次の日の昼休み、俺は五時間目の体育をサボろうと心に決めていた。先日の早退騒動でしばらくは真面目に過ごそうと考えていたが、その意思を曲げる出来事があったのだ。
三時間目と四時間目の休み時間、情報の授業のため情報処理室に向かっていたときだった。情報処理室に向かうには職員室の前を通らなくてはいけなく、何気なく職員室の前を歩いていると半開きの扉から担任の斉藤の声が聞こえてきた。
「武蔵の奴を今日反省させるんですか?」
斉藤の口から俺の名前が出て来たので、思わず立ち止まり耳を澄ました。
「あいつは一昨日私をコケにしたんでね。やり返してやりますよ」
会話の相手は内容と声から察するにあの体育教師だ。やり返す?一体何を話しているんだ?
「今日の五時間目の体育であいつをみんなの前に引きずり出して怒鳴り散らして、全員に向けて大声で謝らせてやるんですよ」
「それはいいですね。あの武蔵も少しはまともになるんじゃないですかね」
一連の会話を聞いた俺は面倒なことだと思い舌打ちをした。その場から立ち去ろうとしたときだった。半開きの扉から斉藤が愚痴を吐くように言った。
「あいつは生意気で嫌いなんですよね。特にあの目つき。大人をバカにしてるように睨んでいるような。もう退学にさせたいですよ」
半開きの職員室の扉を蹴飛ばして閉めると、あの二人が気付いて廊下に出て来る前にと急ぎ足で俺は情報処理室に向かった。
今さら斉藤に嫌われていることは俺にとってはどうでも良かった。ただ、あの二人の教師の思い描く俺を反省させるための罰、自分の知らないところで書かれた台本に踊らされてあいつらを愉悦に浸らせることが腹立たしかった。
忠之と昼食を食べ終え、時計を見ると五時間目の体育が始まるまで三十分ほどであった。クラスメイトたちはちらほら更衣室で制服から体育着に着替え終えている者もいた。やるなら今の内だ。自動販売機で買っておいたオレンジジュースの缶を片手に昼休みの賑やかな教室を人知れず抜け出した。
クラスメイトや巡回の教師に見つからないように階段を上り、埃の溜まった踊り場の錆びついた屋上への扉を開けた。本来であれば屋上は生徒の出入りが禁止されており、扉にも鍵がかかっているのだが、以前、扉をガチャガチャと動かしたら年季が入っているせいか開いてしまったのだ。それ以来、手ごろな隠れ場所として時折利用している。
扉を開けると、雲一つない快晴の空の下フェンスに囲まれた屋上出た。そのまま屋上の中央まで歩くき、その場に座りこんだ。持って来た缶ジュースのプルタブを開け一気に喉の奥へ流し込んだ。美味い。柑橘の甘さと酸っぱさ以上にしがらみからの解放感がその味を引き立てているようだ。飲み干すと俺は横になった。ごつごつした床の寝心地はお世辞にも良いとは言えないが、静かに一人きりになれるのは幸いであった。気持ちの良い天気にあくびを一つした。身体が沈むように目を閉じた。
三時間目と四時間目の休み時間、情報の授業のため情報処理室に向かっていたときだった。情報処理室に向かうには職員室の前を通らなくてはいけなく、何気なく職員室の前を歩いていると半開きの扉から担任の斉藤の声が聞こえてきた。
「武蔵の奴を今日反省させるんですか?」
斉藤の口から俺の名前が出て来たので、思わず立ち止まり耳を澄ました。
「あいつは一昨日私をコケにしたんでね。やり返してやりますよ」
会話の相手は内容と声から察するにあの体育教師だ。やり返す?一体何を話しているんだ?
「今日の五時間目の体育であいつをみんなの前に引きずり出して怒鳴り散らして、全員に向けて大声で謝らせてやるんですよ」
「それはいいですね。あの武蔵も少しはまともになるんじゃないですかね」
一連の会話を聞いた俺は面倒なことだと思い舌打ちをした。その場から立ち去ろうとしたときだった。半開きの扉から斉藤が愚痴を吐くように言った。
「あいつは生意気で嫌いなんですよね。特にあの目つき。大人をバカにしてるように睨んでいるような。もう退学にさせたいですよ」
半開きの職員室の扉を蹴飛ばして閉めると、あの二人が気付いて廊下に出て来る前にと急ぎ足で俺は情報処理室に向かった。
今さら斉藤に嫌われていることは俺にとってはどうでも良かった。ただ、あの二人の教師の思い描く俺を反省させるための罰、自分の知らないところで書かれた台本に踊らされてあいつらを愉悦に浸らせることが腹立たしかった。
忠之と昼食を食べ終え、時計を見ると五時間目の体育が始まるまで三十分ほどであった。クラスメイトたちはちらほら更衣室で制服から体育着に着替え終えている者もいた。やるなら今の内だ。自動販売機で買っておいたオレンジジュースの缶を片手に昼休みの賑やかな教室を人知れず抜け出した。
クラスメイトや巡回の教師に見つからないように階段を上り、埃の溜まった踊り場の錆びついた屋上への扉を開けた。本来であれば屋上は生徒の出入りが禁止されており、扉にも鍵がかかっているのだが、以前、扉をガチャガチャと動かしたら年季が入っているせいか開いてしまったのだ。それ以来、手ごろな隠れ場所として時折利用している。
扉を開けると、雲一つない快晴の空の下フェンスに囲まれた屋上出た。そのまま屋上の中央まで歩くき、その場に座りこんだ。持って来た缶ジュースのプルタブを開け一気に喉の奥へ流し込んだ。美味い。柑橘の甘さと酸っぱさ以上にしがらみからの解放感がその味を引き立てているようだ。飲み干すと俺は横になった。ごつごつした床の寝心地はお世辞にも良いとは言えないが、静かに一人きりになれるのは幸いであった。気持ちの良い天気にあくびを一つした。身体が沈むように目を閉じた。