分の中ではおまけをもらう度に笑顔で心からお礼を言っていたと思う。それなのに悲しさを感じなかったのは思っているほどに他人に無関心に生きていたんだなと。
今まで一緒に遊んでいた友達が転校して「また会おうね」という約束が果たされることのないように親密に見せかけた希薄な関係をその事実に気づかないまま、あるいは気づかないフリをして生き続けているのだろうということをそのときに知ってしまったのだ。
そんなことを思い出しながら寂れた通りを歩いているとポツリと雫が頭に落ちたのに気づいた。その水滴を皮切りに激しく雨が降り出した。先ほどまで快晴の空はいつの間にか雲に覆われていた。
おい、ふざけんなよ。晴れの予報を信じていたから傘などは持っていない。寝ていた古着屋の店主は目を覚まし、大慌てで軒先に出している売り物の服を店内にしまいだした。急いで近くのシャッターの閉まった店の軒先に入って雨を避けた。
ポケットからハンカチを取り出し濡れた頭と顔を拭いた。濡れたワイシャツが気持ち悪い。最悪だ。一向に降り続ける雨を見ながらあの屋上の女を思い出した。
何であの女は雨が降るってわかったのだろうか。テレビやネットの色んな天気予報に差異は多少あれど、どれもが晴れを予報するだろう。あの女はツバメが低く飛んでいるのでも見えたのか。あるいは田舎の方には「雨の匂い」がわかる人が多いと言う。あいつもそういう「特殊能力」を持った類なんだろうか。
そんなことをしばらく考えている内に雨が止んだ。家に帰って濡れた服を脱いでしまいたい。俺は軒下を出ると、駆け足で帰途についた。学校をサボって帰った日のずぶ濡れは気にはならなかったけども今日は早く帰ってしまいたかった。