風が吹き、屋上を取り囲んでいる朽ちたフェンスの軋む音が耳に届き、目を覚ました。快晴の太陽の眩しさにもう一度目を瞑った。
やはり昼食後はどうも眠くなってしょうがない。仰向けになりながらまどろみの目を擦ると制服のズボンのポケットに手を突っ込み、タバコと百円ライターを取り出した。
出の悪いライターと少しばかり格闘するもタバコに火をつけゆっくりと吸い込んだ。喉が焼けるような気がしたが、またゆっくりと煙を吐き出した。
授業を威風堂々サボるにはやはり屋上は丁度良い場所であった。ここは教師の巡回もなく、平然と軽犯罪を行うことができるのだから。しかも、朝の天気予報では梅雨なのに奇跡的に一日晴れの予報だ。
薄目を開けながらもう一度煙を吐き出した。その煙を見て、発射された核ミサイルから景気よく吐き出された真っ赤な炎とおどろおどろしい噴煙を想起した。なぜこんなことを想像したのかはわからない。けれども青空から放物線を描いた弾頭が大地に突き刺さった瞬間、何が起きたかわからないまま強烈な光と熱風に包まれ死んでゆくイメージが頭に浮かんだ。
だけど、そんな妄想がすぐにバカバカしくなってきた。そして、再び眠くなってきたため転がっているジュースの空き缶を灰皿にしてタバコの火を消し、目を閉じ眠りに落ちようとしたときだった。
「武蔵飛鳥くん。いけないんだ!屋上は生徒立ち入り禁止だよ!」
自分の名前を呼ばれてまさか教師が巡回で来たのかと思い、寝ぼけたまま声のする方を向くと、制服に身を包み長い髪をなびかせた見知らぬ女子が一人。
周囲を見ても俺ら二人以外はこの屋上には誰もいない。なんだ、教師じゃないか。声の主はいたずらな笑顔を浮かべながらこちらを見ている。誰だろうか。てか、あんたも生徒だろ。まあいい、気にせずもう一度眠ろうと目を瞑ったときだった。
「あ、そうだ」
と彼女は声を上げた。
「今日はこれから雨が降るらしいね」
晴れの天気予報でこんな雲一つない快晴の空の下、何を言っているんだろうか。「天気予報の見間違いじゃないのか」と反論しようと思ったけれども、眠さと気だるさが勝り、そんな疑問をぶつけず、見知らぬ女子に「ああ、わかったよ」と面倒くさそうに言うと、この女子はいたずらな笑顔から急に澄ました表情を浮かべて空を仰ぎ見た。
「ねえ、もし世界が終わるとしたら君はどうする?」
何を意図して聞いてきた質問かわからなかったが、さっきの核ミサイルの妄想のせいか適当にあしらうわけでもなく少し考えてから答えた。
「いや、わかんねえわ」
そう呟くと彼女は声を上げて笑い出していた。
その朗らかな笑い声で俺はうつつにやっと戻され、はっきりとその女子の顔を見た。白く透き通り、艶やかな顔。大きな瞳は真っ直ぐこちらを見ているがその奥は白刃の光沢が隠れているような鋭さを持っていた。「誰だ?お前」と聞こうとした瞬間。キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴り響いた。
「予鈴が鳴ったからバイバイ!」
そう言って、その見知らぬ女子は手を振りながら屋上の入り口に駆けていき、どこかへ行ってしまった。
彼女が立ち去り、青空とアスファルトの間に独りポツリと取り残されて起き上がり、天に向かって背筋を伸ばした。
「そういえば何であいつ俺の名前知ってるんだ?」
今さらになってそんなことを呟き、しばらく考えていると再びキーンコーンカーンコーンと今度は五時間目開始を告げる本鈴のチャイムが鳴り響いた。
今日のホームルームか遅くとも明日の朝には教師たちの筋書きから逸れるようなことをしたからこっぴどく怒られるんだろうな。どうせ怒られるのであれば、毒を食らはば皿まで。いっそ六時間目もサボってしまおう。
そんな小さな覚悟を決め、もう一度寝心地の悪いアスファルトの上に横になった。
やはり昼食後はどうも眠くなってしょうがない。仰向けになりながらまどろみの目を擦ると制服のズボンのポケットに手を突っ込み、タバコと百円ライターを取り出した。
出の悪いライターと少しばかり格闘するもタバコに火をつけゆっくりと吸い込んだ。喉が焼けるような気がしたが、またゆっくりと煙を吐き出した。
授業を威風堂々サボるにはやはり屋上は丁度良い場所であった。ここは教師の巡回もなく、平然と軽犯罪を行うことができるのだから。しかも、朝の天気予報では梅雨なのに奇跡的に一日晴れの予報だ。
薄目を開けながらもう一度煙を吐き出した。その煙を見て、発射された核ミサイルから景気よく吐き出された真っ赤な炎とおどろおどろしい噴煙を想起した。なぜこんなことを想像したのかはわからない。けれども青空から放物線を描いた弾頭が大地に突き刺さった瞬間、何が起きたかわからないまま強烈な光と熱風に包まれ死んでゆくイメージが頭に浮かんだ。
だけど、そんな妄想がすぐにバカバカしくなってきた。そして、再び眠くなってきたため転がっているジュースの空き缶を灰皿にしてタバコの火を消し、目を閉じ眠りに落ちようとしたときだった。
「武蔵飛鳥くん。いけないんだ!屋上は生徒立ち入り禁止だよ!」
自分の名前を呼ばれてまさか教師が巡回で来たのかと思い、寝ぼけたまま声のする方を向くと、制服に身を包み長い髪をなびかせた見知らぬ女子が一人。
周囲を見ても俺ら二人以外はこの屋上には誰もいない。なんだ、教師じゃないか。声の主はいたずらな笑顔を浮かべながらこちらを見ている。誰だろうか。てか、あんたも生徒だろ。まあいい、気にせずもう一度眠ろうと目を瞑ったときだった。
「あ、そうだ」
と彼女は声を上げた。
「今日はこれから雨が降るらしいね」
晴れの天気予報でこんな雲一つない快晴の空の下、何を言っているんだろうか。「天気予報の見間違いじゃないのか」と反論しようと思ったけれども、眠さと気だるさが勝り、そんな疑問をぶつけず、見知らぬ女子に「ああ、わかったよ」と面倒くさそうに言うと、この女子はいたずらな笑顔から急に澄ました表情を浮かべて空を仰ぎ見た。
「ねえ、もし世界が終わるとしたら君はどうする?」
何を意図して聞いてきた質問かわからなかったが、さっきの核ミサイルの妄想のせいか適当にあしらうわけでもなく少し考えてから答えた。
「いや、わかんねえわ」
そう呟くと彼女は声を上げて笑い出していた。
その朗らかな笑い声で俺はうつつにやっと戻され、はっきりとその女子の顔を見た。白く透き通り、艶やかな顔。大きな瞳は真っ直ぐこちらを見ているがその奥は白刃の光沢が隠れているような鋭さを持っていた。「誰だ?お前」と聞こうとした瞬間。キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴り響いた。
「予鈴が鳴ったからバイバイ!」
そう言って、その見知らぬ女子は手を振りながら屋上の入り口に駆けていき、どこかへ行ってしまった。
彼女が立ち去り、青空とアスファルトの間に独りポツリと取り残されて起き上がり、天に向かって背筋を伸ばした。
「そういえば何であいつ俺の名前知ってるんだ?」
今さらになってそんなことを呟き、しばらく考えていると再びキーンコーンカーンコーンと今度は五時間目開始を告げる本鈴のチャイムが鳴り響いた。
今日のホームルームか遅くとも明日の朝には教師たちの筋書きから逸れるようなことをしたからこっぴどく怒られるんだろうな。どうせ怒られるのであれば、毒を食らはば皿まで。いっそ六時間目もサボってしまおう。
そんな小さな覚悟を決め、もう一度寝心地の悪いアスファルトの上に横になった。